大阪・泉南市の公有地、PFIで年150万人来園のリゾートに
地域のチカラ 街のイノベーション
(日本経済新聞 2022年8月1日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF308120Q2A530C2000000/?unlock=1
【ホッシーのつぶやき】
開業から2年を迎えた「泉南りんくう公園」。1年ほど前からテレビ撮影も増え、今は年間150万人が訪れるといい、グランピング施設は1泊5万~9万円超で夏休みほぼ満室だという。
約2キロにわたる公園は約26ヘクタール。土地使用料は無償だが、事業者収益で全費用を負担する「独立採算型」だ。施設の固定資産税と都市計画税を10年間免除だとはいうが、民間丸投げでない苦労の跡が見受けられる。
【 内 容 】
大阪湾に浮かぶ関西国際空港の対岸にできた「泉南りんくう公園」(泉南ロングパーク、大阪府泉南市)が今夏、開業から2年を迎えた。雑草が茂っていた公有地はPFI(民間資金を活用した社会資本整備)により、年間150万人が訪れる都市公園へと変身。高齢化と財政難に苦しむ人口6万人の市に、にぎわいをもたらしている。
ライトブルーやピンクの差し色が印象的な真っ白な建物、中庭のジャグジー、アウトドアキッチン……。公園北部に位置するグランピング施設は1泊5万~9万円超と高級ホテル並みの値段にもかかわらず、夏休み期間中は平日も含めてほぼ満室だ。和歌山県印南町などから3世帯9人で訪れた菊本貴大さんは「おしゃれなテラスで食事ができ、非日常を味わえた。夏休みの思い出になればいい」と話す。
グランピング施設にはアウトドアキッチンもある
一帯は2020年7月の開業前まで、大阪府が管理する「府営りんくう公園」の一部だった。海水浴場や漁港などが隣接していたこともあって活用が期待されていたものの、開発は進まず雑草が生い茂る塩漬けの状態となっていた。
泉南に”ワイキキビーチ”をつくれないか――。地域の資源を最大限に生かしつつ国内外から観光客が訪れる拠点をつくろうと、竹中勇人市長(当時)は府から土地を無償で借り入れレクリエーションゾーンとしての再生に踏み切った。
公園用地の面積は約26ヘクタールと東京ドーム5.5個分に相当。高齢化と財政難で苦しむ泉南市には公園を新設する体力はなく運営のノウハウもない。成功する見込みは限りなく低いという意見が大勢を占める中、選んだ事業のスキームがPFIだ。
約2キロにわたる公園の整備と運営を事業者に一任。事業者が得られる収益で全事業費用を負担する「独立採算型」という方式を採ることで、市費を一切投入せずに済むというわけだ。内閣府によると、主に収益性の高い空港ターミナルビルなどに用いられることが多く、公園への導入は全国でも珍しい。
事業者には都市公園の運営経験が豊富な大和リースが公募で選ばれた。砂浜沿いに並んだヤシの木を生かし、リゾート感を演出。園内には複数のフォトスポットを設置するなど徹底的に”見せ方”にこだわった。そのねらい通り、開園直後からSNS(交流サイト)で話題を呼び、年間約150万人が訪れる市の目玉観光地となった。
市は事業者が安定した公園運営を継続できるようサポートに徹する。
事業者が支払う土地使用料を無償としたほか、事業が軌道に乗るまでは設備投資や広報戦略に重点を置けるよう、施設の固定資産税と都市計画税を10年間免除した。契約期間は30年に設定することで、事業者に目先の利益だけではなく、長期的な視点での設備投資をするよう促した。
地域と信頼関係の構築も欠かせない。公園の「マルシェエリア」では毎週末、隣接する漁港の漁師らが朝市を開催する。地場産の鮮魚を販売することで、来園者に地域の魅力を知ってもらうきっかけとなっている。
日本総合研究所の板垣晋シニアマネジャーは「海岸など地域資源を生かした公園の公共機能と有償施設などの集客機能のバランスに優れた公園設計になっている」と評価。「行政と事業者の双方が長期的な運営ビジョンを共有し、役割分担をしながら事業を進めていくことが重要だ」と指摘する。
インバウンド誘致、次の課題
新型コロナウイルスの感染が拡大する前、関西でも訪日外国人(インバウンド)が年々増加、その玄関口が関空だった。しかし、空港から大阪市内や京都などに向かう観光客が多く、観光資源の少ない泉南市など空港近くの自治体は頭を悩ませていた。突破口を探る中、立地を生かした官民戦略のひとつが泉南ロングパークだった。
新型コロナでインバウンド需要は見込めない状況が続くが、関西一円から集客できる施設に育った。市の担当者は「波及効果で泉州の経済を回す」と語る。税制優遇などで民間の力を引き出した泉南市はひとつの解を示したといえる。コロナ収束後にインバウンドをどう呼び込むかが次の課題となる。