これからの『インバウンド観光』 奥深い日本の魅力を伝えたい 講演概要③
(観光のひろば 2023年6月22日)
【講演概要】
文化庁が文化観光に舵を切った
『文化観光推進法』が2020年に制定されています。これまでの文化政策は「保護優先」でしたが、これからは「保存」と「活用」にと方向転換されます。
神社、仏閣、美術館の拝観料や入場料が安価に設定されているものも多く、祭、花火、お神楽などの無形文化財も無料のものが大多数です。祭りの警備にガードマンも必要です。みこしの担ぎ手もアルバイトが必要です。それらの費用を捻出する必要が出てきたのです。
今「高付加価値化」と「多様化」が求められています。「高付加価値化」とは「付加価値を高める」こと、「多様化」とは「今まで無かった体験」を加えることです。ローマ教皇のバチカン美術館の通常チケットは17ユーロ。それが早朝ツアーでは3倍、ディナー付き夜間ツアーでは10倍、特別ツアーでは300倍だと言います。日本の神社・仏閣の早朝拝観も始まりました。「精進料理」「朝の勤行」はこれまでもありました。これらをもう少し価値を高めて、高い価格で提供するという考え方です。
全国に34ある国立公園。自然破壊を防ぐ「保護」が中心でしたが、「観光立国」を目指す中で「活用」に向けての検討が進んでいます。2023年3月に閣議決定された『新たな観光立国基本推進計画』。「持続可能な観光地域づくり」を軸足として、環境・経済・地域社会と文化的観点でバランスの取れた旅行が模索されるとあります。
今一度、インバウンド観光を考える
今、団塊世代は75歳にさしかかっています。残念ながらアクティブシニアも80歳を超えると旅行をしなくなるといいます。これまでの観光を維持することが不可能になります。
「Z世代」とは15~25歳、「ミレニアル世代」とは、40歳以下の若い世代を指します。日本は少子化でZ世代は15%に過ぎませんが、世界は32%です。しかしインバウンドは「Z世代」「ミレニアル世代」が6割を占めます。若い人はデジタルに強いので、スマホで情報収集も予約も決済も済ませたい。だからデジタル環境を整えなければならないのです。
今、アフターコロナ、インバウンドが急増しています。このまま放置すれば再びオーバーツーリズムです。オーバーツーリズムは全国一律に対策を行うことには無理があります。多様な解決策を地域ごとに取り組んでいく必要があります。西表島は、2021年に世界自然遺産に登録されました。そして「エコツーリズム推進全体構想」が昨年12月、国に認定されました。西表島を3ゾーンに分け、「保護ゾーン」は立ち入り禁止、「自然体験ゾーン」には人数制限を設け、「一般利用ゾーン」は従来どおりです。西表島の人口は2400人、そこに観光客が年間29万人押し寄せます。竹富島の人口は329人ですが、観光客が年間50万人押し寄せます。住民の生活を守り、地域住民と観光客が共存する環境を目指す必要があるのです。