今、観光地で起きているコト ☞ 誰がどうする ーアンケート調査を参考にー
(『観光のひろばZOOM』 2021年9月13日)

【ホッシーのつぶやき】                                             川越市のオーバーツーリズムを正面から捉えて、アンケートと分析をされている。
観光事業者、非観光事業者(住民)、エリア内、エリア外、いろいろなステークホルダーがおられ、日常と非日常、利害と思惑が交錯するなかで、混雑、ゴミ、マナーという観光公害が発生するのは、観光地共通の問題だ。「何をしてはいけないか」「何をしなければいけないか」おおよそ見えていながら、次の一手が打てないという。
川越市には良きコミュニティもあると聞くので、合意が取りやすい問題から解決されるのだと思う。

【 内 容 】
訪日外国観光客の急増、そして2014年には、インバウンドがアウトバウンドを超え、インバウンド時代の幕開けとなりましたが、2020年、新型コロナによりインバウンドは停止しました。
 インバウンドの増加とともに、特定の観光エリアでは観光客を受け入れるキャパシティを超える問題が発生し、「オーバーツーリズム」「観光公害」が語られるようになりました。こうした状況への危機感から、2019年、日本国際観光学会に「オーバーツーリズム研究部会」を立ち上げ議論を重ねてきました。人流が止まった今だからこそこの問題にじっくり取り組めるのではないかと、現状と課題を鮮明にすべく実施したアンケート調査の結果をお話しさせていただきます。オーバーツーリズムにおける観光地の課題を考えるにあたっては、商品のライフサイクルをモデルにした「バドラーの観光地ライフサイクルの概念図」が基本的な考え方となっています。

 京都市、鎌倉市、川越市では外国人観光客はいずれも急増傾向にあり、国と同じ傾向を示しています。しかし、京都市と鎌倉市は観光客全体数が近年減少傾向を示しており、これは日本人観光客がかなりの割合で減少していることを示すもので、注目すべき一つの課題です。また、川越市は全体の観光客は増加傾向にありますが、観光客数の多さを追求するのみでは、オーバーツーリズムによる観光公害とも呼べる状況が生じるのではと危惧されます。
自治体の課題を議論する場である市議会の議事録から、「観光+外国人」「観光+マナー」に対する発言、「観光+混雑」「観光+渋滞」「観光+ゴミ」「観光+トイレ」という発言を見ますと、京都市と鎌倉市では観光客の増加に伴い、これらの発言も量的、内容的に変化が見られますが、川越市ではまださほど問題とされていない状況にあります。

 川越市は、人口35万4千人、都心から30kmに位置し、ベッドタウンとして人口増加が続いています。江戸時代、舟運により商業の町として発展し、江戸文化が残されており、「小江戸・川越」と称されています。町並景観は、明治26年の大火後に建築された外壁を黒漆喰塗とした蔵造の商家建築が主役になります。ここは川越商業の中心地でしたが、交通の発達とともに中心は駅周辺に移り、1950年代~1970年代にかけて衰退していきます。1970年代初頭、町並みの価値の再発見、そして、1980年代の住民が主体となった「活用と保存」活動の高まりに伴い、まちが活性化していきます。1989年のNHK大河ドラマ『春日局』で注目が集まり、首都圏を中心とする年間730万人の観光客が訪れる観光地になっていました。

アンケートは、観光地のステークホルダーである「観光事業者と住民(観光事業者ではない)」を対象に実施しました。共に、歴史文化のあるまちへの誇り、そしてアイデンティティの強さがうかがわれますが、観光事業者と住民間には現状認識に違いがあることも明らかになりました。事業者はもっと観光客が増えることを望み、住民はこれぐらいでいいと思っています。有名になることで経済が潤ったと捉える事業者、注目されて誇りに思う住民の姿が見えます。
9割近くが「今後オーバーツーリズになる」と予測しており、 観光客が増えることで想定されるプラス面は「経済や地域の活性化」ですが、マイナス面は「混雑問題」と「ゴミ問題」、次いで町の「イメージダウン」や「らしさが失われる」ことと言及しています。
また、注目したいのは、住民の声の中に「観光客への迎合は、結局は観光客に見放される」「観光地の評価が上がり、地価が上がることで商業活動の低下を招く可能性がある」との声が有ることです。すなわちこの地の価値の低下です。

(コロナ前の)観光地としての課題認識では、「混雑」、「危機対応」と「食べ歩き」を問題とする方が多い結果となりました。「混雑」については、行政では「一方通行」を何度も試みますが、総論賛成、各論反対で実施には至っていません。また食べ歩きに伴う「ゴミ問題」は、事業者の自助・共助努力がなされている一方、「食べ歩きのゴミは産業廃棄物」「税金を使うのは」の声、「ゴミ箱の設置はゴミの元」との意見もあり、これらも結論が出るには時間を要するでしょう。
近年、「食べ歩きのまち川越」としてメディアで取り上げられることが多く、食べ歩き食品を買い求める人の行列、歩きながら食べる姿が非常に目立ちます。

こうした状況に対し、A~Dの立場の違いによってとらえ方が大きく異なっていますが、共通するのは 「まちのイメージに良くない」ことから、「マナー」として観光客に協力を求める意見や「ゴミ箱の設置」の意見が出ています。観光客も単に「お客様」ではなく、ステークホルダーの一員として、観光地の価値を持続させることに関与し、その責任の一端を担うことが求められているのではないでしょうか。

観光地には、「観光客」「事業者」「住民」「行政」それぞれのステークホルダーがいます。観光地は「人」と「文化」の交差点であり、「日常と非日常」「利害と思惑」が交錯する場所です。オーバーツーリズムの課題を抱える観光地では「らしくない」「らしくあってほしい」と思いつつ、「何とかしなければ」の意見が出ては消える状況が続いています。
今回事例として取り上げた川越市に限らず、観光客の多さは地域を元気にしてくれますが、同時に自然環境や人びとの生活環境にも影響をもたらします。消費対象としての観光地でなく、地域の価値を持続し、観光地としての魅力を保ち続けることが求められます。交流人口を増やし経済効果を図りつつ、ネガティブな現象を回避する対策をとる必要があります。
ポストコロナの観光は、持続可能な観光(SDG s)の観点や、観光地の人たちだけではなく、観光客も共に責任を担うレスポンシブルツーリズムを実践することではないでしょうか。そして、その地が積み重ねてきた歴史、文化、人々の生業といった地域の文脈を踏まえた新しい価値を積み重ねていくことではないでしょうか。

なかなかオーバーツーリズムの解決策を見つけるまでには至らないものの、よく分析された発表をいただきました。