旅行者が求めるサービス、感染症流行で大きく変化、 こんな「おもてなし」はもう要らない
(トラベルボイスセミナー 2020年7月13日)

5月31日~6月2日の調査であり、旅行意向も変化している面があるが、感染対策は必須として、「なくても良い」の「仲居さんによるお茶やおしぼりの提供」(67%)「荷物運び」(64%)「スタッフ一同でのお迎えやお見送り」(70%)は、新しい観光スタイルのきっかけになるかもしれない。
「GoToキャンペーン」を期待する人が8割と、旅の再開のきっかけになる可能性が高いようだ。

【ポイント】
熊本県観光協会連絡会議が発行した、東海大学経営学部 観光ビジネス学科 小林寛子教授の『旅行者が求めるサービス、感染症流行で大きく変化、 こんな「おもてなし」はもう要らない』のレポートが、トラベルボイスLIVE・オンライン版で発表された。
ダウンロード用の報告書URL⇒https://www.travelvoice.jp/download/live/TravelvoiceLive2020070613.pdf

Q.【宿泊施設】基本的な感染症対策に加え、「ないと嫌だ」と思うものを教えてください(複数選択可)
A. 一番数の多かったものが「個包装・使い捨てのアメニティやスリッパの提供」(52%)ということは少し意外でもあったが、やはり使い回しのものに対する感染リスクへの不安の表れではないかと思われる。さらに「利用者数の制限」(48%)や「スタッフ、お客様のマスク着用必須」(48%)など基本的な感染症対策に関して望んでいる人は多く、全体的にかなり意識が高い。部屋に空気清浄機の設置(43%)を希望している数もかなりあった。加えて「感染発生時のマニュアルの公開」(40%)など、想定されるリスクに対してのマネジメントがどれほど出来ているのかの確認を利用者も求めているのが伺える。
旅行者の感染対策への意識は、女性の意識が高い結果となった。

Q.【宿泊施設】伝統的な旅館のおもてなし対応で、コロナ禍において「なくても良い」と思うものがあれば教えてください(複数選択可)
A. 「仲居さんによるお茶やおしぼりの提供」(67%)「荷物運び」(64%)「スタッフ一同でのお迎えやお見送り」(70%)など、どこの老舗旅館でもこれまで当たり前に見られていた光景であるが、これからはそれがなくてもコロナ対策としてむしろポジティブに捉えられると思われる。おもてなしに対しての考え方は時代と共に変わってきており、お客様のニーズも変容している今だからこそ、宿泊施設におけるおもてなしの意味やスタッフの配置、経費のかけ方の優先順位などを再考するよいきっかけではないだろうか。

Q.【飲食店】基本的な感染症対策に加え、「ないと嫌だ」と思うものを教えてください(複数選択可)
A. 基本的な対策としての「人数制限」(61%)は当たり前で、加えて各店舗での自助努力に期待されている。しかし「店員のフェイス シールドの着用」(14%)「従業員の健康チェック表の提示」(22%)「営業時間の制限」(10%)にはそれほどこだわりはないようで ある。
時間の問題ではなく感染対策をしながらの営業を望んでいると考えられる。また万が一感染者が発生した際に濃厚接触者への連絡が速やかに出来る「追跡システムの導入」(24%)も望んでいる点が興味深い。

Q.【アクティビティ】基本的な感染症対策に加え「ないと嫌だ」と思うものを教えてください(複数選択可) ※アクティビティは、ガイドツアーやトレッキング、施設利用(テーマパークやボルダリングや工芸体験など)などを想定ください。
A. 観光地におけるアクティビティ催行時に三密を避けることはかなり難しいが、「人数の制限」(62%)「大声で話さなくてもコ ミュニケーションが取れるような工夫(スピーカーなどの利用)」(43%)で軽減することを望んでいる人が多い。また「キャッシュレス決済」(40%)を望んでいる人もおり、アフターコロナにおける決済はキャッシュレスが当たり前になることが想定される。

Q.【イベント】基本的な感染症対策に加え、「ないと嫌だ」と思うものを教えてください(複数選択可)
※イベントは、フェス、夏祭り、マルシェなどを想定ください
A. 多くの不特定の参加者が想定されるイベントには、感染症対策を広範囲に望んでいる傾向が見られる。「人数・定員の制限」(68%)は顕著。採算性を考えるとイベントの実施に関してはかなり慎重にならざるを得ない。また、不特定多数の参加者の割合によって「追跡システムの導入」(41%)希望者が増えているのも興味深い。リスク対策として「追跡システム導入」による濃厚接触者への早急な連絡は参加者からの要望でもある。

Q. 商業観光施設での感染防止対策の確認について
→ 感染防止対策の実施状況を、約3割の方が事前に、約3割の方が現地で確認をすることを希望
A. 感染症対策に対して「事前確認をする人」が36%、「現地で確認する人」36%と、合計72%であるから、感染症対策していることを公開することが今後の観光には必須と言える。

Q. コロナ感染対策が徹底された場合の料金についてどう思いますか?
A. 事業者は一刻も早く事業を再開して収入を得ることが急務だが、同時に感染症対策を行うこともお客様の受け入れには必須条件となっている。その為に人数制限をしたり対策にかかる経費を考えると、単価を上げない限り採算は取れないであろう。それに対してお客様は、「割引を期待している」のは14%隣、「通常と同じ料金」44%、「多少上乗せしても良い」37%とある。
感染症対策の徹底を最優先に望む現れでもあり、それに対しては多少の料金アップ はやむなしということだろう。今後、国や市町村の支援策も上手に活用し、安売りをせず営業再開することが望まれる。

Q. 今年度、旅行に行くとしたら「どの範囲まで」なら行きますか?
A. 前回の調査において、旅行は近場から始まり、徐々に距離が長くなる傾向が見て取れた。それから1ヶ月後の今回調査では、今年度中に「日本中どこでも旅行したい」が47%にまで達し、「海外まで行きたい」も15%あった。日本国内での感染拡大が抑制されたことで旅行への願望、行動も早まっていることが予想される。

Q. 今年度、旅行に行くとしたら宿泊予約をいつ頃に行いますか?
A. 「1ヶ月前に予約をする」が51%、さらに「3ヶ月前から予約する」19%もいることから、事前に色々リサーチをして行き先を決め、予約する人が多いことが想像される。現地からの吸引力のある情報発信は旅の行き先、時期を決定する際にも影響力が大きいため、実際の旅の動きが始まる前(キャンペーン以前)から現地からの魅力的な情報発信は効果的だと言える。

Q.この夏(6~9月頃)の旅行について、「これがあれば旅行に行くことを検討する」いうきっかけがあれば教えてください(複数選択可)
A. コロナ禍の直近のホリデーシーズンにおける旅の動機付けは、「キャンペーンの実施」が49%と一番多い。特筆すべきは、地域・事業者が主体的に取り組める「観光地・施設からのリアルタイムの情報」35%や「感染対策情報」30%が多いこと。旅を予定し始める割引キャンペーン開始前から実際の旅の実現までに、どれほど効果的な情報発信が出来るかが、選ばれるデスティネーションとなるかどうかの分かれ目かもしれない。

Q. Go To Travel キャンペーンの割引クーポンの利用について
A. Go Toキャンペーンの開始時期は定かではないものの、政府はその導入を決定している。その時期や使用期間、使用の仕方など課題はあるものの、Go Toキャンペーンの利用を考えて旅を計画する人がほぼ8割に達することから、観光事業者は機会を最大限に活用し、利益を得るための準備が必要だろう。

Q. Go To Travel キャンペーン等で割引がある場合の、旅行の予算・お金の使い方の変化について(複数選択可)
A. 割引クーポンがある場合、「旅行の予算全体は変えずにいつもより豪華な旅行をする」39%が一番多く、「旅行の回数を増やす」24%、「予算全体を増やす」23%もあり、キャンペーン時期にはリピーターや周辺観光も含めて滞在期間延長も期待できるかもしれない。周辺地域と連携した滞在プログラム充実による消費額アップも備えたい。

本調査結果の考察のまとめ(小林寛子教授)
■感染対策の実施とその公開
旅を再開するにあたっても三密を避けることに対しての利用者の意識はかなり高く、その対策がきちんとされていること、対策ポリシーの公開、さらには感染発生時の対応マニュアルの公開などにもかなりの期待がされていることであった。旅の再開は政府のGo To キャンペーンなどがきっかけになる可能性が高いものの感染対策は必須であり、それが外 から見てもしっかりわかることが求められていると言える。また、追跡システム導入など濃厚接触者への早急な対応についてもお客様側としてもかなりの割合でそれを望んでいることが分かった。

■地域の観光事業者間の連携
観光は一つの宿泊施設や飲食店で完結するものではなく、地域を訪れ、一定期間をその地域で過ごすことで地域にお金が落ちる。この期間を長く、そして落とすお金を多くするためには地域にどのように人に滞在してもらうかを考える必要があるだろう。宿泊施設だけでなく、飲食店、アクティビティ、イベントなど関わるすべての観光事業者が連携し感染対策をすること、そしてそれを公開することが安心安全の旅の再開の第一歩ではないだろうか。
加えて、三密を回避した形での事業再開においては人数の制限なども必須である。これまでの稼働率を維持しながら、人数を制限する方法、同時に一カ所に人が集中しない方法を工夫したり、一カ所に集中する人を分散させるためにも地域全体で観光客を回すしくみを考えたり、また単価を維持しながら延泊、リピーターという形で観光消費額を上げる、また付加価値をつけて単価そのものをあげる方法もこれから検討すべき課題と言えるだろう。

■情報の発信
今回のアンケートで旅の動機付けとして感染対策の情報公開はもちろん、観光地・観光施設からのリアルタイムの情報発信が 有効であることがわかる。キャンペーンの実施のみならず、現地からの“今”を伝える魅力的な情報発信はデスティネーション として選ばれるための必要条件であろう。

■新しい観光のあり方を検討
コロナによって観光のあり方は大きく変容する。それを前提にコロナ前に戻るのではなく、アフターコロナの新しい観光のあり方を考えるいい機会であると言える。長い歴史の中で培われてきた伝統的なおもてなしのあり様についても今一度見直してみる、泊食分離や、シングルユース、お一人様用プラン、キャッシュレス決済の導入などこれまでなかなか実践できなかったシステムについても検討するいい機会ではないだろうか。

■調査期間:2020年5月31日(日)~6月2日(火)
■調査対象:日本全国の一般消費者の方
■調査方法:無記名でのWEB アンケート方式
■調査実施主体:熊本県観光協会連絡会議
(阿蘇広域観光連盟 / 一般社団法人 天草宝島観光協会 / 一般社団法人 宇城市観光物産協会 一般社団法人 人吉温泉観光協会 / 平山温泉観光協会)
■協力:東海大学観光ビジネス学科エコツーリズム研究室(教授:小林寛子氏)
■有効回答数:N=3,041件
本調査は、あくまで2020年4月31日~6月2日時点での消費者の状況・心情を踏まえた回答結果です。