「手伝い旅」がZ世代に人気 1週間の予定がプチ移住も
(日本経済新聞 2022年5月7日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC194OK0Z10C22A4000000/?n_cid=SNSTW001&n_tw=1651884931&unlock=1

【ホッシーのつぶやき】
1年ほど前の「ガイアの夜明け」でも取り上げられていた「おてつたび」。私も登録して、1回申し込みしてみたが、若い申込者がいて成就できなかった。現在、登録者は1万6000人という。
受け入れ事業者は47都道府県で600に上り、最近は農家や宿泊先だけではないようで、行政や農協などが依頼するケースもあるという。雇用先がバラエティに富めば、人生経験の選択肢が広がる。
遣り甲斐を求め、違う地域を体験したいと思う人には持ってこいのマッチングサイトだ。

【 内 容 】
人材マッチングサービス「おてつたび」は、日本全国の農家や宿泊施設、地域の催事など、人手不足の現場でお手伝いをする旅だ。お手伝いで報酬を得られるため、旅先までの交通費負担も軽減できる。2018年7月の立ち上げ以来、新型コロナウイルス禍で登録者が倍増、現在は1万6000人となっている。

「海外に行けなくなり、国内で旅先を探す人が増えた。また、オンライン授業やテレワークによっておてつたびをしながら授業を受けたり仕事をしたりする人も増えている」と、同サービスを運営するおてつたび(東京・渋谷)の永岡里菜代表は語る。
受け入れ側の事業者数は47都道府県で600に上る。コロナ禍で技能実習生が来なくなった農家や、必要な時期に柔軟に雇用したいと考える事業者、あるいはファンづくりを課題とする地域や事業者らから注目されているという。

期間は1週間~10日がメインだが、短い場合は「(千葉県、落花生の収穫のお手伝い)日帰り」、長いケースでは「(リゾートホテルのお手伝い)1カ月」など事業者の必要に応じた日数が設定される。マッチングし、就労が終わった時点でおてつたびに手数料が入る仕組みだ。

観光名所よりも自分の経験を豊かに
登録者の4割が大学生など20代。そして30~50代、60代、70代と続く。実際の参加者は、半数以上が大学生だという。現在は募集事業者に対して希望者が圧倒的に多く、「平均倍率は3~5倍」(永岡氏)だ。
大学生らZ世代の参加理由は「見知らぬ地域やその地域に住む人と仲良くなりたい。あるいはもっと日本のことを知りたい。何か分からないけれど挑戦してみたいという参加者が多い」(永岡氏)
自らもZ世代である広報部の園田稚彩氏は「有名な観光名所よりも、思い出に残るのは地域の人との交流や体験。おてつたびではこれが経験できる。セレンディピティーという言葉があるが、ガイドブックに載っていない自分だけの『場所』見つけ、偶然の出合いを経験できることに魅力を感じているようだ」と語る。
楽しみながら人の役に立ち、「ありがとう」と声を掛けてもらえる。これが若いZ世代の自己肯定感や自己効力感の向上につながり、好循環を生んでいる。
おてつたびの経験者から聞こえてくるのは「自分の人生観や価値観が変わり、今後の選択肢が広がった」という声だ。「大学卒業後に農家に就職したり、アルバイト先で農家の作物を使った商品を開発して販売したりと、おてつたびをきっかけに地域の課題解決が『自分ごと化』している人も多い」(永岡氏)

三輪彩紀子さんは友人の紹介で大学2年生の春休みに5日間、島根県邑南町でのおてつたびに参加した。酒蔵でのラベル貼りやゲストハウス作りに携わり、「その地域の事情はネットではなく、現地に行かないと分からない」と感じたという。知らない地域で新しい仲間や地元の人との縁ができたのもうれしかった。
その後、大学休学中に自分のワークキャリアについて考えたいと、島根県益田市で2度目のおてつたびに参加した。地域コミュニティー誌のインタビュー記事制作だ。当初1週間の予定が、1年半のプチ移住になった。おてつたび先の地域おこし団体からインターンに誘われたのだ。
三輪さんは滞在期間を延長した理由について「観光名所がない代わりに、自然と心の豊かさ、そして何でもチャレンジできる余白があると思ったから」と話す。地域の人たちからは、そこにいるだけで存在をありがたがってもらえた。気恥ずかしさもあったが、ありのままの自分を受け入れてくれる安心感が可能性を広げてくれたと振り返る。
また、地域おこしに携わる仲間たちは、さまざまなバックグラウンドを持っていた。「それぞれ違う人生を歩み、集結したときにその個性を尊重しながら、地域の課題解決という同じゴールを目指す姿勢に感化された」(三輪さん)。現在、国際系の大学に通っているが、地域の人や仲間と「歴史をつくっている」という実感が忘れられず、将来は国内外で地域の人と仕事ができればと考えている。

事業者側にも変化があった。過疎化や少子高齢化が深刻な地域は求人を出しても人が集まらない。半ば諦めて、事業規模を縮小したり営業期間を短くしたりしていた。ところが、「おてつたびを通じてこれまで縁のなかった新たな人材が来てくれるようになり、地域や職場が活性化しつつあると聞く」(永岡氏)
熊本県戸馳島の花の農家では、母の日の胡蝶蘭(こちょうらん)の出荷のお手伝いをしてもらった際、参加者から「全国のお母さんにこの花が届く。尊い仕事ですね」と声を掛けられ、「忙しさに忘れていた自分たちの仕事の価値を見直すきっかけになった」という。

おてつたびの永岡氏は「自分の出身地と居住地以外の地域にも居場所ができる経験を1回でもしてみると人生の深みが変わる。また、いろいろな産業に触れてみると視野も可能性も広がる。誰もが知らない地域に行くのが当たり前になり、『今週末旅行に行く? おてつたびに行く?』という日常の選択肢の1つになればうれしい」と語る。いつかは、義務教育レベルで全員が使うサービスになればと願う。

大企業ができなかった基盤づくり
永岡氏がおてつたびを始めたのは、祖父母が住む三重県尾鷲市のように、「知られざる魅力的な地域に人が来る仕組みをつくりたい」と思ったのがきっかけだ。会社を辞めて部屋を解約し、半年間夜行バスでさまざまな地域へリサーチに行った。
「農家や旅館の方から『人手不足だから手伝って』と言われることが多いこと、多くの人にとって知らない地域に行く際には旅費がハードルになっていることが分かった。お手伝いで旅費を抑えてハードルを下げる仕組みをつくり、お手伝いを通じて地域の魅力を知ってもらうことを目的に創業した」(永岡氏)

事業を立ち上げて3年半。当初は「なぜ旅先でお手伝いをするのか?」と周囲の理解を得るのが難しかったと永岡氏。「実績が少ないので信用されず、ただ自分たちの思いを伝え続けるしかなかった」(永岡氏)。ようやく「こういう新しい旅の形があってもいいよね」と2年ほど前から風向きが変わってきたという。
その背景には、17年、総務省の懇談会で提示された「関係人口」という言葉の浸透がある。地域外の人が地域づくりの担い手となることを示す言葉だ。
「移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉」(総務省 関係人口ポータルサイトより)として、地方創生のキーワードとなっている。

現在、おてつたびでは、農林水産省などの行政機関や、佐賀県や千葉市など全国の自治体、農協、JTB 、ANAあきんど(東京・中央)、小田急電鉄、JR西日本などの企業と連携して事業を展開している。
大企業の担当者や多くの人から「こうした仕組みをつくりたいと思ったが頓挫した」という話をよく聞くそうだ。泥臭く通い続けて説明し、地域の人たちの思いに耳を傾けてきた自分たちだからこその強みがある。
「40年には896の地域が消滅してしまうといわれており、残されている時間は少ない。今後も多くの企業や自治体と互いの良さを生かし合い、連携していきたい」と語る。