霊峰で身を清める 大阪・犬鳴山の滝修行
(産経新聞 2022年8月9日)
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【ホッシーのつぶやき】
修験道が始まったのは大阪府、奈良県、和歌山県の112kmを結ぶ「葛城修験」だと、ご存知だっただろうか。役行者が仏典を1品ずつ経塚に埋納したのが起こりだ。友ヶ島から始まるが、「修験道」を感じられるのは犬鳴山にある七宝瀧寺だという。一度、体験されてはいかがだろうか。
全国に「修験道」があり、「修験道」の元祖である「葛城修験」として、トイレやWi-Fi整備などが求められている。

【 内 容 】
暑すぎる。一日中、冷たいものについつい手が伸び、休日も家でぐったりしている日が増えた。このままで夏を終わらせていいのか。「暑さにかまけず新たなことにチャレンジしよう」と考えていたところ、修験道の一日修行体験があると聞いた。生まれ変わりの意味もあるという修験道。心を入れ替え生活態度を改めたい。そんな思いで山に向かった。

修行で罪を滅ぼす
7月中旬の日曜日の朝、大阪府泉佐野市の犬鳴山(いぬなきさん)にある七宝瀧寺(しっぽうりゅうじ)に着くと、約30人ほどの参加者が集まっていた。半分超は女性で、外国人の姿も見られる。受け付け後、まず最初に修行の諸注意と修験道について説明を受ける。

犬鳴山で修行をしている山伏の綾田勝義さん(64)は、修験道では苦しい行で罪を滅ぼし一度死んだようになって生まれ変わる「擬死再生」が重要という。「修験道は擬死再生を繰り返すことによって仏に近付こうとするものです」
体験といえど修行には変わりない。心構えを聞き緊張感が高まる。周囲の参加者も顔が引き締まったように感じた。
犬鳴山の修験道の歴史は古い。修験道を始めたとされる役行者(えんのぎょうじゃ)が661年に開基し、国内最古の霊山といわれる。弘法大師(空海)も修行したと伝わる。
一日修行体験は、希望者の声を受け15年ほど前から始めた。体験をきっかけに山伏になった人もいるという。女人禁制の霊山もあるなか、女性参加が可能な点も特徴だ。

断崖から響く悲鳴

山修行体験では断崖から身を乗り出す=大阪府泉佐野市(彦野公太朗撮影)

まずは山伏を先導役に山道を歩く。前日に雨が降ったせいもあり、足元は滑りやすい。平地より涼しいが緊張からか体が火照る。
高さ10メートルはある急角度の岩の壁が現れた。最初の修行場「地獄岩」だ。チェーンを持ちながら岩を登っていく。怖がらず背筋を伸ばして登るのがコツだ。
さらに足がすくみそうになる崖際の狭い足場を進み、岩を登り切ると視界が開けた。吹き付ける風が涼しい。山修行最後の「西の覗(のぞ)き」だ。

崖の岩場から上半身を乗り出し、恐怖に打ち勝つ修行だ。落下しないようロープを体に巻いて臨むが、眼下にはむき出しの岩や山林が広がる。恐怖を感じない人は少ないはずだ。
修行では反省したいことを事前に申告。「反省してるか」などと声をかけられるので、思い切り大きな声を出して答えないと修行は終わらない。参加者らの悲鳴とも叫びともつかぬ声が犬鳴山に響き渡った。

全てを洗い流して
いよいよ滝修行だ。生まれ変わりを目指す犬鳴山の修行で滝行は「産湯」に当たり、身を清めると考えられている。用意された白い滝行衣に着替える。塩を体に振りかけ、滝行場へ向かう。
滝の落差は約5メートル。近づくと思ったより高く感じる。水量は前日の雨の影響で少し多く「ドー」と音が響く。名前、年齢、願いを大きく発声してから滝に向かった。
滝に入ると、頭や肩、背中に水が勢いよく打ち付ける。痛みは感じない。ただ「思ったより冷たい」。体が縮こまってしまいそうになったが、深呼吸して平静を保つ。時間にして約1分だったが、自然の中に身を委ねることで、心が解放されていくように感じた。

京都精華大大学院で日本の民間信仰などを研究する米国人、ウッド・ウィリアムさん(37)は「修験道にも関心があり最近本を読んだばかり。滝行は五感で楽しめた」と笑顔だった。
兵庫県西宮市の会社員、山﨑志保さん(49)は「怖いイメージはあったがよかった。山修行でもすがすがしい気持ちになったが、滝修行では全てを洗い流してくれた」と話した。
世俗と猛暑から離れた霊山での修行体験を終えて約1カ月。しかし、生活態度を改めようという自分との戦いは続いている。世俗にどっぷりつかり過ぎた者にとって煩悩は手ごわい。