今、観光地で起きているコト ☞ 誰がどうする 【質疑応答・ディスカッション】
(『観光のひろばZOOM』 2021年9月13日)
https://smrtkanko.com/オーバーツーリズムを考える!(講演概要)-『今/

【ホッシーのつぶやき】
このディスカッションも有意義でした。川越に隣接したところに住む方の情報でより深く理解でき、オーバーツーリズムは「アンノン族」が京都に押し寄せた1970年代後半から起こっている。常連さん、リピーターを大切にされたとのエピソードや、地元が「自分の街を守る」気概を持たなければならないなど、多様なヒントを聞く機会になりました。
講演を聞いて良かっただけではなく、ディスカッションすることは大事だと再認識しました。

金子:私は、川越の隣接地域に住んでいます。私の記憶では、川越が便利になったのは埼京線開通などでアクセスが改善された約30年前で、観光地化したのが10年くらい前からだと思います。
川越市民には、「古くから住んでいる市民」、埼京線が通って「住みやすくなったから移住してきた市民」、「観光地になって入ってきた市民」の3パターンがあり、“亀屋”のような地元銘菓の老舗は観光客も歓迎だが、地元民住民を客としていた古くからの商店は困惑しており、観光地化してから入ってきた事業者さんは「稼ぎたい」と思っておられる。この渾然一体となっているのが川越であり、観光を研究するのには非常におもしろいモデルだと思います。

野杁:川越の家主さんと入居事業者との関連はいかがでしょうか? 長い目で見て価値を上げていきたいので、良い事業者に入ってもらいたいと思う家主さんもおられるでしょうか?

井上:調べたことが無いのでどのような関係になっているかの現状はわかりません。私の印象ですが、町並みに新しく入られる事業者さんは、全国展開される店舗などが多く、地域のことを考えて入ってこられる事業者さんは、少ないと思っています。ただ、商業を営んでいく過程で、町への関心を深め、商店街の会で積極的に活動されている方もいらっしゃいます。
蔵造をテナントとするのはいろいろな経済的理由がありますが、とはいっても、文化財保護法の「伝統的建造物群保存地区」となっていて、改修・修復などに何らかの公費助成も受けていることを考えれば、経済性だけを優先することには疑問を感じています。
ここ10年ぐらいでしょうか、町並みの通りからちょっと外れた通りでも、普通の民家がお店になってきています。

金子:川越も、蔵の街から少し離れた地域で「古い建物を守ろう」という“家守会社”を作っているグループもいます。古い建物をリノベーションしている会社なので、家主の許可を得て、リノベーションして地域と共生できる事業者さんに入居してもらっている地域もあります。川越の蔵町の周辺にも古い建物がたくさん残っているので、エリアを広げて考えると良い地域になりそうです。

清水:弟の嫁が川越で古着屋をやっており、川越のまちづくりについて相談を受け、アドバイスさせてもらったその一つが「電柱を無くすこと」であり、もう一つが「古い料理をきちんと残すこと」でした。京都でも「無電柱化」を推進し、「古い料亭」は流行っています。また京都の五条坂には「食べ歩きのお店」がほとんどありません。それが出来た理由は、「売りに出た物件をすぐに地元団体が購入して、自分たちの眼鏡にかなった人しか入居させない」としたからです。自分たちの街を、自分たちで守らないと無茶苦茶になってしまいます。

佐竹:オーバーツーリズムになるのは日帰り観光客の問題です。宿泊客だけではキャパオーバーになることはありません。私がJAL京都支店にいた時、“アンノン族”でオーバーツーリズムが起こりました。近所のお店にお客さんが殺到して、一旦営業を停止した後、値段の高いランチメニューが作られました。この時、常連客にクーポン券を配り、クーポンを使うと従来の価格で食べられる仕組みとされたのです。ここで大切なのは「常連客(リピーター)を大切にした」と言うことです。
川越も誰がリピーターのお客様かを考える必要があると思います。「商人の会」が、住民意識を一つにしていく合意形成の場であってくれれば良いのですが…。

金子:「川越カイギ」というまちづくりの会議のモデルは熱海です。熱海は、かつては新婚旅行のメッカ、次は団体旅行のメッカ、そして男性の旅行のメッカと変遷した後、衰退しました。今のお客さんは若い人ばかりです。年寄りは住んでいる方です。そして若い事業者のメンバーが「熱海カイギ」と言う場を作り、市長も商工会議所もバックアップして、街が変わっていきました。
「川越カイギ」は、商人の会だけでなく、蔵の街だけではなく市内の幅広いエリアの市民等が参加しているものです。

星乃:私はアンケート調査結果から、合意形成しやすいのは「食べ歩き」ではないかと思いました。ステークホルダーが大勢おられると言うのも、どこも共通なので、合意形成しやすいものを求めていく議論をされたら良いのではと思いました。

釼菱:舞鶴でも観光客を呼び込もうとしていますが、宿泊施設はこれまでビジネスホテルしかありませんでした。そこにゲストハウスなどができ始め、これから宿泊施設の多様化が進めばと思っています。宿泊施設が無いとリピーターを作れないという問題も感じます。

佐竹:宿泊施設は最大の経済効果をもたらしますので多様化していくことは大切です。また、宿泊観光客に24時間満足させるものを用意しなければならないので、満足できるものを整えるのも大切です。地域に魅力がなければ宿泊客は来てくれません。

野口:奈良で「観光の目的」について議論した時、「人と人との交流であろう」と言うことになったのを思い出しました。川越の話を聞いて、地域の観光に思いを持つ次の担い手たちの議論する場があれば良いなあと感じました。

遠藤:オーストラリアは行政の力が強いので、ロックダウンのように強い強制力も発揮できますが、川越のように、地域のステークホルダーの人がディスカッションして合意形成していくことの大切さも、今日、楽しく勉強させていただきました。一つ気になったのが「旅行者の視点」です。旅行者の方とのコミュニケーションも取り入れていただけるとより良くなると思いました。

佐竹:日本も80年代に海外旅行ブームになりたくさん恥をかきました。それを旅行者にどう伝えるのかディスカッションして「実態をフィードバックするしかない」、その伝え方は “ささやき”が一番だと言うことになりました。例えば、ディオールの店でネクタイを「ここからここまで全部」と買ったOLがいたとして、それを見たパリジャンが「あの人は凄い、ボーイフレンドがあんなにいるんだ」と語ったと、旅行会社の人に“ささやく”と、旅行会社の人は説明会で「とっておきの情報です」として伝えてくれる。この情報は「他所では言わないでください」といえば言うほど伝わります。
旅人も「このような旅がしたい」という思いを持っておられるので、「日本では、このような旅のスタイル」というような台本を作ることが大切だと思いました。