【寄稿】シンガポール市場の今。インバウンド対策の要点 Amobee Japan シニアマネージャー 齊藤飛鳥
(観光経済新聞 2020年12月15日)
https://www.kankokeizai.com/【寄稿】シンガポール市場の今%E3%80%82インバウンド対/

【ポイント】
シンガポールの新型コロナは落ち着きを見せているが、旅行マインドは高まっておらず、春以降の渡航に期待しているようだ。訪日以降が強いのはシンガポール人で、ショッピングと観光(見物)の希望が高いという。
中国はホテル、ラグジュアリーが高得点で、安全が3位に入たといい、タイはホテルとビーチ、ナイトライフが強みだという。
海外の旅行先の競争が、今後は激化しそうな情報だ。

【 内 容 】
欧米ではまだまだ新型コロナの影響は大きいなか、シンガポールは一時期と比較し落ち着きを見せている。延期もあったものの香港とのトラベルを発表するなど観光マインドが高まっていることも伺える。それでは日本への関心はどうだろうか。デジタルビッグデータを活用し、シンガポール視点での日本への関心を分析する※1。直近1年間のトラベル関心を確認するとともに、中国、タイとの比較から日本の特徴を把握。また、ターゲットとなるペルソナ像を見ていく。

日本への関心、コロナ後は横ばい。中国が上回る傾向も
まずは直近1年間のトラベル動向について。図1はシンガポール消費者視点で、各目的地別にトラベル関心度を時系列で示したものだ。目的地は日本(橙色)に加え、中国(紺色)とタイ(水色)。対象期間は2019年11月から2020年11月末。縦軸は関心度であり、上であるほど関心が高いことを示す。3月下旬にいずれの目的地に対してしてもトラベル関心が大きく低下しており、新型コロナのマイナス影響が伺える。その後、日本への関心は5月に一度回復をするもののまた下落をし、11月末は4月時点と同じ水準となっており回復傾向が見えてイない。中国への関心に目を向けると下落から横ばいの傾向は日本と近しいが、6月、8月での一時的な関心の増加など差も見られる。注目すべき点は4月以前は日本への関心が最も高かった点が4月以降では中国への関心が上回ることが散見される点だ。つまり日本視点ではシンガポールのトラベルポテンシャル層を中国に奪われているとも言える。

40,50代がメインターゲット。ニュース、SNS起点のコミュニケーションが有効
日本への関心層はどのようなペルソナであろうか。図2は日本旅行への関心層の特徴を整理したものだ。性別年代の特徴では男女差はあまりないが、年代はやや高く40歳50歳がボリュームゾーンといえる。これはシンガポールの年代別人口分布の観点でこの層が多いことも起因していると考えられる。日常的な関心では、ニュース、エンタメ、ヘルスケア、資産管理、SNSが上位に確認できる。関心区分26項目中、トラベルは16位に位置しておりトラベル意識がまだ高まっていないことがここでも確認できる。よく閲覧するサイトはStraits Times、Channel News Asiaなどニュースサイトも確認できるが、reddit、Instagramなども上位に確認ができ、SNS接触が高いことが分かる。その他の関心では、新型コロナに対することはもちろんのこと、時期柄かUS政治への関心も伺える。ニュースサイト内の広告やSNSでの情報発信は効果的なプロモーションになると考えられる。ヘルスケア、資産管理関連の情報サイトはトラベル情報の発信先として穴場かもしれない。

2019年から安全・安心の関心が高まる。屋外アクティビティへの関心も増加
日本への関心はどの様に変化したか。図3は2019年8月-10月(図中左)と2020年8月-10月(図中右)期間における日本への関心を比較したものだ。上位は体験、ホテル、食事であり、順位の差こそあれトップ3の中身は変化していない。大きく変化した点は安全・安心に関する項目だで、Safeは5位に上昇している。他国でも同様の分析を行っているが欧米と比較してシンガポールは安全・安心関連項目の順位が高いことが特徴的で重要視していることが伺える。ただ、穿った見方をすると安全安心要素はトップには至っていないことから、安全安心要素を打ち出すだけでは誘客は難しいと考えることもできる。安全安心は当然のこととして日本の魅力を変わらず伝えていくことが大事であろう。その他では、歴史、アクティビティ、ハイキングなどの順位上昇が確認でき、日本文化を感じられる屋外体験はコンテンツとして推奨される。

他アジア地域と比較して、ショッピングは日本の強み。
先程の項目を他国との競合比較として深堀りしていく。シンガポール消費者視点で日本と中国、タイに対する関心がどのように異なるのか。図4は2020年8月-10月の各国に対する関心を比較したものだ。他国と比較して日本が高い点は神社、温泉は当然のことながら、ショッピングと観光(Sightseeing)が高い点である。中国はホテル、ラグジュアリーが高い点、また安全が3位に上がっており問題なく観光できるか注視している様子。タイはホテルとビーチが群を抜いて高く、以前からのビーチを中心とした滞在型観光のニーズが続いていることが分かる。ナイトライフも高い点も特徴的だ。上記を考慮すると日本がプロモーションをするにあたって、日本食、温泉などの日本らしさをアピールすることは当然のこと、ショピングや観光(見物)要素を魅力的に伝えることも差別化につながると考えられる。ラグジュアリー要素を考慮する消費者が中国に目を向ける可能性もあり、その点でのフォローも必要と言えるだろう。
その他の関心事項では、日本が来年4月に渡航出来るかも知れないと言ったニュースやGo Toトラベルへの関心も確認でき、足元の関心は高くないものの渡航制限解除がされた段階では訪日需要は高いと伺える兆しが見える。あわせて温泉もさることながら桜への関心も伺え春以降を訪問時期で可能性として見ている様子だ。地域では大阪や福岡、鹿児島など西日本への関心が散見された。

サマリ
今回はシンガポール消費者視点からの日本への関心、関心事項と他国との競合比較を確認した。シンガポール消費者はまだまだ保守的でトラベルマインドが高まっていないものの、春以降への渡航期待がうかがえる。40代、50代がメインターゲットになりニュースサイトやSNSを通じて彼らにアプローチすることが有効である。打ち出すポイントとして、日本へショッピングと観光(見物)の期待が高いため日本らしいコンテンツに加えて、高揚感のある買い物などのクリエイティブは有効だろう。中国に対してラグジュアリー要素、タイと比較してナイトライフの関心が低いため、これらの点の情報発信は中長期で必要になってくると思われる。また安全安心への関心は高いため、きちんと新型コロナ対策がされていることを伝える必要もあるだろう。まだまだ訪日への行動は時間がかかりそうであるがニーズの変化、旅行以降の変化を速やかに捉えることでいち早く消費者を取り込むことが重要だ。