レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)などの発想転換で、地域が「観光客を選ぶ時代」を考察してみた【山田雄一コラム】
(トラベルボイス 2020年4月30日)
https://www.travelvoice.jp/20200430-145992

「来てくれる人は誰でもウェルカム」という発想を切り替え、「来て欲しい」人を明確に地域側でイメージし、そちらに誘導していくことが重要だという。
また、観光客に一定の責任をもってもらい、より良い観光地を作るうという動きが「レスポンシブル・ツーリズム」(責任ある観光)も提唱されている。
確かに、このような方向性が望ましいだろうが、人の行動を制限することはできないのではないかと思われる。

【ポイント】
コロナが終息したとしても、元の世界には戻りません。
コロナ前に顕在化していたオーバーツーリズム、低い生産性、地域振興との乖離といった問題に対する対応ができなければ、観光が持続性を持つことはない。「これから生じる問題」に対応するには、観光集客の手法を根本的に切り替える必要がある。

レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)の発想
「来てくれる人は誰でもウェルカムです」という発想を切り替え、地域側で「来て欲しい」人を明確にイメージし、そちらに誘導していくことが重要となる。
日本の観光は需要側の行動に主軸をおいていますが、対応するツーリズムは、観光客と事業者、地域との関係性を包含した概念です。観光客は単なる「客」ではなく、ツーリズムを構成する主体の一つであり、彼らの行動によって、ツーリズムは良いものにもなるし、悪いものにもなります。
観光客の意識や行動も一定の責任をもってもらうことで、より良い観光地を作っていこうという動きが「レスポンシブル・ツーリズム」(責任ある観光)です。

オーバーツーリズムも「交通やごみ処理、トイレなど、負担だけかけて、それに見合う経済行動をしない人」や「ルールを守らず私有地に侵入したり、写真を撮りまくる人」の存在であり、多量になるから問題も大きくなる。観光客が自律的な行動をすれば、ほとんどの問題は解決可能です。
これまでは、来訪を制御する手段がないので、地域側が啓蒙をはかっても、変えることはできなかった。

コロナ禍で人の移動は大きく制限されました。コロナ禍が終息しても、感染症拡大リスクは一定程度残るので、人の移動は一定の制約が付加されることになるでしょう。
全世界の観光リゾート地は、これから「誰を呼び寄せるのか」について方針をたて、それに沿った行動を行わなければ地域コミュニティの支持を得ることはできないでしょう。

これからの「ウィズ・コロナ」期間は、厳しい市場環境におかれることになるが、ポスト・コロナの集客の対処を間違えれば、コミュニティに「この地域には要らない」と判断されてしまう可能性すらあると考えておくべきです。観光リゾート地は、感染症対策上、リスクの低い人を呼び寄せる手法を開発し、運用する必要があるかもしれません。
これは、観光地マーケティングに大きな構造変化となるはずです。

人の移動を制限する権限は、政府にしかありません。地域DMO、地方自治体であっても、AさんはOKだけど、Bさんはダメといった対応は不可能です。
そうしたフィルタリングは、「差別」と表裏一体の関係にあります。人種、宗教、国籍などで一律で線引きすることは、ダイバーシティの考え方にも反します。
個人の属性によって排除するのではなく、自地域との関係性によって顧客を切り分け、より相性の良い顧客に対して優先的に取り扱っていくことで、結果的に「相性のよい顧客」の比重を多くし、「相性の悪い顧客」を抑制していくという考え方です。
その地域への旅行に対して、どれだけ節制した行動をとれるか、その地域についてどれだけ造詣や思い入れを持っているかによって、顧客と地域との関係性は浮き彫りにしていくことができるでしょう。

このままで推移すれば、ある程度の感染者数は抑え込むことができていたとしても、おそらく、年単位にわたって、旅行すること自体がナンセンスとなってしまうに違いありません。
潜伏期間も長く、無症状者も多い。さらにはPCR検査に対する信頼性や、検査で陰性でも検査後の感染は否定できない…といったことを考えると、「すべての人が感染していると考えて行動する」というのが、最も合理的な感染拡大防止策であることに変わりありません。

NYCの感染者数は人口の1.5%(840万人に対して、13万人/2020年04月17日現在)に過ぎません。その十倍としても、8割以上の人は感染していないわけです。東京はさらに感染者数が少ないので、ほとんどの人は、非・感染者です(人口930万人に対して、3千人。率にして0.03%/2020年04月17日現在)。
コロナの危険性を認知し、予防措置を行い、自粛した日常生活を送っているセグメントの人々に限定すれば、そこに感染者が居る可能性は、極めて低いと考えられます。
そう考えれば、旅行前(タビマエ)から地域や施設がしっかりと顧客とつながり、顧客が「楽しみにしている旅行」のために感染しないような日常生活を送っていることが「確認」できれば、相当量のリスクを抑えることになります。
つまりは、観光地としてCRM(Customer Relationship Management)を展開するということです。

地域としても「来訪禁止」と呼びかけるより、こうした「CRMによる管理された来訪を認める」ことの方が安心できると考えてくれる可能性はあります。
法的に罰則付き移動制限を設定できない我が国において、来訪自粛を呼びかけても、「自分には関係ない」と勝手な判断をする人の動きは止められず、人数は減ってもリスクはむしろ高まるとも考えられるからです。
CRMによる来訪者管理は、感染拡大防止とホスピタリティ産業維持の両立の取り組みとして、地域コミュニティから支持を得ていくために必要な取り組みと考えます。

コロナについて、ほとんどの人はしっかりと自己防衛をしています。
自粛によって、ある程度の水準に感染者数が抑え込まれている状態(収束状態)での、自粛緩和策の一つとして、コロナ禍終息後での検疫体制という位置づけであることを付記しておきます。