これからの観光政策と、本質的な「関係人口」のあり方を考察してみた【山田雄一コラム】
(トラベルボイス 2020年4月16日)
https://www.travelvoice.jp/20200416-145900

アメリカはコロナ感染拡大による経済活動の制限を州ごとに再開させる方向だが、オーストラリアは海外渡航制限を、クリスマス休暇までかかる可能性もあると発表した。
コロナ禍が収束しても、ビジネス需要は大きく減退し、観光需要も経済クラッシュによって減退することは避けられない。訪日客を当て込んで増やした受け入れキャパの活用が、今後、重要になる。
少子高齢化のなか、サービス経済に切り替え、観光振興することは、日本にとって重要だ。
観光振興の灯を消さないため、国の観光政策の目的を「訪日外国人の増大」から「国民の福祉の向上」に戻すことが重要と提案されている。
二点目として「定住と観光の間、半定住(関係人口)の促進」も提案されている。
コロナ禍により、経済も、国のあり方も大きく変わらざるを得ない。都市と地方の関係も健全になるチャンスかもしれない。

【ポイント】
コロナ禍が収束すれば人々の往来は戻るが、ビジネス需要はデジタル化、オンライン化で大きく減退するし、観光需要も、ほぼ確実に発生するだろう経済クラッシュによって、相当量減退することになる。

日本は欧米に比して感染者数や死者数を抑え込めているものの、東アジアにおいては多めとなっており、今後、ワクチンが開発されたとしても、東アジアの人は、感染に対する恐怖心は容易には抜けない。
欧米はコロナ禍の被害が相対的に大きいですから、迅速な復旧は想定しにくい。
コロナ以前から、日本は「安売り」で問題となっていたため、価格競争による集客は厳しいですし、価格競争をやれば、何のための観光振興なのかという問題にぶち当たります。

訪日客の増大を当て込んで、日本各地は観光客の受け入れキャパを増やしているため、その活用は重要な課題です。少子高齢化の進む日本において、サービス経済社会に切り替え、観光振興を行っていくことは、現在、そして将来の日本にとって重要です。
インバウンドを全面に出せない中で、観光振興の灯を消さないためには、国の観光政策の目的を「国民の福祉の向上」に戻すことが必要ではないかと考える。

戦後、日本が国をあげて観光振興を行ったことが3回ある。2つは、高度成長期のレジャーブーム、バブル期のリゾートブームだが、首都圏住民を主体とした国民生活の質的向上を目的としていた。
通称「リゾート法(総合保養地域整備法)」の第1条では、以下のように目的が規定されています。
• この法律は、良好な自然条件を有する土地を含む相当規模の地域である等の要件を備えた地域について、国民が余暇等を利用して滞在しつつ行うスポーツ、レクリエーション、教養文化活動、休養、集会等の多様な活動に資するための総合的な機能の整備を民間事業者の能力の活用に重点を置きつつ促進する措置を講ずることにより、ゆとりのある国民生活のための利便の増進並びに当該地域及びその周辺の地域の振興を図り、もつて国民の福祉の向上並びに国土及び国民経済の均衡ある発展に寄与することを目的とする。
また、現在の観光立国推進基本法においても、理念は第2条で、以下のように規定されている。
• 観光立国の実現に関する施策は、地域における創意工夫を生かした主体的な取組を尊重しつつ、地域の住民が誇りと愛着を持つことのできる活力に満ちた地域社会の持続可能な発展を通じて国内外からの観光旅行を促進することが、将来にわたる豊かな国民生活の実現のため特に重要であるという認識の下に講ぜられなければならない。
• 観光立国の実現に関する施策は、観光が健康的でゆとりのある生活を実現する上で果たす役割の重要性にかんがみ、国民の観光旅行の促進が図られるよう講ぜられなければならない。
• 観光立国の実現に関する施策は、観光が国際相互理解の増進とこれを通じた国際平和のために果たす役割の重要性にかんがみ、国際的視点に立って講ぜられなければならない。
• 観光立国の実現に関する施策を講ずるに当たっては、観光産業が、多様な事業の分野における特色ある事業活動から構成され、多様な就業の機会を提供すること等により我が国及び地域の経済社会において重要な役割を担っていることにかんがみ、国、地方公共団体、住民、事業者等による相互の連携が確保されるよう配慮されなければならない。

国の観光政策の目的の基本は、国民自身が行う観光の振興がある。
この基本に立ち返り、国内需要をしっかりと「育て直す」ことが必要ではないか。経済状況(懐具合)によらず、観光に行きたい人々が行くことができるように、様々な仕組みを変えることだと考えます。
コロナ対策として提唱している旅行減税は、この「国民の福祉の向上」にも合致します。
所得税の20%まで控除するのは、緊急対策として10%、5%と下げてでも、恒久的な減税措置とすれば、国民の観光需要の基礎を支え、観光の高付加価値化へ誘導する仕掛けともなります。

ただ、所得税控除を利用する以上、所得税額が低い=所得が相対的に低いセグメン、額面年収が450万円(所得税10万円)を下回ってくると機能しないでしょう。
低所得層に向けては、旅行クーポンの設定が有効であると考えます。
旅行クーポンを、単なる割引券ではなく、利用できる地域と期間をあらかじめ設定しておけば、観光地側の生産性向上にもつなげられます。オフシーズンに利用できるようにすれば、観光地の繁閑調整と「観光を行う権利」を組み合わせることがでます。
これは、スペインなど欧州で行われているSocial Tourismの概念であり、輸出産業としての観光サービスの商品化(高額化)によって、地元住民の観光活動が阻害されることにたいする社会制度とも符合します。
従来、観光地の閑散期対策はMICEが担っていましたが、コロナ禍によって、MICEが相当期間、打撃を受けることになります。

個人的に展開して欲しいと思っているのは、定住と観光の間となる半定住の促進です。
総務省的に言えば「関係人口」になるが、総務省の関係人口は、地域づくりのコミットメントを求めるのは、過大な期待だ。自分が定住しているわけでもない地域の「地域づくり」に関わるのは、かなりのハードルとなる。
テレワークの普及も、職と住との関係を希薄にします。今回のコロナ禍も加速化させるでしょう。

地域が魅力的なところであれば、最新技術を使い、経済力も高い有為な人材を獲得することが可能な時代となってきます。
こうした人々は、移り住んできても、何十年も住んでくれるとは限りません。数年だけかもしれないし、住民票も移さず、都心部と行き来するような人たちも多いでしょう。
「地域に魅力を感じて住みたい、滞在したい」と思う人々が、本来的な関係人口ではないでしょうか?

とはいえ、単に「住む」だけ。住民票も移さないとなれば、地域(行政)にとってメリットは乏しくなる。飲食などの消費は発生するにしても、行政としてはコストアップ要因ともなりかねない。
となれば、関係人口の獲得が、地域(行政)のメリットにつながる仕組みに変える必要があります。
例えば、自治体の財政規模を算出する基準財政需要額において、定住人口だけでなく、関係人口を変数の一つにする。地域に居住用不動産(セカンドハウス)を持っている人は、住民税の分納が可能となり、それが(法定外税やふるさとの納税のように)基準財政収入額の枠外となるなど。
こういう制度が整ってくれば、関係人口を増大させることが自治体の財政規模を拡大させることにもつながり、地方の閉塞感を解消していくことができます。
「関係人口」を、半定住するような人々として法的に定義し、自治体行政と接続することができれば、地域振興のあり方や目標設定は、変わっていくのではないでしょうか。

今回のコロナ禍は、観光需要を大きく変え、世界中の観光リゾート地が対応していくことになります。
コロナ以前の「観光」は、量的には好調でしたが、いろいろな問題も生じていました。
今回のコロナ禍に伴い、持続性をもった日本観光のあり方を考え、観光政策の再デザインを行っていくことが必要です。