ふるさと納税、寄付集め先行で使い道後回し 民間が知恵
ふるさと納税 問われる活用力㊤
(日本経済新聞 2022年8月2日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC25A3C0V20C22A7000000/?unlock=1

【ホッシーのつぶやき】
「ふるさと納税」で集まった寄付金の使い方に頭を悩ませる自治体も多い。
島根県海士町の活用方法はユニークで着実だ。寄付金の25%を積み立てて原資として、地域事業者などから提案を受け有望案件に投資するという。21年度は2000万円が投資された。
海士町の取り組みが成功しているのは、10年近くも「島会議」で海士町の未来を託す人材のネットワークができているからだ。島外の参加者も多く、この地域の動向にも目が離せない。

【 内 容 】
ふるさと納税が拡大を続けている。2021年度の寄付額が2年続けて過去最高を更新した。一方、集まった寄付金の使い方に頭を悩ませる自治体も出てきた。人気の高い返礼品をそろえて寄付を集めるだけでは持続的な地域活性化にはつながらない。寄付金を生かす知恵が問われている。

島根県海士町への寄付金は、ナマコ養殖など民間提案事業への投資に使われている(同町)
島根半島から北に約60キロの隠岐諸島にある島根県海士町。人口2300人ほどのこの町で21年度、海の資源を活用した2件の新事業が立ち上がった。ナマコ養殖とクルージングなどの観光アクティビティーだ。両事業にはふるさと納税で町に集まった寄付金から計2000万円が投資された。

投資先を決めるのは町などが20年12月に設立した一般社団法人、海士町未来投資委員会だ。地域の事業者などから事業費500万円以上の提案を受け付け、熱意や町への波及効果などを見極めて有望な案件に投資する。寄付金の25%程度を積み立てた「海士町未来共創基金」を原資とし、投資後も伴走支援する。

現在は2年目の新規提案を受け付ける。町の担当者は「役場の補助金よりもスピーディーに運用できる。町の未来を担う産業を育てたい」と意気込む。投資事業を発表して町への寄付は「倍々で増えている」といい、21年度は2億270万円と発表前(19年度)の4.9倍に達した。

ふるさと納税は納税者が故郷など地域を応援するために08年度に始まった。自治体は地域が元気になるよう寄付金を使う必要がある。

ただ、現状は活用よりも寄付集めが先行しがちだ。返礼品の拡充には積極的な一方、「寄付金を使い切れず、何に使うか悩んでいるところは多い」(九州のある市)。海士町も以前は「予算化の手続きもあり、活用に腰が重かった」といい、北海道では寄付金の活用額が2割程度で、残りを基金に積み立てている自治体もあった。

寄付をする際に使い道を指定できる自治体は多いが、ほとんどが「人づくり」「産業振興」など大まかな事業分野を示すにとどまっている。具体的な事業まで絞って選べる自治体は26%の460にとどまる。集まった寄付金を基金に積み立てて将来の投資や不測の事態に充てるのも一つの使い道だが、佐藤主光・一橋大教授は「本来は使いたい事業があって寄付を募るべきだ」と指摘する。

少子高齢化や人口減少が進む中、従来の延長や横並びではない新たな地域活性化策の推進は待ったなしの課題だ。自治体の寄付活用力が試されている。

ふるさと納税は元福井県知事の西川一誠氏が提唱した。お膝元の県内では使い道を市民から公募する取り組みが進む。坂井市が08年に「寄付市民参画制度」としていち早く始めたほか、福井市も20年度から市内48地区の住民組織などから地域の課題解決や活性化につながる事業の提案を受け付けている。

提案事業は審査のうえクラウドファンディング型のふるさと納税として寄付を募る。コウノトリの繁殖環境の整備など全7件で目標額を上回る寄付を集めた。福井市は「市の財政にも限りがある。地区に必要な資金集めをふるさと納税で手伝いたい」と話している。