中国人が山ほど金使う「日本観光」の残念な実情 〜富裕層を取り込む「グルメ・ツーリズム」とは〜
(東洋経済オンライン 2019/04/24)
https://toyokeizai.net/articles/-/276138

富裕層の取り込みが課題と考えるDMOや事業者が多い。
訪日中国人富裕層のこだわりは、本場の日本で日本食を食べることだという。値段にはこだわらない。理由は、日本以外の国で日本食を食べると、とても高いからだという。
近年、オーダーメード型富裕層旅行が少しずつ広まっている。
本当においしいレストラン、日本人さえ知らない秘湯、そして聖地巡礼など、オーダーメード旅行を、プライベートに対応するコンシェルジュが案内することが求められているという。

【ポイント】
訪日中国人富裕層は重要なターゲットであるが「取り込みの方法がわからない」という。
訪日中国人富裕層の一番のこだわりは、間違いなくグルメだ。昔から中国人は「美味」を好む。

欧米旅行で、西洋料理は不慣れな食材や調味料が多く、口に合わないことも多い。
しかし、日本料理は同じアジアなので、食材や好みが近い。また世界中で日本料理ブームで、どこに行っても日本料理店(中国語だと「日料」(リーリョウーと読む)がある。
しかし日本以外にある日本料理店は、とにかく高価だ。

数年前のニューヨークにある「焼肉 牛角」は、高級日本料理店として話題になり、飲み物を注文しなくても1人当たり1万円以上かかった。日本に留学したら、どこでもあるリーズナブルな店だと知り衝撃を受けた。
「ラーメン 一蘭」「大戸屋」などチェーン店から、懐石和食まで、海外におけるブランディングが上手く、「日本レストラン=高い」というイメージが醸成された。
中国も同様で、日本人料理人がいない懐石料理店は1人当たり2万~3万円。日本人料理人が仕切るところだと、1人当たり5万円であっても予約でいっぱいなのだ。

したがって、日本料理の本場に来たら何より楽しみたいのは「日本食」。本場の味、本当の高級グルメを楽しんでみたい気持ちが強い。値段についても「いちばんいいものを出してくれたらOK」という。

近年では「グルメ+温泉(+聖地巡礼)」のオーダーメード型富裕層旅行が少しずつ広まっている。
ネット予約可能な日本のミシュラン星付きレストランに行ったり、アニメの聖地巡礼を1人で満喫してきた。
食べログ大賞を知った後、日本に住んでいる友人に頼み、受賞レストランを予約してもらい、予約日に合わせて来日するようになった。
食事・観光・聖地巡礼の感想を中国の個人旅行ガイド(旅行攻略)や微博(中国版ツイッター)に寄稿したところ、多数の友人から「私もこういう旅行をしたかった! 連れていってほしい!」と依頼された。
友人を対象に、8人程度のスモールツアーを主催するビジネスを始めた(中国では兼業・副業について寛容)
年3~4回来日し、ツアー参加者のほとんどは年収500万元(約8200万円)以上であり、40代以下が多い。
・少人数(2~8人)
・地方のみ
・本当においしいレストラン
・日本人でさえ知らない秘湯

中国人富裕層の多くは、時間の融通が利き、レストラン・旅館の予約日に合わせて旅行することが可能だ。
彼らは、欧米旅行も楽しんでいるが、中国人観光客に知られていない本当の日本グルメ、温泉(秘湯)を堪能することで、他人と差別化体験ができ満足感が高いという。
体験者の口コミにより、中国人富裕層の間で日本の地方への関心がますます高まっている。

例えば、今年の五一休み(中国では5月1日はメーデーで休日だ)にあわせて来日する旅程では、まだ桜が残っているかもしれない北陸、甲信、関東(金沢、和倉、富山、立山黒部、山梨、東京)を回る予定だという。兼六園、金沢21世紀美術館など観光スポットを見学し、「花嫁のれん」の観光列車に乗る。日本人観光客と変わらない日程である。1人1泊3万円以上の旅館に泊まるという。
食事は、食べログ大賞ブロンズ、シルバー、ゴールドやミシュラン星付きレストランのみを訪れる予定で、食事代は1人1食1万5000~5万円。参加者は日本の自然の美しさに触れ、癒やされる。
日本でなければ絶対食べられない料理であれば、たとえ1食10万円であっても「お得感」を受けるという。

1週間程度のツアーは、航空券代と宿泊代・飲食代で少なくとも100万円はくだらない。
それだけではなく、中国人富裕層は買い物欲も旺盛だ。
お土産のトレンドは、高級日本酒がダントツの人気だという。すでに「獺祭」は中国でも有名になりすぎたため、中国人富裕層の間では1本10万8000円(税込み1800ml)の喜久水酒造の大吟醸「朱金泥能代醸蒸多知」が人気だ。
「一番高いもの=一番良いもの」「高いほうがコレクション価値がある」という考えが普通である。
「中国人富裕層は酒をコレクションする」趣味を持つ人が多い。ウイスキーやワインでは値段が青天井だが、日本酒や焼酎は、コレクションとして相対的に安いという心理が働くという。
こうした買い物も含めると、1週間程度の滞在で、1人当たりの消費支出は平均200万~300万円にも達する。

訪日中国人富裕層を対象としたビジネスをしている人の声は
① 旅館の施設水準と接客対応
「高級旅館」のイメージに合致する地方の旅館がほんの一握りしかない。現状では「部屋は古くて、タバコ臭い。伝統ある旅館だし、泉質がよいので楽しんでください」と説得するしかないという。
多くの旅館の施設や接客は、残念ながら富裕層向けではない。これから地方のインバウンド政策を検討する際、富裕層、あるいは訪日外国人のニーズを取り入れ、変えていく必要がある。
② 外国人を受け入れる意識がまだまだ足りない
レストランでも宿泊先でも、外国人であることを理由に予約を断るケースが絶えない。
外国人客を積極的に誘致しようとしているお店であれば比較的簡単に予約でき、体験自体も楽しい。
お客の中に日本人がいること、あるいは日本人が予約するように要求されることもある。外国人だからといって必ずしもドタキャンするわけではない。日本人だけが口も肥えていてマナーがわかるとも限らない。
外国人に対するマインドの見直しは、日本のインバウンド戦略としてクリアしないといけない課題である。
③ プライベートコンシェルジュ対応
プライベートコンシェルジュとは、訪日外国人富裕層をアテンドする、個人のコネクションでビジネスを展開している人である。
「雇ったガイド」より「友達の知り合いで日本に詳しい人」のほうが、信頼感も親近感もあり「ディープな旅行ができそう」という期待も高まる。
しかし、外国人のプライベートコンシェルジュが、ホテルやレストラン予約、自治体への問い合わせ、あるいはホテルにプランを提案するときなど、相手にされないケースが多いという。
実際、兼業あるいは個人で携わり展開する人が多いので、信頼関係を構築するのが難しい。
富裕層向けプライベートコンシェルジュの認定制度や、資格者組織の設立なども重要になる。

グルメ・ツーリズムの訪日中国人富裕層は、消費単価が高く、旅行への目が肥えていて、質の高いサービスを提供すればリピーターになりやすい、上質な顧客である。