移動自粛のいま、どんな「観光体験」を提供できるのか? デジタル&ネットを活用した取り組みを考える 【山田雄一コラム】
(トラベルボイス 2020年4月20日)
https://www.travelvoice.jp/20200420-145962

コロナ禍における「観光コンテンツや体験」を流通させる提案として、地域のガイドが、360度カメラを使い、客の質問に答えながらガイドして回り、客は、VRゴーグル(スマホを使用)を使って、自由にその地域を見るという、リアルに近いガイドツアーだ。
ただ、これで「ガイド料を取れるか」が問題。ツアー料金を得るのではなく、地域の物産を購入した特典として提供するなどの工夫は必要という。肝は、地域の生産者などとのZoom交流だ。
『旅するおうち時間』という企画も始まり、5月1日からの限定100名の募集も完売したという。
https://hometime-to-travel.studio.design

【ポイント】
コロナウィルス渦の欧米のリゾート地では「今は、家に居ましょう。落ち着いたら、また来てくださいね」というメッセージを出している。
医療サービスの容量に余裕がない状態では、感染拡大を防ぎ、医療崩壊を防ぐために極めて重要です。
一方で、ホスピタリティ産業はその収益を失うことになる。

この損失について、日本では、企業給付金や固定資産税減免、雇用調整助成金などでの対応が進められているが、損失のすべてを補填することは不可能と思われる。
コロナ禍は、ワクチンができないことには終息しません。よって「今を我慢すれば、V字回復できる」ものでもない。
「当分の間、元の世界には戻らない」と割り切り、観光的なコンテンツ、体験そのものをコロナ禍でも流通販売できる手法を考えていく必要がある。現実的に、デジタル、ネットを使っていくしかない。
観光そのもののデジタル・トランスフォーメーションを進めるべきと考えます。

FB宅配(Food & Beverage:食べ物と飲み物)と連動した観光体験
自粛の影響で外食が抑制され、自宅で食事を取る人が増えている。これを好機として、Uber Eatsのようなサービスが盛り上がっていますが、観光地としても、こうした流れに乗るべきです。
例えば、地酒とおつまみをセットにして、宅配販売する。
それもデジタルの時代。地酒とおつまみを購入した人向けに、料理長や利き酒士が、夕食時間にZoomライブをしたらどうでしょう。どういう工夫をして作ったものなのか、どういう味わい方が良いのかといったことを伝えることで、その食事は数段楽しいものになる。

地域芸能、音楽、ショーを見せるということできますし、360度カメラによる映像や、夕日のライブ配信することも考えられる。
これを利用し、地域のガイドさんが、特定のグループ向けに、ライブ配信でガイドツアーを行うといったことも可能ではないか。
ガイドさんは、お客さんのように360度カメラを伴い、顧客からの要望や質問に答えながら、自然の中や街の中をガイドして回る。顧客側は、これも安価になったVRゴーグル(スマホを使うもの)を使うことで、自由に、その地域を見て回ることができます。
お土産屋さんに入って、面白そうなものがあればオーダーしてもらうという買い物代行をしても良いでしょう。

ここでのポイントは、通常のプライベートガイド同様に、お客さんの要望や、その日の天気にあわせて、双方向性をもってプログラムを展開することです。
ガイドさんと何気ない会話をしながら、双方向性を持って地域を探訪していくというのは、自粛を余儀なくされている都市住民に「刺さる」のではないかと思っています。

ただ、現状の4Gレベルの通信速度だと、高精細画像をリアルタイム配信することは難しい。高速Wi-Fiの範囲内であれば、高精細動画配信できるでしょうが、行動範囲が狭まってしまいます。
自然ガイドツアーなどには厳しいでしょう。
それと「ガイド料を取れるか」です。高精細画像を配信できたとしても仮想の体験です。こうした体験に対して料金を徴収できるか、有料でこういうツアーに参加してもらえるかは極めて微妙です。
ガイドツアーで料金を得るのではなく、物産購入した人に特典として提供するとかの工夫は必要です。

オンライン・イベント
3密を避けるために、地域での集客イベントもオンラインへの転換を図っていくことが必要です。
バーチャルサイクリング「Zwift」は高い評価をうけていますが、こうしたシステム上に、地域のコースをオリジナルで作れるようになれば、地域の魅力を多くの人とシェアすることもできます。
いますぐ使用できるものは見当たりませんが、簡易型VRでは、グーグル・ストリート・ビューを利用する製品も出ています。

音楽やショーイベントは、360カメラをライブ配信することで、いますぐ対応できます。
当面、「無観客」でのイベント開催が当たり前ですから、いち早く対応していくことが重要でしょう。
問題はマネタイズ。Youtubeなどに大量の無料動画が流れている中、イベントを中継するだけに対価を支払ってくれる人は限られます。マネタイズするには、ふるさと納税をしてくれた人に提供するとか、何かしらのサブスクリプションモデルに組み込んでもらうといった方策の検討が必要です。
交付金などを使って、持ち出しをしながらサービスの水準を高め、オンライン流通の手段を持っている事業者との連携に取り組むという検討も必要です。

デジタル、ネットの世界には、観光以上に数多くの競合がひしめき合っています。
地域の産品(FB)や景観、文化施設といった「リアル」な資源をフックとしながら、デジタル、ネットの世界でプレゼンスを作れるかが問われます。

そうした取り組みは、ウィズ・コロナの期間だけでなく、ポスト・コロナにおいても有効です。
例えば、病気や怪我などで移動が困難な人たちに、観光の魅力を伝えることができるようになります。
また、時間的、経済的な制約によって、観光地までは出向けない人たちにもリーチできます。
前向きな意識をもって、チャレンジしていきましょう。