飛行機に乗るべきか、乗らざるべきか? コロナ危機で変わる世界の価値観、新たに生まれる優先順位を考える【外電】
(トラベルボイス 2020年5月6日)
https://www.travelvoice.jp/20200506-145945

テレワークが急速に広がっている。リアルな会議の方が、参加者の息遣いが聞こえ、親近感が湧くなどの効果があるものの、web会議でも情報共有は十分だと認識させる。
会議で航空機での移動回数が多い方では、その会議を1回減らすだけで、排ガスの排出量を減らすことができるという。
気候変動問題を考えるうえでも、人の移動の必要性を見直すことになるのかもしれない。

【ポイント】
新型コロナウイルスにより、世界中で人と会うことができなくなり、どうやって仕事を進めればよいのか、企業も個人も苦慮している。だが企業活動、自動車の排気ガス、フライトやツーリズムが大幅に制限されたことが、各国の空気改善に効果を発揮したことも明らかになった。

飛行機であれほど飛び回る必要はあったのだろうか?
先進諸国に暮らす我々の多くは、何かあればすぐに飛行機に乗って出かけていた。理由はクライアントからの要請だったり、休暇だったり。航空券の値段も手の届くものになり、空の移動は日常の一部。何の疑問も感じていなかった。
ところがコロナ危機を経験するなかで、
直近の出張は2020年2月末、ちょうどロックダウン直前のロンドンでのワークショップだった。次回はバーチャルなワークショップしかできないという話になった。
バーチャル・ワークショップでは、同じ部屋で顔を見ている時ほどの親近感は期待できない。だがコンテンツの90%は提供できて、残りの10%については、年に一回開催する場で共有できるなら、年に4回も出張する必要があるのだろうか?

今年1月、自分の移動による排ガス量を初めて試算した結果はショッキングなものだった。排出量は年間で90トン、一人当たりの排出量が世界最大の国(カタールの44トン)の倍。その95%は飛行機での移動によるものだった。
急進的な環境保護活動にはまったく興味がない私もショックだった。環境に配慮するなら、何よりも、長距離フライトを毎年一回減らすことが必要だったなんて。これがきっかけとなり、本当に飛ぶ必要があるのか考えるべきだと思った。

企業にとってよい機会でもある。世間からも投資家からも、気候変動問題にもっと真摯に取り組むようプレッシャーを受けている各社にとって、リセットするチャンスだからだ。
予算はどうなる? どこで節約する? と悩んだ挙句、『出張をやめてリモートで会議を開くのはどうかな。何も問題なさそうだけど』と考える人が多くなる。
今年以降、排ガス量は間違いなく減るだろう。もともと気候問題に取り組む必要に迫られていた企業各社は、これを自らの業績にしたいと考える。

業務渡航を見直しがどのようなものになるのか分からないし、企業によっても異なるだろう。例えば、今まで通り産業界全体が集まる大規模な会合には参加する一方、他の出張の回数は減らし、一度の出張で多くの業務をこなせるよう集約するのも一案だと話す。
「今までと同じ“通常営業”に戻るのはもうやめよう」との提言もある。

「尽きることのない消費と成長拡大によって、回り続ける経済」こそが問題であると指摘、そうしたなかで観光旅行も出張も過剰になっていたと話す。だが突然、世界を襲ったコロナ危機のすさまじいインパクトによって、人も企業も、別の選択肢に目を向けるようになっている。
コロナウイルスは、ある意味、我々が当たり前だと思っていた生活に、疑問を突きつけている。

こうした危機における経験を活かして、大事なことに気付くべきだ。
これまで当然だと思っていた日常を突然、失った。この先、経済の立て直しが始まり、旅行や観光に出かける動きが再会する時には、生態系や環境を破壊しないよう、もっと慎重に配慮しながら、再出発することが必要だ。

危機が収束した後、人々が再び気分よく空の旅に出かけるよう背中を押すために、航空会社と空港が力を入れるべきことは「3つのS」対策が必要だと指摘する。
Safety(安全)、Sanitization(衛生)。「9/11テロ事件の後、航空会社はコックピットのドアを防弾仕様に強化した。同じように、人々の不安を払拭し、飛行機を利用してもらうためには、“健康を守る”ための防疫強化が必要」と話す。
3つ目のSはSustainability(サステナビリティ)。航空会社や空港にとってはチャンスだ。気候変動に与える影響を、以前の半分程度に抑えることができるとアピールすることも可能だ。

コロナ危機下で注目されるようになった “エッセンシャル(必要不可欠)”というコンセプトが、今後の旅行の在り方に一石を投じるのではないかと考えている。
事態の収束後、『エッセンシャル・ワーカー』という新しいカテゴリーができて、該当する人には、企業や州政府など当局から“必要不可欠”な移動の認定証などを発行する。例えば特別な運賃を設定し、優先搭乗などのサービスがあってもよい。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したもの。