世界の航空業界で導入進む「タッチレス(非接触)技術」とは? 空港と航空会社の取り組みを整理してみた【外電】
(トラベルボイス 2020年9月6日)
https://www.travelvoice.jp/20200906-146839

【ポイント】
2020年に航空各社の赤字は840億ドル、2019年レベルに需要が戻るのは2023年になるという。
ヨーロッパ経済が機能不全に陥っている、「世界的な統一基準」を採用するように、空港・航空会社は書簡を各国政府当局に送った。
生体認証、体温など健康スクリーニング、タッチレスで完結する諸手続きが、空の旅のニューノーマルになるとして、新しい取り組みが動き出している。

【 概 要 】
2020年に航空各社が背負う赤字は840億ドルとなる見込みだという。
各国政府から発出されている渡航規制という逆風も続くなか、航空各社が新たな安全・衛生対策を次々と打ち出している。
・ルフトハンザ航空は、航空券とコロナ検査を併せて提供する方針。
・エミレーツ航空は、コロナに関連して生じた医療費や自主隔離の費用をカバーする保険を、利用客に無料で用意する。

多くの政府は、科学的根拠に従っているとの立場だが、欧州の空港および航空会社は、科学的根拠に基づいた一貫性あるアプローチが採用されていないことが原因となり、「ヨーロッパ経済が機能不全に陥っている」とする書簡を各国政府当局に送った。
空港・航空会社が求めているのは「世界的に統一性のある導入基準」をもって、欧州航空安全機関(EASA)とICAO(国際民間航空機関)、欧州疾病予防管理センター(ECDC)がまとめた「安全な空の旅のプロトコル(Take-Off Aviation Health Protocols)」が採用されることだ。

IATAは、需要が2019年レベルに戻る時期は、これまでの予想よりさらに1年遅く、2023年までかかるとした。ウイルス検査の実施や渡航制限の解除だけでは冷え込んだ客足は戻らないのが現実で、テクノロジーが果たす役割はとても大きい。

7月末、ジェットブルーはニューヨークJFK国際空港とフロリダのフォート・ローダーデール-ハリウッド国際空港で、機内清掃に紫外線除菌ロボットを試験投入すると発表した。
こうした新しい取り組みがどんどん増えていく。旅行再開に伴い、利用者側も少しずつ、新しい旅のスタイルに慣れていくことになる。

航空業界の旅客サービスは、生体認証に加え、体温など健康状態のスクリーニングやスキャナー技術、タッチレスで完結する荷物の諸手続きが、空の旅のニューノーマルになるとしている。
すでに多くの新しい取り組みが動き出している。
・ID認証テクノロジー、クリア(CLEAR)社は、セキュリティ検査の際、旅客の生体認証データと体温チェック、コロナ検査を組み合わせたソリューションを提供している。
・デンバー国際空港では、生体認証とID管理を専門とするデオン(Daon)社の協力を得て、旅客と従業員を対象とした生体認証ソリューションを試験導入している。
・アマデウスとノルウェーの空港運営会社、アビノール(Avinor)は、旅客が何にも触れることなく、タッチレスで過ごせる環境整備計画を明らかにした。
ほかにも様々な試行錯誤が始まっており、空港も航空会社も、キャッシュ不足に苦しみつつ、手元にある資源を最大限に活かそうとしている。

計44の空港を運営しているアビノールでは、チェックインから手荷物を預ける手続き、セキュリティ検査、そしてフライト搭乗まで、旅客側は何にも触らないで済むタッチレス・テクノロジーのテスト運用を行っている。
旅客はチェックインをリモートで行うと、搭乗券代わりのバーコードが携帯端末に送信される。バーコードは、荷物に付けるタグをキオスクで印刷する機能も兼ねている。その後、所定の場所でカバンを預けるだけだ。
アビノールでは、すでにタッチレスでの搭乗サービスを導入済みだったが、さらに機能を拡充し、旅行に伴う多くの手続きでコンタクト・フリーを実現する。
これまでは巨額投資を伴うIT開発を躊躇することが多かったが、今回は「最先端」を目指し、しかも短時間で実現する必要があると判断した。

アマデウスと協議を始めたのは2020年3月半ばだったが、7月中旬には、2つの空港でテスト運用が始まった。、安全対策が絡むソリューションの導入事例としては最速という。
アビノールが運営する空港のうち17か所では、短時間でテクノロジー導入が完了する見込みだが、残る課題は、利用客からの反応だ。「我々は、最善のソリューションを実現したつもりだが、最終的には、利用客にとって使い勝手がどうかという問題になる」という。

今回のテクノロジー導入で非常によかったことは、巨額の出費にはならなかった点だ。
「顔認証など、大掛かりなソリューションについては、最初から検討しなかった。すでに空港にある施設を活かしつつ、既存のプロセスをどう変えられるか話し合った」。
これまで、カスタマーエクスペリエンスを改善するテクノロジーの導入が」進んでいたが、ここにきて、接触機会を減らす「ロータッチ」テクノロジーへの関心が特に強くなっている。また、これまで利用されていた共通プラットフォームをベースに、新しい機能や設備の追加を検討している空港が多い。

こうした新機能の一つ、SITAフレックス(Flex)を使えば、これまで旅客との接触が必要だったタッチポイントで、モバイル端末を導入しやすくなるという。
生態認証のイノベーションであれ、モバイル対応ソリューションであれ、インフラやシステムに新規の投資を行うところはないだろう、というのがSITAの現状認識だ。
SITAでは、すでに一般に普及しており利用実績のあるものを土台とし、新しい機能を積み上げている。

空港や航空産業でも、お互いの協力が不可欠であるという点で、意見は一致している。
取り組みがうまく機能する理想的な状況、今までよりも格段に上のレベルまで到達できるかどうかは、航空会社、空港、各国政府のさらなる協調次第だと指摘する。
現在の危機的状況のおかげで、航空産業のエコシステム全体に対する理解が進み、それぞれの国の政策や決断が、お互いにどう影響するのか分かるようになった。
戦略的な進め方も可能だが、まずはどのような未来像を描くべきかを検討し、”一歩下がって”冷静に考えることも重要だと話た。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したもの。