安売りインバウンド観光は本当に悪なのか? ~1杯の牛丼から考えを巡らせる~
(中西恭大さんのnote 2021年10月3日)
https://note.com/ynakanishi/n/n88b7a49da9c0

【ホッシーのつぶやき】
インバウンド屋の中西恭大さんの分析は深い。これは「富裕層消費の分析」だが、JNTOによる100万円以上消費する米・英・仏・独・豪の富裕層340万人で4.7兆円に対し、消費額100万円×300万人でも3兆円に過ぎないという。
三井住友カードの2019年の訪日外国人カード決済、約1300万人の分析によると、
300万円以上の消費 約6033人 平均消費単価630万円(総消費額380億円)
100万円以上300万円未満の消費 約42768人 平均消費単価150万円(総消費額641億円)
観光庁:https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001409537.pdf
で、合計しても1021億円。2019年の訪日客3188万人なので、3倍しても3000億円に過ぎない。消費額が増えることも考えられるが、富裕層1兆円は厳しいようだ。
高付加価値、高単価の戦略は多様化の観点から必要な戦略だが、幅広い層の観光客を受け入れる視点も失ってはならない。

【 内 容 】
月間220万MAUを誇る(コロナ直前まで。。)日本最大級の訪日観光メディア「tsunaguJapan」を運営しインバウンド事業を展開している株式会社D2C Xの中西です。コロナの影響で、インバウンド事業のみでは心許ない中、新たな事業として在留外国人向けの人材紹介事業 と 越境EC事業(主にクラウドファンディング)を目下急速に立ち上げています。

今回は、昨今の観光業界で注目されている富裕層向け観光とは真逆の”安売りインバウンド観光”について取り上げていきたいと思います。コロナ前までは、”観光公害”として安売りインバウンド観光は諸悪の根源として捉えられ、ポストコロナでは安売りインバウンド観光を見直し、持続可能な観光を確立していくべきという論調が良く見られます。

事前に考えを明確にしておくと、このような考え方を否定するつもりは全くなく、富裕層観光は2030年に15兆円のインバウンド観光消費を目指す上で欠かせない領域であり、有限である資源を活かすうえでサステナブルな観光を確立していくことも必須であると考えています。ただし、コロナ以前の安売りインバウンド観光を全否定すべきなのか?ということについて疑問に思うことがあり、筆を取りました(実際にはパソコン)。

※酒を飲みながら書きなぐった結果、7,000字超の大作となり、一部おちゃらけになっていますので、ご容赦ください。結論が読みたい人は、10.まとめに飛んでください。約15秒で読み終わります。

目次
1.久しぶりの牛丼のウマさ
2.そもそも富裕層観光とは
3.富裕層マーケットの規模感
4.現在地の確認 2019年の訪日観光消費単価
5.中間層は誰なのか?
6.アジアの中間層
7.初めての海外旅行
8.顧客獲得
9.Customer Relationship Management
10.まとめ

1.久しぶりの牛丼のウマさ
本日10月3日(日)のお昼、久しぶりに赤い看板の牛丼並盛350円(税込)をテイクアウトし、家族と共に食しました。一口、牛丼を口に放り込むと自分がまるでワイン漫画で有名な”神の雫”に出てくる”遠峰一青”ばりに唸った。

”お…おお…おお…おお…おお…おお…お”

う、う、う、う、うまい。良質な牛肉を如何にして安価に輸入するのか議論している会議室、新味を試食しながら品評会を行っている社員、毎日ランチは牛丼!!の社長(真実は知らない)、大きな寸胴鍋に入った牛をひたすらかき混ぜ、時には肉やタレを足し回すアルバイトの学生、など、”遠峰一青”の至極の表現にには遠く及ばない非常に現場感の強い描写が脳内を駆け巡る。

こんなに手間暇をかけた美味いものが350円?しかも税込みだと!なんだこの牛丼のレベルは。何故ミシュランに載ってないんだ?審査員の舌はイカレてるんじゃないか?(イカレているのは筆者の舌かもしれない) いや牛丼に限らない。日本には安くて美味いものがそこら中にある。何なら食べ物に限らない。体験など、安価で良質なものがあふれている。

”高付加価値のモノ・サービスが安すぎる、だから日本の賃金は上がらず、経済が良くなっているという実感が湧かない。” これは事実であり、今後の日本経済を占う上で物価の上昇は欠かせない要素であり、否定するつもりもない。

一方で、インバウンド観光という視点で言うと、高付加価値のモノ・サービスが安価に利用できるという局面は非常に大きな強みであるとも考えている。スイスや北欧などに行ったことがある人は分かると思うが、とにかく何でも恐ろしく高い。自分の記憶だとマクドナルドのアルバイト店員の時給が3千円くらいで、セットを頼もうと思ったら2~3千円はするような国だ。

いまの自分の収入において行けない国ではないが、では毎年リピートしようと思うか? 何度も訪れて深掘りしたいと思うか? で言うとNoだ。そういう意味で言うと、自分はこれらの国におけるターゲットから外れている層なんだと思う。

2030年に15兆円のインバウンド観光消費を目指す中で、誰に日本へ訪れてもらうかという戦略・戦術・視点は非常に大事な観点なので、この部分を再度確認したいと思う。

2.そもそも富裕層観光とは

(出典:富裕旅行市場に向けた取組について(JNTO) )

JNTOの調査結果によると、富裕旅行者の定義は、着地で100万円以上消費する旅行者のことを言うそうだ。着地消費とは、観光地側のことで日本までの交通費などを除き、純粋に日本(着地)でお金を落とした金額のことを指している。

この富裕旅行者は米・英・仏・独・豪の5ヶ国で340万人・合計4.7兆円の消費マーケット規模があると推測されている。

3.富裕層マーケットの規模感

JNTOの調査結果で得られた数字を基に簡単に並べてみたのが上記の画像である。観光消費額は、消費単価×訪問数という極めてシンプルな構図になるため、富裕層観光消費単価を100万円と定義した場合、100万人訪問数が増えるごとに観光総消費額が1兆円増えるイメージである。

仮に消費単価200万円の人が年間300万人訪日した場合の総消費額は6兆円となり、2030年の目標としてる15兆円の40%を占めることになる。現実感のある数字でしょうか? 個人的な感覚では、富裕層100万人から200万人の呼び込みを目標設定するのはアリだと思いますが、それでも観光消費額に与えるインパクトは良くても1~3兆円程度と思われます。

4.現在地の確認 2019年の訪日観光消費単価

コロナ直前である2019年の訪日観光消費単価の平均は、約15.8万円でした。(前述の富裕層など全ての属性を含んだ全体平均) 現在の目標ではこの数値を、2030年に一人当たり25万円まで引き上げ、6,000万人を誘致し、25万円×6,000万人=15兆円の観光消費額を達成しようという目論みです。

つまり、2030年の目標は、2019年比で消費単価は15.8万円→25万円で約1.6倍、人数は約3,180万人→6,000万人で約1.9倍を成し遂げる必要があるという理解です。

仮に、2030年に富裕層旅行者が300万人訪日するとした場合(消費単価は100万円想定)、富裕層観光消費額は3兆円になります。言い換えると、残り12兆円を富裕層以外の中間層で確保する必要があります。

人数据え置きの場合、単価据え置きの場合、その中間の場合の3パターンで試算してみましたが、いずれにせよ、野心的な2030年の目標に対して、富裕層以外の中間層の重要性が非常に高いことは、数字を見れば誰でも一目瞭然だと思います。

5.中間層は誰なのか?
日本に訪れる富裕層以外の外国人中間層はいったい誰なのか? これは様々な視点があるので、一概にこの属性だ!と決めるのは非常に難しいと思います。年齢、性別、収入、国、旅行目的など、ターゲットを定める上で様々な要素が複雑に絡み合うため、誰と決めるのは非常に難しいと思います。

しかし、ほぼ間違いないと言える属性があります。それは、
”アジア” です。

何だ?そんなこと誰でも分かるわ!と感じたと思います。ここまででもう既に3,000字くらい書いてきたのですが、ようやく本題に移りたいと思います。

このアジアの中間層を取り込む上で、安売りインバウンド観光は非常に重要な要素になると考えているというのがこのnoteで伝えたいことです。
安売りとか格安とか、文字にするとマイナスイメージしかないので、適切な表現があれば、誰か教えてください。(DMお待ちしております。)

今回は、牛丼から着想を得たので、あえてこのように呼びたいと思います。

牛丼チェーン型の訪日観光
書いてみて、あまりのダサさに唸りました

”お…おお…おお…おお…おお…おお…お”

遠峰一青さんに会うことが出来たら、本気で謝りたい。完全にボケるために利用させて頂いている。(ここで神の雫について宣伝すると、ワインが好きな方やこれからワインについて知識を得たい方にとっては必ず読んだ方が良い漫画です。楽しみながら、ワインについて学ぶことができ、唸ることができます。私は神の雫を読んで想像力を養ったといっても過言ではない。)

6.アジアの中間層

既に皆さんも肌感で持っていると思うのですが、次の成長市場は間違いなくアジアです。今後10-20年の間に急速に中間所得層が増加し、海外旅行を検討する層が増えてくるでしょう。

アジアにおける海外旅行需要の拡大は、主として当該諸国の可処分所得の上昇を反映したものであるが、その発展は二段階に分けることが出来る。一般に国民一人当たりGDPが$5,000 を超えると海外旅行が増加するといわれているが、中国、タイ等の国はまさにその基準を超えつつある。これらの国からの旅行者は、現状、初訪日の割合が高いことも特徴である。これらの国々は極めて大きな観光旅行需要のポテンシャルを秘めているといえる。
(出典:社会的ニーズへの対応を通じた新たな需要創出(みずほ銀行))
アジアの一人当たりGDPランキング

1人当たりGDP5,000ドルが海外旅行を検討する層として仮定すると、タイが既に超えており現在約7,000ドルです。そして皆さんご存知の通り、2019年では訪日数が100万人を超えた国となり、アメリカに次いで第6位の国となっています。また、インドネシア・ベトナム・フィリピンは3,000ドルを超え、5,000ドルに手が届くところまで来ており、中間層の海外旅行需要は今後急速に伸びていくと想定されます。

ここから少しマーケティングの話に入っていきます。まだ続くのかと思った方、申し訳ございません。現在、焼酎ハイボールを摂取しすぎた結果、筆が止まらなくなり(タイピングが)、ハイになっています。

”初めての○○” これほど重要な経験は無いと思います。”初めて” ということはほとんどの皆さんは良くも悪くも必ず覚えています。かなり克明に覚えています。私は、初めての海外旅行をフランスに行ったのですが、空港に到着した時の高揚感やその国独特の匂い、ホテルに行くまでの道のりで地球の歩き方を持ちながら歩いたときの景色(当時はスマホが無い)、深夜の道端でまったく見知らぬ人に声を掛けられた時に ”●※★▲味噌汁ぶプレ!!” 汁! 味噌汁か!なんだ!? と驚いたことを鮮明に覚えている (後に シル‐ブ‐プレ s’il vous plaît = Please 的な意味であることを学ぶ。フランス人から味噌汁について聞かれるなんてことはまず無いことをここに添えておく。(仏料理風)) 

話を観光に戻す。では、アジア各国における日本のポジションはどうなのか? ここに確実なデータは無いので恐縮ですが、アジアの中間層で初めての海外旅行を検討している方々の第一想起群(選択肢の第一候補)に日本はまず間違いなく入っているはず。これが非常に重要です。

マーケティングで最も重要な要素の一つとして、第一想起に名前が挙がることが重要なことは周知の事実でしょう。アジアからみた日本は、

・近い!(めちゃくちゃ重要)
・高い!(中間層から見た視点)
・異文化!(主に東南アジア)
・憧れ!(アニメとかの影響?)

上記の印象はほぼ間違いなく持っているはずで、この辺りがトリガーとなって初めての海外旅行の選択肢に入ってくると考えています。これは、電化製品・アニメ・自動車など先人の方々が築き上げた実績と信頼が良いイメージを積み上げ、今に繋がっていると思っています。インバウンドという言葉が無かった時代に築いた点と点が繋がって線になっている実感はあり、高度経済成長期の輸出産業が構築したイメージがインバウンド観光という形で時空を超えて還元されているとすら感じています。

8.顧客獲得
安売りインバウンド観光は最悪だ、ポストコロナでは見直すべきだ、そんな論調をよく見かけるようになりました。それについて否定するつもりはないが、その論調の裏側には、

安売りを止めて高付加価値に集中すれば、日本は新たに顧客が獲得できる
という前提が隠れていると思います。そこに疑問があります。本当に顧客は獲得できるのか?富裕層などを中心とした消費単価の高い層は全ての国が狙っていて、かつ対象人数が少ないという非常に難しいマーケットです。

顧客獲得の大変さは、ビジネスを展開している人であれば、誰でも分かると思います。特に初めての顧客を獲得することのハードルは非常に高いです。

一方で、インバウンド観光という視点で言うと、高付加価値のモノ・サービスが安価に利用できるという局面は非常に大きな強みであるとも考えている。
ここでようやく第1章の牛丼ストーリーに書いたこととtsunagaるのである。(ちなみに当社運営のメディアは tsunaguJapan というので宣伝させて頂く)

通常のビジネスでは初めての顧客獲得のために様々な施策を打つ。分かりやすいことで言えば、初回限定だ。初回無料、初回50%OFF、初月無料、14日間お試し無料 など。とにかく、最初の顧客獲得のために、様々なコストをかけて獲得する。それは何故か?

獲得した顧客をリピーターにするため
どんな良いサービスをリリースしても、どんな良い商品を作っても、誰も買ってくれなければ、そのサービス・商品の良さを知ってもらうことは無い。当たり前である。裏を返せば、初回購入さえして頂ければ、リピートしてもらえるという商品・サービスを日々磨き上げ用意しているはずなのである。

その点では、観光における ”日本” という商品・サービスはどうだろうか?

ことアジアにおいては、恐らく既に第一想起群に入っている超優秀なブランドであり、実際に訪問してみると、美味い飯や綺麗なホテル、楽しい観光体験が諸外国に比べるとかなり安価で体験出来て、めちゃくちゃ満足度が高い。
ということにならないだろうか? この初めての海外旅行における満足度を構成していたのが、タイトルに記した”安売りインバウンド観光”における体験だった気がしている。

9.Customer Relationship Management
では、既に初期顧客を獲得できる素地が整っている日本が行うべき施策は何か? CRMだ。顧客とコミュニケーションし、(上目線で言えば)顧客を育成していくこと。

顧客育成(つまり消費単価向上)については、アジアという膨大な中間層成長マーケットがすぐ近くにあり、日本が何もしなくとも自然と経済成長を遂げ、1人当たりの所得が向上し、10年20年単位で見ていくと、リピーター顧客の訪日消費単価は現在に比べると上がっていくことは間違いないと思っている。下記のようなイメージだ。都合良く書いているが、国家の経済成長に伴って所得が上がっていくのはほぼ間違いないだろう。

一方、顧客とのコミュニケーションは完全に欠落していると思っている。訪日頂いた ≒ ビジネスで言う初回購入者の連絡先は確実に獲得するのが当たり前であるが、訪日観光という領域ではそれが出来ていない。正確に言うと、各消費フェーズで各事業者がバラバラに連絡先を取得しており、一体全体どうなっているのか誰も分からないというのが実情だろう。

ワクチンパスポートの記事は省略

牛丼チェーン型の訪日観光
つまり、初回は牛丼でいいのだ。とにかく食べてくれ。その後、まずは豚汁おしんこセットを提案しよう。350円が610円と+260円のアップセルだ。よし、次は高菜明太マヨ牛丼+豚汁おしんこセットを提案だ。610円が740円と+130円のアップセルだ。そろそろ1,000円台が見えてきた。ここで提案するのは、牛丼ではない、新しい体験である”特うな丼”だ。牛丼チェーンでうなぎ!?と思った方がいるだろうが、良質なウナギが2匹入っている。しかも山椒付きだ!少し興奮してしまいましたが、顧客接点が構築できれば、様々な体験が提案できるので、その構築は必須だよねということです。

10.まとめ
焼酎ハイボールのおかげで支離滅裂な長文になってしまったことを反省しつつ、とにかく伝えたかったことは、

安売りインバウンドの否定はやめた方が良い。観光戦略においてはバランスが重要で、もっと長期視点で見れば、格安で訪日した人が将来富裕層になってリピートして頂ける可能性があると思う。 
ということです。この3行を伝えるためだけに、約7,000文字も書いてしまいました。ここまで読んで頂いた方、最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

2023年2月14日より営業職の採用を開始しました!もしご興味ありましたら、ご応募いただけますと幸いです。

www.wantedly.com
訪日外国人向けインバウンド事業を共に拡大する企画セールスを募集中!!
株式会社D2C X
Twitterではnoteよりも更新頻度多く観光やインバウンド、越境ECのことなどを気軽につぶやいていますのでぜひフォローください! (何故かTwitterのイメージがうまく表示されないのはご容赦ください)