百貨店外商、40代以下の富裕層に的 伊勢丹は購入5倍
(日本経済新聞 2022年9月1日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC245DN0U2A820C2000000/?unlock=1

【ホッシーのつぶやき】
世界の家計資産は21年で472兆ドル(約6京5400兆円)と16年から4割以上増えている。年収が横ばいの日本は1割強しか増えていない。しかし、資産100万ドル(約1億3800万円)を保有する日本の富裕層は21年時点で365万人。米国(746万人)に次ぐ世界2位だという。
百貨店の「外商」が富裕層顧客に狙いを定め、顧客の若返りが進んでいるようだ。日本も貧富の差も開いていくのかもしれない。

【 内 容 】

百貨店で「外商」と呼ぶ富裕層向けサービスの顧客若返りが進んでいる。伊勢丹新宿本店(東京・新宿)では44歳以下の購入額が新型コロナウイルス禍前の5倍に拡大。大丸松坂屋百貨店では、新設したオンライン窓口経由の入会者の6割を44歳以下が占めた。訪日外国人客の特需が消えるなか、各社は残された強みである富裕層の顧客拡大に注力する。

「最初は半年かかるって言われたけど、誕生日に間に合わせてくれました」。海外ブランドのアクセサリーを手に笑顔の30代女性医師は、2021年に三越伊勢丹の外商顧客になった。「オンラインでは販売していない商品もそろえてくれる」と、高級品分野の商品調達力を評価する。

外商は武家屋敷を回って注文を聞いた江戸時代の呉服屋にルーツがあり、専任販売員が顧客宅まで通って要望に手厚く応じる。三越伊勢丹では旗艦2店の合計売上高の2割を外商が占める。各社は顧客の基準を公表していないが、購入額や資産額などを基準に勧誘しているようだ。「若い層では起業家などが多い」(三越伊勢丹ホールディングス)という。

コロナ禍からの回復局面では株式などの資産価値が上がった。一方で旅行は制限されたため、膨らんだ富裕層の消費意欲は時計や宝飾品などの高額品に向かった。

特に伸びが著しかったのが30~40代の比較的若い層だ。伊勢丹新宿本店で21年度に購入額が1千万円以上だった外商顧客のうち、44歳以下の合計購入額はコロナ前の19年度比で5.4倍に増えた。4割増だった55~64歳、65~74歳の伸び率を大きく上回る。

「若い外商顧客はスピードを重視する傾向が強い」(伊勢丹新宿外商部の種村俊彦部長)。隙間時間などで来店し、希望の商品を外商ルームで見て短時間で購入を決めるという。同店では1対1での接客が基本だったが、1人の外商顧客を3~4人などのチームで担当する体制を取り入れた。要望に迅速に対応して失注を減らすためだ。

J・フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店も若年層の掘り起こしを進める。40代以下の外商顧客の21年の購入額は、コロナ前の18年から57%増えた。大きなきっかけはオンラインの入会窓口を設けたことだ。

21年秋から、大手ニュースサイトなどで対象を絞りつつ入会を勧める広告を掲示。「入会基準のハードルは下げていない」(同社)が、間口が広がり今年3~5月に入会した人の6割がオンライン経由。そのうち6割を25~44歳が占めている。

外商顧客の若返りに取り組むのは、百貨店の収益構造が揺らいでいるためだ。好立地の大型店でかつては小売りの王として君臨したが、専門店やネット通販の台頭で斜陽に。訪日外国人特需もコロナ禍で消えた。残された強みが富裕層顧客だが、若い世代を引き込まなければ先細りになる。

富裕層は複数の百貨店の外商を使い分けることが多く、他社との差異化も欠かせない。三越伊勢丹は顧客の要望に応じ、イタリアの高級ブランドへのオートクチュールドレスの発注を実現した。日本の百貨店向けでは前例がないという。既製品にとどまらない調達力を磨く。

大丸松坂屋はタワーマンション全戸に外商サービスを提供する(ブランズタワー大阪本町)

24年3月に引き渡し予定の大阪市内の43階建てタワーマンションの購入者全体に外商サービスを提供する。コンシェルジュを利用したり、共有スペースでの企画販売に参加したりできる。

同マンションは大丸心斎橋店(大阪市)から徒歩15分圏内。「店舗との距離などの条件次第で他の店舗周辺の物件でも導入を検討する」と加藤俊樹・営業本部長は話す。

外商担当者は専門職的な位置づけで、大手各社の歴代社長でも外商の経歴が目立つ人はほとんどいない。ただ、今後は深い接客力が再浮上のカギになる。三越伊勢丹は全若手社員に外商の研修を必須とする方針だ。

100万ドル資産家、日本2位
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)によると、負債を考慮した世界の家計資産は21年で472兆ドル(約6京5400兆円)と、16年から4割以上増えた。日本は同期間で1割強しか増えていない。年収水準が30年にわたって横ばいの日本は、中間層の消費力が成長していないことがうかがえる。

ただ、富裕層に目を転じると状況は違う。仏コンサルティング会社キャップジェミニによると、日本で資産を100万ドル(約1億3800万円)以上保有する富裕層は21年時点で365万人。米国(746万人)に次ぐ世界2位で、3位にも2倍以上の差をつける。三越伊勢丹も「我々が取り込んでいるのは富裕層市場のごく一部」と話す。

野村総合研究所の米村敏康氏は日本の富裕層向け市場について「サービスを提供するプレーヤー数が限られている」と指摘する。首都圏以外では特にサービス提供者が少なく、需給バランスのずれが起きているという。

富裕層の属性も多様化し、絵画や宝飾といった従来型の商品だけでは需要を満たせない。暗号資産(仮想通貨)や非代替性トークン(NFT)を使ったデジタルアートなど、新分野にも切り込めるかが勝敗の分かれ目となりそうだ。