「稼ぐ観光の実現」観光業界でGDP10%をどう実現していくか?
カテゴリーセッション:稼ぐ観光
(インバウンドサミット2021 2021年6月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=1Du9PO-bxhw

新津 研一:ジャパンショッピングツーリズム協会 代表理事
 三越で20年勤務。10年前にジャパンショッピングツーリズム協会 代表理事。
柴田 啓:ベンチャーリパブリック 代表取締役CEO
 6%観光の仕事。日本(トラベルJP・LINE公式アカウント)とシンガポール(trip101)で旅行サイトを運営。シンガポール在住。
シンガポールは、国が小さく国内旅行はほぼ皆無、クルーズで近海を行く旅行と、ホテルに宿泊するステイケーションが楽しみになっている。海外旅行がしたくて仕方がない状況。
蘇 俊達:Trip.comグループ日本 代表
 上海出身。日本の大学・大学院に6年在籍。NTTコミュニケーションを経てTrip.com入社。
Trip.comは1999年設立。現在会員数4億人。対応言語は21カ国。提携ホテル120万件。アプリからの予約が特徴。2016年に日本法人立ち上げに関与。
地場 裕理子:高知県観光コンベンション協会 国際誘致部 チーフ
 神奈川県出身。10年前に高知に魅せられIターン。国際誘致部でBtoBセールスやHP運営。

【ホッシーのつぶやき】
「観光でGDP10%稼ぐ」という刺激的なテーマでした。“GDP10%”とは、UNWTOがいう世界観光のGDPであり、日本は7%と他国より低いので、これを10%にするという設定ですが、どのように観光客数を増やし、単価を上げるのかについて、知見が得られました。
シンガポールの柴田さんの話が明快でした。アメリカにおける観光需要は、2020年は「一棟貸し」が大きく伸び、この夏の旅行消費は、19年比50%増の17兆円に躍進するといいます。また、「リモートで仕事ができることを知った方が地方に行く」パラダイムシフトが世界中で起きているそうです。
「単価を上げる」ことも「長期滞在」を視点に戦略を立てた方が良いと言い、旅館などのシステムは長期滞在に適していないと指摘されました。
「2030年に15兆円稼ぐ」のは難しい課題ですが、解決に向けて挑戦するしかないと感じました。

新津:本日のセッションは、次のように進めさせていただきます。
     オープニング  :「稼ぐ観光」「GDP10%」?
     ディスカッション:課題とヒント
     クロージング  :未来に向けて

新津:私たちにとって「稼ぐ」のは「ショッピング」になりますが、その額や関係者が多く、お土産として持って帰ってもらうこともあるので、ショッピング自体がメディア広告になり、波及効果も大きいです。
2019年の訪日外国人の消費額も4兆8千億円のうち買い物代が35%と1位です。日本が稼ぐ、地域が稼ぐということを考えたときにショッピングは外せないと思っていますが、政府も地域も「稼ぐ」を軸に考えてもらえないのが実情です。柴田さんは「ショッピングで稼ぐ」ことについてどのように思われますか?

柴田:ショッピングは目立たないが大きな分野であり、世界中どこも同じだと思います。世界の大きなカンファレンスでもションピングの話はまずでません。データとしては重要な位置付けとして取り上げられるのですが、データ化もされていない分野かと思います。

新津:地場さん、地域ではショッピングはどのように捉えられるものでしょうか?

地場:大都市に比べて、高知県のような地域は買い物できる場所も少なく、消費額も少ないです。しかし額が少なくとも「外貨を稼ぐ」ことは重要ですが、買おうと思った時に買える環境に現在は無いので、決済システムの整備が課題だと思っています。

新津:それでは「観光業界でGDP10%をどう実現していくか?」についてディスカッションしてまいります。この図はUNWTOでよく見かけるもので、世界の中では「GDPの10%」を占めているのが「観光産業」になります。日本の中でも「自動車産業」に次いで大きな影響を持っています。

世界の名目GDPに対する観光寄与額では、日本は世界3位となっていますが、率で見ると中国は11%、イタリアは13%に対し、日本は7%であり、先進国の中で見てもアメリカ8.6%、ドイツ9%なので、やはり日本は低いのが実情です。

今日のテーマの「GDP10%」も、世界水準の10%にどのようにすればいけるのかが課題となります。
日本のGDPは40兆円で、4.8兆円の7,1%が寄与額になります。この額は3千万人が16万円ずつ消費してくれる数字ですが、2030年の政府目標に持っていくためには、GDP 56兆円の10%の15兆円が寄与額となり、1.4倍にすることになります。
観光客数は6000万人ですから1,9倍。消費単価は25万円ですから1.6倍です。

そのためには、コロナからの回復はどうなるのか? 市場国はどこなのか? 新規はどのようにしてとるのか? リピータはどう確保するのか? と議論する必要があり、旅行消費単価を25万円に上げるためにはどうすればいいのか? 単価アップはどうやってやるのか? の議論が必要になります。
皆さんは、日本のポテンシャルとして「GDP10%は可能なのか」、どのように思われますか?

蘇:私は可能だと思います。特にインバウンドの力が大きいと思います。

柴田:私も可能だと思います。ただ、日本のGDP成長率はマイナスなので、他産業が弱くなり、相対的に観光の占める割合が大きくなり、達成するように思います。

地場:GDPを稼ぐのに高知県がどれだけ貢献できるのかと思います。地域にいると、観光消費額をどのように稼いだらいいのか、消費単価をどのようにあげたら良いのかをいつも考えていますが、15兆円のハードルは高いと思います。

新津:今日の議論は「インバウンドが復活する」ことを前提として、今、何をするべきかを議論して参りたいと思います。日本国内のコンテンツをどうするかの問題もありますが、一方で、お客様の立場で考える必要もあり、国際観光は国際競争することが前提なので、外国人のお客様は、日本の観光のことなど考えているはずもなく、宿泊数を伸ばせば良いという方もいますが、短くて良いというお客様もいて、遠くの人が良いと言っても近場の人で良いという人もいるので、多くの方にとってヒントとなるように議論したいと思います。
柴田さん、シンガポールで海外旅行される方の特徴についてお話しいただけますでしょうか。

柴田:これは「trip101」で「どの国の観光情報が読まれているか?」のコロナ前の図ですが、アメリカが一番多く、二番目に多いのが日本です。しかし、多くの国の情報が検索されている事が分かると思いますが、「観光」は世界戦なので、他国と戦わなければならないことになります。

シンガポールで運用している「trip101」の実績ですが、2020年もAirbnbのバケーションレンタル(一棟貸し)の予約が大きく伸びました。直近では、アメリカの旅行需要がさらに伸びています。今はホテルよりもAirbnbの方が選ばれています。
コロナ禍なので長期滞在ができて、多くの方が泊まるホテルより、家族だけで過ごす一棟貸しの方が安全といったニーズが高く、自然に触れたいといったニーズが重なっています。
また、アメリカのこの夏の旅行消費は、19年比50%増の17兆円という予測も出ており、約60%が自宅から100マイル(160km)以上離れた場所へ、1週間以上の旅行をする可能性が非常に高いと言います。
ここにヒントがあります。リモートで仕事ができることを知った方が、都会から離れ地方に行かれることが進むとみています。

 
コロナ前(2019年2月)の全世界の宿泊数は2,76泊で、コロナ禍(2021年4月)に3,76泊と36%増でした。日本でもコロナ前が1,68泊で、コロナ禍で2,09泊になりました。リモートワークによってワーク環境が変わったことで、パラダイムシフトが起きるとみています。
この流れは世界中で起こり始めており、日本もいかに取り込むかが「稼ぐ観光」のポイントだと思います。これはインバウンドだけでなく、地域の活性化にも大きな影響をもたらします。これは「関係人口」の話につながり、外国人も視野に入れるのが良いと思います。実際、世界のインフルエンサーも日本に長期滞在したいと言われます。しかし、受け入れてくれる場所が分からないそうです。

新津:蘇さん、中国の国内観光需要が増大しているようですが、現地の状況をお話しいただけますか。

蘇:このデータは「中国の2021年GWの旅行需要」のものですが、19年比で30%増加しています。また、プライベート旅行が増加しており、レンタカーは330%も増加しました。
アクチン接種は、21年5月に述べ5億回を超えており、21年末に全人口の接種完了が見込まれています。

 
海外旅行は、54%がアジア太平洋地域を希望し、日本が一番人気になっています。日本では、訪日旅行への取り組みは渡航開始が始まってからとの声を聞きますが、それでは遅いと思います。また、コロナの影響で、密を避けるため地方のチャンスが広がっています。ただし、地方からの情報発信は足りず、現地交通や決済問題などの整備も必要です。

新津:地場さん、今のお二人のお話をお聞きいただいて、いかにお感じですか?

地場:長期滞在の話と、都市より自然の話から、高知県でもお客様を増やせるチャンスが来ていると感じます。一方で、高知県の魅力をどれだけ出せるかということと、お客様が高知って「いいね」と思っていただいても、申し込みして、決済できる仕組みがないとダメだとのハードルも感じています。

新津:地場さん、「販売力の強化」について、柴田さん、蘇さんにズバリお聞きになられてはいかがですか。

地場:地域がOTAや旅行会社にアプローチしても、観光PRで終わってしまうようなことが多かったと思います。また商談にできる機会が少なく、うまく商談するためにアドバイスがあればお願いします。

蘇:弊社と高知県は協定を結んでいるので、これまでも中国向け情報発信をしてまいりました。今はコロナで、情報発信より、日本の玄関口として高知に行くプランを考える必要があると思います。また、いろいろ提案させていただきます。

柴田:先ほど「関係人口」の話をさせていただきましたが、戦略を立てるなかで「長期滞在」をどう実現するかが重要だと思います。長期滞在から移住まで視野に入れたロードマップを書いて、環境整備を進め、そのためにはどのようなアプローチをすれば良いかを考えた方が良いと思います。
例えば旅館ですが、1泊2食がセットになっており長期滞在には向いていません。旅館のような空間に長期滞在したいと思う方もおられると思いますが、今は選択の余地がありません。1泊2日の観光ではなくて、1週間滞在してもらうために何をすれば良いかを考えてはいかがでしょうか。
また外国人、日本人と差をつける必要もありません、

新津:インバウンドを推進しようとすると、お客様をどう呼ぶのかとか、お客様のことを中心に考えてしまいますが、ショッピングツーリズムをしていて良かったのは、観光事業者を増やすことができることです。例えば、観光案内所を10箇所作るのは難しくとも、観光客にウエルカムなお店を増やすことは可能です。そのような環境ができると「1泊増やそう」も可能となるので、事業者を増やすという観点も持っていただければと思います。
今日は、「GDP10%を稼ぐ」について考えてまいりました。「客数」については、兆しがあり、伸びていくこともデータで分かりました。「単価」については、「長期滞在」がヒントになりました。また宿泊も、飲食も、ショッピングも、アクティビティも単価アップの可能性があるし、今、準備しなければならないということが結論だと感じました。皆さんありがとうございました。