旅館の伝統的な「おもてなし」は不要? 消費者3000人調査でわかったコロナ禍による旅行意識の変化 ―トラベルボイスLIVEレポート
(トラベルボイス 2020年7月26日)
https://www.travelvoice.jp/20200726-146700

旅館の”おもてなし”で「なくていい」ものに、お迎えや見送り、仲居さんのお茶出し、荷物運びが6割以上があり、新しい観光スタイルに影響を与えそうだ。また、感染防止意識が高く、今後の観光に必須となる。またキャッシュレス化もさらに進みそうだ。
料金については、「通常と同じであるべき」44%、「多少(100~500円程度)上乗せされていても良い」31%となり、旅行のきっかけは「割引クーポンなどキャンペーン」が49%となった。

【ポイント】
2020年7月前半に開催された「トラベルボイスLIVE」で、東海大学観光ビジネス学科・教授の小林寛子氏が、全国約3000人の消費者に実施した「新型コロナウイルス感染症収束後の旅行・観光に関する意識調査」について語られ、消費者が必要不可欠と考える感染症対策、ニューノーマルの生活様式においては不要と思われるおもてなしなど、意識の変化が浮き彫りとなった。

宿泊施設の感染症対策について「ないと嫌だ」と思うものは、「個包装・使い捨てのアメニティやスリッパの提供」52%。「来館者の全員マスク着用必須」48%、「利用者数の制限」48%を占めた。
『個包装・使い捨て』が最も多かったのはやや意外だったが、その次に多い2つの回答も合わせ、宿泊者同士による感染リスクへの懸念が強いと感じると話した。

「コロナ対策ポリシーおよび感染発生時の対応マニュアルの公開」が40%という点に着目し、感染症対策についてどのタイミングで確認するかでは、「訪問前」と「入館時」がともに36%で合わせて7割を超え、「あまり気にしない」の28%を大きく上回ることから「感染症対策についての情報公開が今後の観光には必須と言える」と指摘した。

キャッシュレス決済のニーズは4割、安売りより徹底した感染症対策が優先
飲食店、アクティビティ、イベントについても「ないと嫌だ」と思うものは、感染者が出た場合に濃厚接触者を特定する「追跡システム導入」が、飲食店では24%、宿泊施設とアクティビティはともに31%、イベントでは41%とあり、「不特定多数が集まる機会ほど、ニーズが高まっている」と話した。

アクティビティでは、「利用者数の制限」62%、「従業員が大声を出さない工夫」43%、「受付の簡略化やキャッシュレス決済」40%となり、「三密や接触をなるべく避けたい意向が強い」と感じ、アフターコロナの訪日客も見据えると、今がキャッシュレスシステム導入の好機と指摘した。

旅館や観光施設などでコロナ感染対策が徹底された場合の料金について、最も多かった回答は「通常と同じであるべき」44%で、「多少(100~500円程度)上乗せされていても良い」も31%を占めた。
「割引すべきという回答は少なく、安売りよりも徹底した感染症対策が最優先と考える消費者が多い」との見解を示した。

旅館のおもてなし対応で、コロナ禍において「なくても良い」と思うものは、「スタッフ一同でのお迎え&お見送り」70%、「仲居さんからの部屋でのお茶&おしぼり出しなど」67%、「客室までの荷物運び」64%と、いずれも高い割合を占めた。
「トラベルボイスLIVE」参加者からも、「仲居さんからの部屋でのお茶&おしぼり出しなど」77%、「客室までの荷物運び」66%、「スタッフ一同でのお迎え&お見送り」「お車の移動」がともに59%と、ほぼ同じ結果となった。
「上位を占めたのはどの老舗旅館でも当たり前に見られ、昭和から続く光景だが、お客様にとって本当の意味でのおもてなしになっているのか。形から入り、作法として行なっていた面もあるのでは。コロナ禍は改めて従来のおもてなしを見直し、新しい観光のあり方を検討する好機となるのでは」と述べた。

今年度の旅行時期の意向では、9〜11月が59%と最多で、8月の43%を上回ったが「今年度は行かない」という回答も12%を占めた。
旅行は「日本中どこでも行く」47%、「自分の住む都道府県の隣県やエリア内」29%、「海外まで行きたい」が15% を占め、予想以上に積極的な意向で驚いたとコメントした。

旅行を検討するきっかけは、「割引クーポンなどキャンペーンの実施」が49%と最多だが、その次に「観光地・観光施設からのリアルタイムの情報」が35%、「観光地・観光施設での感染防止策の取り組み情報」が30%と続くことに注目した。

「感染症対策の公開と同様に、求められているのが現地発のリアルタイムの観光情報で、将来の顧客とつながりを持ち続けることが重要。いずれも宿泊施設や観光施設が単独で行うのではなく、地域で連携して「面」で取り組むことが、選ばれるために必要と言える」と締めくくった。

この調査は、熊本県観光協会連絡会議が全国の一般消費者を対象に、2020年5月31日~6月2日にフェイスブックを通じて行い、小林氏は調査の設計から結果考察の執筆まで関わった。
有効回答数は3041で男性55%、女性45%と男性がやや多く、年代は40代と50代がそれぞれ約3割、60代と30代がそれぞれ約1.5割とミドル層が多い。平時の旅行頻度は「年に数回」の57%が、コロナへの衛生対策実施状況は「ある程度実施している」の67%が最多となっている。