観光競争力で初首位も、海外客再開に欠ける視点! 忌避に偏見、受け入れ再開に反対の声が充満
(東洋経済ONLINE 2022年6月20日)
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【ホッシーのつぶやき】
Yahooニュースでは70%以上が水際対策の緩和に「反対」といいます。反対理由は「コロナ対策優先」「外国人のマナーや混雑」に起因するようです。
外国の旅行会社は「日本は外国人に来てほしくないのか」と嘆いているといいます。混雑緩和などの住民生活を考慮した施策が求められるとともに、日本の観光が産業に育って行ってほしいものです。

【 内 容 】
岸田首相は先週、新型コロナウイルスの水際対策について、6月1日から1日あたりの入国者総数の上限を2万人に引き上げるとともに、10日から訪日外国人観光客の受け入れを再開すると表明しました。外国人観光客の受け入れは、約2年2カ月ぶりになります。
全国の観光地・観光関連業者は、この2年間コロナ禍で壊滅的な打撃を受けました。そこにようやく復活の光が差してきたわけです。しかし、コロナ対策の観点から慎重な対応を求める声もあり、この政策転換を歓迎する意見ばかりではないようです。

今回は、訪日外国人観光客の受け入れ再開に関する意見を確認したうえで、今後考えたい2つの視点を紹介しましょう。

外国人観光客がいなくなって「コロナ様様」

岸田首相が訪日外国人観光客の受け入れ再開をしたところ、各方面から色々な意見が上がりました。観光客の回復を期待する観光関連業者は今回の政策転換を歓迎する一方、SNSやネット掲示板では慎重な意見や反対意見が多く見受けられました(Yahoo!ニュースのアンケートでは、70%以上が水際対策の緩和に「反対」)。

筆者がまず一般市民に取材したところ耳にしたのが、コロナ対策の観点から慎重な対応を求める意見でした。
「まだ毎日2万~3万人の新規感染者が出ており、コロナが完全には終息していません。時期尚早だと思います」(50代男性・会社員)
「ここまで日本でコロナの被害が小さかったのは、水際対策がうまく行ったからでしょう。それを一気に緩めると、欧米のような感染爆発が起こるのではないかと心配です」(30代女性・会社員)
「感染症法上の分類を2類から5類にするなど、国内の対策が先。いずれ訪日外国人観光客を受け入れることには反対しませんが、国内の対策を完了した後じっくり時間を掛けて進めることでよいのでは」(40代男性・自営)
そして、コロナとは関係なく、そもそも訪日外国人観光客それ自体を歓迎しないという意見がたくさん聞かれました。
「コロナ前はどこの観光地も外国人観光客でごった返して、ゆっくりできませんでした。私は旅行が好きなので、今回の受け入れ再開でまた旅行を楽しめなくなるのは残念です」(60代女性・主婦)
「外国人観光客はうるさいし、マナーが悪い。とくにお隣りの2カ国は最悪。治安だって確実に悪くなりますよね。この2年間、外国人観光客がいなくて、実に快適でした。大きな声では言えませんが、この点に関してはコロナ様様です」(40代男性・団体職員)

再び奈落の底に突き落とす?
さて、ここからは、今回あまり議論されていない2つの視点を紹介しましょう。

1つ目は、観光関連業者の怒りです。観光関連業者に取材したところ、今回の受け入れ再開に反対する声は皆無で、国内で反対意見が出ていることに憤っていました。
「この2年間、外国人観光客がいなくなって、われわれは壊滅的な打撃を受けました。私の周りでも耐えきれなくなって廃業した同業者がわんさかいます。借金が残って廃業できず、夜逃げしたという同業者もいます。こういった実情を少しでも知ったら、外国人観光客の受け入れ再開に軽々しく反対できないのではないでしょうか」(北陸の旅館経営者)
「今回の受け入れ再開で、ようやくトンネルの出口が見えてきました。再開に反対する人は、地獄から這い上がろうとしているわれわれに手を差し伸べるどころか、再び奈落の底に突き落とそうとしているわけです。よく『コロナは生命の問題だ』と言われますが、外国人観光客の受け入れもわれわれにとって死ぬか生きるかの問題なのです」(関東の旅行代理店経営者)
コロナに関する議論では、よく「生命と経済を同列で比較するな」「経済よりもまず生命を優先せよ」と言われます。しかし、こと観光関連業者にとっては、コロナとその対策は生命と経済が渾然一体となった複雑な問題のようです。
また、「訪日外国人観光客に対し、日本人はかなり偏ったイメージを持っている」という指摘もありました。
「コロナ前に日本人のお客様から『外国人観光客が多くて接客とか大変でしょ?』とよく言われましたが、そんなことはありません。中国からの団体客のマナーはかなり改善していて、日本人と同じくらい。日本人と違ってちゃんとたくさん買ってくれるので、われわれにとってありがたい存在です。大切な外国人観光客を、偏ったイメージで排除しないで欲しいものです」(九州の土産物店経営者)

観光立国は実現するのか
もう1つ決定的に欠落しているのが、観光立国という視点です。今回、受け入れ再開をどのように進めていくのか、詳細は未定です。ただ、5月27日の衆議院予算委員会で「訪日外国人観光客に誰がマスクを配るのか?」が論戦になったように、コロナ対策という視点が中心で、日本を観光立国にしようという長期的な視点はありません。
観光庁の和田浩一長官は3月18日、1年間の空白期間が生じている観光立国推進基本計画について、インバウンドの動向を見通すのが難しいことを理由に「もう少し感染状況が落ち着き、議論できるような状況の下で具体的な検討を進めていきたい」と述べました。その後も政府から観光立国に関する目立った発信はなく、お手上げ状態が続いています。

2006年に観光立国推進基本法が成立し、政府は観光立国推進基本計画に沿って施策を展開してきました。円安・近隣諸国の所得上昇といった追い風もあって、日本の旅行市場の市場規模は、コロナ前の2019年に27.9兆円に達しました。
ただ、観光産業が十分に成長し、「日本は観光立国だ」と胸を張れる状態になっているかというと、2019年の段階でも「まったく物足りない」というのが、率直な評価になるのではないでしょうか。
2019年の訪日外国人旅行者数は、過去最高となる3188万人でした。東日本大震災があった2011年を底に着実に増えてきましたが、世界最多のフランス8932万人はもちろん、アジアでも中国6573万人やタイ3992万人の後塵を拝しています。また、旅行市場に占めるインバウンド需要の割合は2割弱に過ぎません(2019年時点)。
先週5月24日、ダボス会議で有名な「世界経済フォーラム」が、観光地としてどれだけ魅力的か、世界各国の競争力を比較した調査結果を発表しました。日本は交通インフラの利便性や自然や文化の豊かさなどが評価され、総合順位で調査の開始以来、初めて世界1位になりました。日本は世界一の旅行市場になる潜在力がありながら、生かせていないのです。

地方経済は観光産業が頼みの側面も
もちろん、オーバーツーリズムの問題やSDGsの要請などがあり、単純に訪日外国人観光客を増やせばよいというわけではありません。観光産業や地域の持続性を確保しつつ、いかに観光を中心にした国づくりをしていくかが問われています。
著名な未来学者ジョン・ネイスビッツは、『Global Paradox』(1994、佐和隆光訳『大逆転潮流』)で、「21世紀に観光が最大の産業になる」と予測しました。
とりわけ日本では、戦後の経済成長を支えた基幹産業がすっかり衰退し、観光産業に対する期待が高まっています。金融産業のある東京と自動車産業のある愛知・静岡・埼玉などを除く多くの地域では、雇用吸収力の大きい観光産業に地域の命運がかかっていると言って過言ではありません。
政府も観光関連業者も、そしてわれわれ国民も、コロナ対策にとどまらず、国家百年の計で観光について考え、訪日外国人観光客の受け入れ再開に臨みたいものです。