「ONSEN」はユニーク 海外ファンドが観光資源へ投資熱
(産経Biz 2019.6.2)
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/190602/mcb1906020901001-n1.htm

温泉に海外ファンドが投資を拡大しているという。
ソフトバンクグループ傘下の米フォートレス・インベストメント・グループは、約90の温泉施設やホテルを展開しており、今後4年間で最大4000億円を投資する構えだ。
米ベインキャピタルも、15年に傘下に収めた大江戸温泉物語など30以上の施設を展開している。
全国に温泉地は約3000カ所、宿泊施設数は1万3000カ所ある。
「公衆で裸にならない外国人にとって、温泉はユニークで日本の文化を感じやすい世界。ストライクゾーンだ」と話す。

【ポイント】
外国人旅行者向けサイトでも人気を集める「ONSEN」に対して海外ファンドが投資を拡大している。
インバウンド需要の強さを背景に、温泉施設の新設や既存のホテル・旅館の買収が熱を帯びており、関連する不動産投資信託(J-REIT)の資産も増勢にある。

今年2月に大阪市湾岸部の高層ビルに巨大な温泉型テーマパーク「空庭温泉」を開業したのは、ソフトバンクグループ傘下の米フォートレス・インベストメント・グループ。
「温泉は日本特有のもので、都会の温泉は大きな需要がある」とみている。
個室露天風呂に置く信楽焼の湯船や栃木県から運んだ庭園のしだれ桜はこだわりのアイテムだ。
外国人旅行者に加え、癒やしを求める働く女性客の獲得を狙い、利き酒のできる日本酒ショップや「ドラゴンボール」など1万5000冊のコミック本を置く休憩室も併設した。

フォートレスは日本で約90の温泉施設やホテルを展開しており、今後4年間でホテルなどを含む日本の不動産に最大4000億円を投資する構えだ。
系列REITのインヴィンシブル投資法人では2018年に12件のホテルを取得し、運用資産に占めるホテルの比率は昨年末時点で64.1%と1年前から3.2ポイント上昇した。

米ベインキャピタルも、15年に傘下に収めた大江戸温泉物語など30以上の施設を展開している。さらに3月に熊本県の「亀屋ホテル華椿」を取得し、4月には三重県で温泉リゾートを開業した。
温泉・温浴施設に特化した大江戸温泉リート投資法人の資産規模は367億円と1年間で約4割増えた。

米ファンドの温泉投資熱は金融市場でも注目を浴びている。
インヴィンシブルの投資口価格は今年に入り20%以上上昇し、大江戸温泉リートも10%近く上げ、東証REIT指数の上昇率6.6%を上回って推移している。

香港の投資ファンドであるオデッセイ・キャピタル・グループは昨年、新潟県越後湯沢の老舗旅館「松泉閣花月」を承継した。1955年創業の花月は設備投資負担で資金繰りが難航し、借り入れ先の地方銀行主導で進めた事業計画もうまくいかず、新たなスポンサー探しに至った。
オデッセイが招いた新支配人の下、ホームページ刷新や外部セールスを積極化で、売り上げは15%増えた。
オデッセイは「不景気と誤った経営のため、多くの旅館が過小に評価されたまま放置されているが、海や山などロケーションは抜群だ」と指摘。「日本のホスピタリティーセクターには驚異的な投資機会がある」とし、今後3年で5億ドル(約552億円)を投じ、日本の老舗旅館を20軒ほど取得する計画だ。

全国に温泉地は約3000カ所、宿泊施設数は1万3000カ所ある。
外国人旅行者の訪日目的で温泉とショッピングは、特にアジア勢の間で人気が高かった。

不動産助言会社のアイビー総研は、「公衆で裸にならない外国人にとって、温泉はユニークで日本の文化を感じやすい世界。ストライクゾーンだ」と話す。今後は後継者不足問題から売却物件が大量に出てくることもあり、海外ファンドはそのうまみを理解しているとみる。
中小基盤整備機構が2017年に全国1600の施設を対象にした調査によれば、温泉・観光地のホテル、旅館の5割で後継者が決まっていない。

ビズリーチは後継者不在の旅館承継のため、3月に新たなプラットフォームを立ち上げた。
「旅館は地域経済で目立つ存在。売却することにはいまだに抵抗があるようだ」としつつも、家業から企業への転換で存続の可能性があることが浸透し始め、かたくなな姿勢は少しずつ解けしているとの見方を示した。