2024年に観光産業で注目すべき4つの法律、ライドシェアから観光バスのドライバー不足(2024年問題)まで、4人の弁護士が解説
(トラベルボイス 2023年1月15日)
https://www.travelvoice.jp/20240115-154875

【ホッシーのつぶやき】
「ライドシェア」や「2024年問題」は、人口減少による「労働者不足」と「働き方改革」に根っ子があり、これらを解決させるため「DX化」を進める以外にないと考えられている。
その結果として「適正な運賃による賃上げ」と「事故発生時の責任の所在」など法改正の議論が続いている。時代はハードランディングに向かっているようだ。

【 内 容 】

2024年が幕を開いた。今年も、観光産業ではビジネス環境の変化、そのスピードが加速していくだろう。新年を迎えるにあたり、日本の航空・観光産業の関係者が法務の視点で気にしておくべきことは何か? 西村あさひ法律事務所・外国法共同事業の4名の弁護士が、今後、観光ビジネスに少なからずインパクトをもたらすと考えられる注目すべき4つの法務トピックスをまとめた。

  1. ライドシェア導入への議論 ―千石克(せんごく かつ)
    2023年10月、岸田文雄首相がライドシェアの課題に取り組む旨を明言し、11月からは内閣府規制改革推進会議の「地域産業活性化ワーキング・グループ」における有識者間での検討がスタートしました。また、12月には、デジタル行財政改革会議において、岸田首相が、2024年4月をもってタクシー会社に限定したライドシェアを解禁することを発表しており、タクシー会社以外の事業者参入についても、第二段階の議論として、2024年6月を目途に判断されることになっています。

なお、上記ワーキング・グループでは、国内のライドシェア法制の枠組みとして、主に、1.自家用車の有償運送での使用を例外的に認める現行道路運送法78条(特に3号)の改正または運用見直し、2.新法制定という2つが示されており、1.はあくまで暫定的措置であって、最終的には、2.の新法制定の検討を速やかに進めるべきという意見も出ていました。

諸外国のライドシェア法制に目を向けると、そのあり方はさまざまです。海外の法制をあえて分類すると、プラットフォーマーを運転手と乗客とを結ぶネットワークの提供者と位置づける法制度と、プラットフォーマーを運送サービスの提供者と位置づける法制度とに大別できますが、分類毎の内容は一様ではありません。参入事業者の範囲はもとより、運転手の資格、運行管理の方法、事故時の責任など個々の論点は、いずれの分類を念頭に置いても等しく問題となるものであって、結局は、各国ごと、その時々の状況に照らして適切な制度が模索されているといえます。

今後、国内に導入すべきライドシェア法制を模索する中で解決すべき課題は少なくありませんが、固定観念にとらわれない建設的な議論が期待されます。

  1. 「2024年問題」、ドライバー業務の時間外労働制限 ―原田実侑(はらだ みゆ)
    いわゆる「2024年問題」とは、自動車運転業務について時間外労働時間の上限が設定されることに伴う輸送力不足に関する問題です。働き方改革の一環として2019年に改正された労働基準法は、時間外労働の上限を規定しています。

自動車運転業務を含む一部の業務は、その特性上、時間外労働の上限についての適用が5年間猶予されていましたが、2024年4月からは、自動車運転業務の時間外労働の上限が年間960時間となります。また、これに伴い、自動車運転者の労働時間管理を考える上で重要となる拘束時間、休息時間、運転時間等の基準に係る告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)も改正されています。

これらの改正の施行によって、物流業界では、ドライバー1人あたりの労働時間が減少し、結果として業界全体での輸送量が減少することや、ドライバーの収入減による人材流失がそれに拍車をかけることが懸念されています。また、観光分野では、一般貸切旅客自動車運送事業としての観光バス事業や一般乗用旅客自動車運送事業としてのタクシー事業等がこれらの制度改正の対象になり、事業種毎に細かなルールが異なるため注意が必要です。

このような問題に対して、政府の関係閣僚会議は、2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」、同年10月に「物流革新緊急パッケージ」を策定しました。これらのパッケージの内容としては、モーダルシフトの推進を含む物流の効率化、荷主・消費者の行動変容、商慣行の見直しが含まれ、2024年の通常国会では適正な運賃の収受、賃上げの法制化の検討が予定されています。さらに、各事業者も食品や日用品等で共同輸送を実施するなど、解決策を模索しています。

また、日帰りバスツアー等、旅行会社の企画するツアー内容にも影響が出てくるものと思われ、観光業界においても検討が求められます。各業界において、政府と事業者を含めた取組みによる2024年問題の解決が期待されます。

  1. 空港保安検査、責任主体の変更への議論 ―赤松祝(あかまつ はじめ)
    2023年は国際線の航空需要が伸びる一方、各空港において航空機の地上誘導などを担うグランドハンドリングや保安検査の人手不足がボトルネックとなり、航空会社からの新規就航や増便の希望を受け入れられない事態が続きました。

若手人材の登用は進まず、2024年も業界全体における取組みが必要になると考えられます。これに加え、国土交通省は2023年6月に「空港における旅客の保安検査の実施主体及び費用負担の見直しの方向性」を発表し、保安検査の実施主体を航空会社から国管理空港では国、会社管理空港では空港会社、地方管理空港では地方自治体、コンセッション空港では運営会社とする方向を示しました。

これをうけて保安検査の実施主体の議論には一定の進展を見ることが予測されます。また費用負担についても、これまで実施主体である航空会社が5割を負担し、残り5割を旅客一人あたりに定めている保安関係料金で充当していたところ、費用負担についても新たな仕組み構築の必要性が提唱されており、議論が進むことが予測されます。

実施主体の責任主体の変更は、保安検査に起因して航空会社に生じた損害賠償や、追加コスト等が発生した際の責任分担に関する法的整理や、それに関連した航空保険商品等の必要性も生じさせ、業界関係者全体を巻き込んだ議論が必要と考えられます。これまでは航空会社とグランドハンドリング事業者との間の契約関係にて規律されていたところに、新たな責任主体が登場することによって、航空会社、空港運営主体、保安検査主体、グランドハンドリング事業者の関係調整も必要になると考えられます。

一方、このような議論は、オペレーションの効率化を目指した最先端の保安検査機器の導入等、航空オペレーションのDX化を進める契機にもなり得るため、注目すべきトピックになるでしょう。

  1. 持続可能な航空燃料(SAF)利用の規制・支援への動向  ―吉井一希 (よしい かずき)
    持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel、SAF)は、廃食油、サトウキビなどのバイオマス燃料や、都市ごみ、廃プラスチックを用いて生産される燃料をいいますが、これを航空機のジェット燃料と混ぜて燃やすことで、CO2排出量を抑えることが期待されており、航空分野の脱炭素化の鍵となると考えられています。

SAFの導入促進は、国際的なトレンドとなっており、諸外国でも、SAF利用を義務化する制度が導入されています。たとえば、EUにおいて、2023年11月、「ReFuelEU Aviation」と呼ばれる新たな規則が発効し、これによって、航空燃料供給者は、2025年以降、一定比率以上のSAF・合成燃料の混合を義務づけられることとなりました(最低混合比率は段階的に上昇)。また、SAFの生産や技術開発などに関する支援策も導入され、例えば米国では、2022年8月に成立したインフレ抑制法(Inflation Reduction Act、IRA)に基づき、種々の減税策や補助金が導入されています。

こうしたグローバルな動きのなか、日本政府も、2030年時点で日本のエアラインの燃料使用量の10%をSAFに置き換えるとの目標を設定したうえで、導入促進に向けた施策を検討・実施しています。規制面では、経済産業省が、2023年5月に、エネルギー供給構造高度化法において2030年のSAFの供給目標量を設定する(少なくとも航空燃料消費量の10%とする)方針を示しました。支援策としては、官民による投資の促進が掲げられるとともに、SAFの生産に対する法人税優遇措置が導入される見通しが報じられています。

SAFは、日本政府においても戦略分野の一つとして位置づけられるようになっており、国際的にも国内的にも重要性を増していることから、2024年も、国内外の規制・支援策に関する動向が注目されます。

執筆者プロフィール
千石 克 (せんごく かつ)
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 オブカウンセル。国内、クロスボーダーの航空機、船舶その他のアセットを対象としたファイナンス、トレーディング、リース等取引案件の組成、交渉及び実行をサポート。航空ビジネスプラクティスチームで産業全体のあらゆる法務問題・制度論に取り組む。

赤松 祝 (あかまつ はじめ)
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 アソシエイト。国土交通省航空局において空港の民営化事業に従事後、英国Cranfield Universityで航空ビジネスを研究、Air Transport Managementの修士号取得。航空ビジネスプラクティスチームで、航空・観光産業のビジネス構築に際する様々な法的問題へのアドバイスを提供。

吉井 一希 (よしい かずき)
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 アソシエイト。国際通商法(WTO協定、輸出入規制、経済制裁等)や競争法が専門分野。航空ビジネスプラクティスチームで観光・航空産業が直面する様々な法的問題(国内外の規制対応を含む)にアドバイスを提供。

原田 実侑 (はらだ みゆ)
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 アソシエイト。国内外のM&A・コーポレート、競争法を専門分野とするほか、観光産業・物流業界を含む業規制に関するロビイング支援、ルールメイキング案件にも取り組む。