いま熱いタビナカで取り組むべきことは? 成功事例や、データで読む旅行者の実態とニーズまで
(トラベルボイス 2019年7月29日)
https://www.travelvoice.jp/20190729-135240

「タビマエ」は目的地となるメインの観光地の検索が多いが、「タビナカ」では現地を見て、イメージが沸いたからこそ出てくるワードや、休憩や食事などを調べるという。
外国人を案内すると『なぜ?』と聞かれることが多い。それは歴史文化的な背景に興味があるからとなる。
コピーされないタビナカ体験の商品づくりは『人の繋がり』が重要。付加価値は「地元の協力」を得るからこそできる。地域のキーマンに、観光ビジネスのパッションに賛同していただけるかが重要となる。
意義深いセッションだ!

【ポイント】
「タビナカビジネスの現在~未来を考える」のイベントを開催した。

ナビタイムジャパンのインバウンド事業部部長・藤澤政志氏
「タビマエに行きたいと思う定番ニーズに大きな変化はない。目的地に行った後で変化が起こっている」と指摘した。
ナビタイムが北海道開発局との連携で、レンタカー利用の訪日外国人に提供しているドライブアプリ「Drive Hokkaido!」の検索データと訪日前の検索ワードを比較。すると、タビマエは目的地となりうるメインの観光地の検索が多いのに対し、タビナカでは現地を見てイメージが沸いたからこそ出てくるワードや、休憩や食事などで調べられる「道の駅」などの施設などがあがってくる。
「例えば訪日前は『美瑛の青い池』と知っていればいいが、そこに来たら初めて、次に何をしようかという考えがでてくる」と解説。
日本人でも同様の傾向があると指摘した。
渋谷区立千駄ケ谷小学校で訪日観光客向けマップを制作し、原宿などの街頭で直接配布したところ、該当エリアの訪問者が渋谷区全体の増加率63.6%増を大きく上回る151.1%増に増加した。

訪日外国人向けの体験プランを販売する、BOJの代表取締役社長・野口貴裕氏
元力士との相撲のデモンストレーションや両国散策ができる「朝稽古見学ツアー」など体験プランで人気を博している。
タビナカ商品が「日本の朝食体験」「農業体験」など「体験」という言葉が使われているが、ただ体験という言葉を使えばいいのではなく、整理する必要があると意識変革を促した。
ターゲットを日本の文化や体験に興味を持つ欧米人に設定し、彼らの目線を意識した商品企画を行なうと説明。
海外の旅行会社の要望に付加価値を載せ、オリジナリティを加える「ストーリー仕立てとエンタメ要素」がポイント。
「外国人を案内すると『なぜ?』と聞かれることが多いが、それは歴史文化的な背景に興味があるから。そこに応えるために自分も『なぜ?』の目線で視察をし、企画に盛り込む」という。
宮城県・松島を訪れるツアーでは、一般的な遊覧船と海鮮丼の食事、円通院などの寺社仏閣観光で終わらず、利き茶の機会を提供。煎茶やほうじ茶など日本茶の奥深さを紹介し、銘茶「伊達茶」が生まれたストーリーを伝える。
伏見桃山城の茶室を移築した観瀾亭での茶道体験や、漁師民宿での宿泊と漁体験も盛り込み、震災と復興の話もする。本物であること、そして「このプランだけ」といったオンリーワンの要素も、重要な切り口である。

超富裕層旅行をターゲットとするエクスペリサスの代表取締役社長・丸山智義氏
競合市場を避けた事業展開を目指し、大手資本が参入していない最後のホワイトスペースとしてタビナカの「高単価×体験」市場を見出した。「旅行業で利益率が高い唯一のスペース」であり、「日本の人口は減少するが、世界の富裕層は増えている。対象人口の増加と高利益率が達成できる領域」として参入を決めた。
競合がいないため、事業展開をする上で未解決な部分があり、難しさがある。
富裕層旅行の場合、世界遺産などの文化的施設や希少場所を貸し切り、プライベートのコンサートやミュージアムといった特別な体験を提供することが多いが、それらはクローズドだからこそ価値があるため、商品のPRができない。
べニュー等の提供者も露出を好まないので、「マーケティングの観点では非常にやりにくい」と指摘した。
「100年先へ文化を継承する仕組みを作ること」を紹介し、「人口減少は文化資産が減ること。文化を残すためには、外国人に支えていただく。新しい経済圏を作ることを使命に取り組んでいる」と話した。
文化的資産を活用したイノベーティブな体験価値の創造。体験価値を最大化することで、共感するお客様の来訪を促す。商品の値付けは「価格を不当に下げることは文化を下げることに繋がる。50万円の値付けをしたら、その理由を作る。そして50万円を100万円にするためのマーケティングを打ち、価値を上げ続けていくことが大切」という。

【トークセッション】
トラベルボイス鶴本
タビナカが隆盛する3つの要因として、スマートフォンの浸透とシェアリングエコノミーの台頭、SNSの影響を提示した上で、タビナカの販売事業者が世界大手ビアターのみならず、新興の香港発クルック(Klook)がグローバル展開をはじめ、米老舗のピークとグーグル(Google)が資本提携するなど、世界規模で動きが活発になっている。
Airbnbの体験など個人のサービス提供者の台頭も、タビナカの変化として説明した。

BOJ野口氏
タビナカ商品の流通について、各OTAへの在庫管理の手間に言及。単価が安い上に直前キャンセルもあり、「タビナカの事業者が販売できる体制であっても、流通に載せたくないというのはそういう点だ」という。
コピーされない商品づくりのキモとして、人の繋がりの重要性を強調。「付加価値は、地元の協力を得るからこそできるもの。地域のキーマンに、我々のビジネスのパッションに賛同していただけるかどうかが大きい」と話した。

トラベルボイス鶴本
「ストーリーやエンタメ要素はセンスが問われるところ」とし、地元キーマンとの関係の強い自治体やDMOなどが取り組めるものか?

ナビタイム藤澤氏
自治体やDMOだけでは難しいとし、「地方でネームバリューのある事業者が作る商品は売れると思う」とコラボを推奨。JNTOが紀伊国屋書店と行なった仮説検証事業を紹介。
訪日旅行中に日本の本を購入する人は日本のマニアックなファンと見て、紀伊国屋書店が配信する周辺のディープな情報を見たら、その場所に行くのではないかという仮説を検証。すると「紀伊国屋書店の紹介だからこそ行く価値がある」と思った人が54%もあったという。
現行のタビナカ商品は日本人向けの設計で、訪日外国人の行動軸とのズレから機会損失が生じていることも指摘。
レンタカーを利用する外国人は、早朝から移動を開始するが、北海道では朝市くらいしかアクティビティがなく、満足に朝食を食べられる店もない。
「タビナカは日中の観光が多いが、日中は移動も多く時間が限られる。地方ほど朝や夜などのアクティビティのニーズが高く、その時間ならではの体験ができることが滞在時間を伸ばす」と提案。

BOJ野口氏
今後、現状以上のスマホシフトを予測。タビナカでの判断がますます流動化し、「買いたいときにタビナカ商品を買う時代になる。それを促すのはSNS。

トラベルボイス鶴本
「モノ消費、コト消費の次に来るのはトキ(時)消費。この時間、この瞬間に来店するニーズを捉えて開発をすることで、イールドを上げることができるのでは」と話し、議論をまとめた。