グーグル旅行部門トップが語った注目すべき「3つの変化」、回復期の旅行マーケティングに欠かせないこと ―フォーカスライト・カンファレンス2021
(トラベルボイス 2021年12月1日)
https://www.travelvoice.jp/20211208-150184

【ホッシーのつぶやき】
グーグルはパーソナライゼーションにあった旅の提案を目指すようだ。人それぞれ嗜好があって、それらのデータを蓄積すると最適な旅を提案することもできるだろうが、旅には偶然性も必要で、偶然出会ったことが未知であるから感動もする。
今、提供されている旅行商品は、究極のところ団体ツアーと自動車を使った個人旅行しかないのではないか。シニアは運転免許も返上しており、自由な旅がしにくい環境になっている。今でこそ観光協会、DMOがこれまでの物見遊山だけでない観光を開発するべきではないかと思う。
人生の感動と出会う旅の提供を目指して…!

【 内 容 】

2021年11月に米国フロリダ州で開催された「フォーカスライト・カンファレンス2021」では、グーグルのトラベル担当マネジングディレクター、ネルソン・ボイス氏が登壇し、旅行の消費行動における3つの注目すべき変化とデータ・トランスフォーメーション、激変する環境下でのマーケティング戦略について語った。パンデミック勃発から20カ月ほど経ち、旅行マーケットは回復途上にはあるものの、再び成長へと転じるためには、変わり続ける需要動向に、素早く応じられる組織への変革が欠かせない。

レジリエンスとアジリティ
グーグルでは今、「パートナーの声を聞くことに、とても多くの時間を割いている。インサイト(行動の背景にある隠れた心理)や需要の増減を把握して、次に向けた準備を整えるためだ。我々がコントロールできる範囲外のことへの対応も含めて、大いに議論している」とボイス氏は話す。

未来に向けて準備を進めるために、最も重要なことは「変革すること、つまりデータ・トランスフォーメーション」と指摘しつつ、「またその話か、と思う方もいるでしょうね」と苦笑する。言葉だけが使い古されていく理由として、同氏は、データ・トランスフォーメーションに対する理解不足が一因だと考えている。長期間に渡り、難易度の高い取り組みが続き、膨大なコストが発生するというイメージ。旅行ビジネスを取り巻く状況が厳しいなかでは、なおさら立ちすくんでしまうかもしれない。

グーグルが提唱するデータ・トランスフォーメーションは「大々的なオーバーホールは必要ないが、誰もが同じやり方で効果を得られるほど単純でもない。組織によって目標は千差万別、そこに向かうアプローチも当然、異なる。ただ、絶対不可欠な共通項もある」とボイス氏は説明する。

その一つとして、ボイス氏がまず挙げたのは「組織内におけるデータの分断、サイロをなくすこと」。具体的には、社内の様々な部署で活躍している人材や専門家の間にある壁を取り払い、横の連携が生まれる仕組み作りだ。また、パンデミックを経て、非常に重要になっているのがアジリティ(機敏に動ける体制)。例えば、従来より短期間に区切ったプランニングやテスト、集めたデータを素早く計測・分析し、インサイトを見つけ出す能力など。「迅速に動かないと、日々、あるいは時間ごとに変わる課題への対応が間に合わない」(同氏)からだ。

なお、グーグルでは、企業が取り組むべきデータ・トランスフォーメーションをより具体的に理解してもらうために、そのプロセスを「Route to Ready(いつでも対応できる体制への道)」と呼び、計6項目に分けて説明している。

「つまり組織にとってデータ・トランスフォーメーションとは、何か起きてもそこから回復できる力(レジリエンスと呼ばれる)と、素早い対応力(アジリティと呼ばれる)を確保することなのだ」とボイス氏は説く。「過去20カ月の経験から、誰もがその必要性を痛感しているのではないか。さらに来年以降も、組織にとって、こうした変革はいっそう重要になってくる」と見ている。

旅行者の関心が高い3つのこと
2022年に向けて、注目すべき旅行消費トレンドにおける大きな変化について、ボイス氏は3つのことを挙げた。

まず、より有意義な体験を求めていること。グーグルが米国で実施した調査によると、今後2年以内に、大きなライフイベント(例えば結婚、入学、就職・転職、新居を買うなど)を予定していると答えた人は、全体の半分以上。(このうち最多は結婚で87%)。これに関連して、旅行を計画している人は78%となった。パンデミックにより、結婚式など人生の節目のイベントを延期した人が多いことも背景にあるようだ。

ボイス氏は、「一人ひとりの旅行者にとって意義深く、思い出に残る体験を提案できるマーケターが支持されるようになる」と話す。具体的な取り組みも始まっており、例えばハイアットでは、ファーストパーティー・データ(自社保有のデータ)を活用し、コンテクスト(文脈)の中まで探ることで、顧客理解に役立てている。さらに社内組織をフラットにし、エンジニア、プロダクト、マーケティングなど、部署間の連携が進むことで、顧客をより包括的な視点から理解できる体制作りを目指しているという。それがパーソナライゼーションの実現、そして長期的にはロイヤルカスタマー獲得にもつながるとの見方だ。

2つ目は、よりインクルーシブであること。例えば、それぞれの旅行者の民族的・文化的背景などを考慮した上で、相手のニーズに即した対応ができているか。「どの産業でも大切なことだが、特に旅行・観光産業においては不可欠な姿勢だ」とボイス氏は強調した。同社の調査(米国内)では、有色人種の旅行者の86%は、文化体験を重視してデスティネーションを選択。また同74%は、自身の文化的・民族的背景を理解した上での情報提供を求めており、現状では、クチコミ情報やSNSのインフルエンサーに大きく頼っている様子がうかがえる。

「企業のマーケティングやメッセージング、ブランド戦略においても、インクルージョンがカギになる時代。もちろんグーグルでも色々なサポートが可能だ。ただし、本当に変わるためには、組織内部から変わる必要がある。社内チーム、取締役会、マーケティング会議などのメンバーに多様性はあるだろうか?」とボイス氏は問いかけた。

3つ目は、サステナビリティへの関心の高まり。グーグルのグローバル調査では、回答者の50%が、環境問題や持続可能性への配慮があるかどうかは、旅行の意思決定において重要と答えた。「旅行需要が本格的に復活する頃には、宿泊施設や交通手段の排出ガスやカーボン・フットプリントを知りたい人が多くなり、最終的にはサステナブルな旅行が求められる時代になる」(同氏)と予想する。

この課題解決においても、データとインサイトが重要になるとボイス氏。すでにグーグルでは、旅行サービスの排ガス量が分かるツールを開発しており、フライト情報などで表示を始めている。「消費者が航空券を選ぶときに、価格や所要時間に加えて、サステナビリティに関するデータも考慮できるようにすることが狙い。まだ初期段階だが、引き続き、こうした情報提供に力を入れていく。多くのトラベル系企業が動き出している姿に、我々もまた勇気づけられている。」(同氏)。

グーグルにとって、持続可能性や排出ガス対策はコア・バリューの一つ。こうした技術開発に加え、「この分野に取り組んでいるパートナー企業やイノベーター、非営利団体を応援すること、サステナビリティに関する基本的な理解を広めたり、具体的な事例を多くの人に知ってもうことにも貢献していく」と力を込める。

回復期のマーケティングに欠かせないこと
世界の旅行需要は回復途上にあるものの、新たな変異株の拡散により、各国政府の渡航規制が二転三転するなど、長期的な見通しは立ちにくい。旅行マーケティングのかじ取りはいっそう難しくなっているが、こうした状況下でも、一定の成功を収めているマーケティングの共通点がある。ボイス氏は3つのことを挙げた。

まず、インサイト主導であること。「顧客はどこにいるのか、チャンスを最大限に活かすためにどうしたらよいか。相手をよく理解していることが重要だ」とボイス氏。次に、データ・ドリブンで動くこと。「壊滅的で、先が見えない状況下を進むために、データを参考にしながら需要を探ったり、チャンスをつかんだりしている。オートメーションを幅広く活用することも必要だ」。そして3つ目は、アジャイル(迅速さ)。「今のような状況では、方向転換が機敏にできる体制かどうかが非常に重要になる」(同氏)。

また、消費者は日常的に様々な商品を物色したり、情報を検索したり、利用しているサービスも多岐に渡ることから、ブランド・マーケティングとパフォーマンス・マーケティングの両輪で展開し、ファネル全体でのアプローチができていることが理想的だとも指摘した。

一方、グーグルのトラベル事業には、旅行事業者から「顧客を横取りしている」との批判もある。その点についてボイス氏は、「最終的には、旅行者にとってベストなことが、すべての関係者にとってもベストだと考えている。旅行者と旅行事業者の双方が、エフォートレスかつシームレスな方法でつながる場を目指し、様々な無料ツールをホテル、フライトなど項目別にまとめて展開している。同時に、顧客を開拓し、セールスリードにつなげる広告や有料プロダクトも提供しているが、これらは矛盾するものではなく、どちらもそれぞれに役割や価値がある」との見解を示した。

後半インタビューの聞き手はフォーカスワイヤ編集長のケビン・メイ氏が登場。グーグルトラベルの新展開として、レンタカーや車を検討しているか?との問いには、「他カテゴリーと基本的には同じ考え方になるが、最近、ハーツがテスラの車両10万台を購入するなど、持続可能性への取り組みが大きく進んでいる点で興味深い。大いに関心を持って見ている」とコメントした。

最後に、一人の消費者としての立場から、旅行ビジネスに対して「パーソナライゼーションの欠如」を改善してほしいとボイス氏は要望。「ファーストパーティー・データを活用してキュレーションし、ターゲティングや顧客体験の向上に役立てることができていない。例えば、以前、利用したことがあるブランドなのに、私のことをまったく把握していない。何に関心があるか分かっていないし、アップグレードや新しい体験の提案もない。毎回、振り出しに戻る感じが残念だ」と苦言を呈した。