「越境EC」円安で再脚光 2年で8割増、中小に商機
チャートは語る
(日本経済新聞 2022年10月16日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1188X0R11C22A0000000/

【ホッシーのつぶやき】
円安により越境ECの海外販売額が2年で8割増、5年で3.7倍だという。国内でもオンラインショッピングが増えたが、越境ECでは円安効果が上乗せされる。
この記事は、中小企業や地場企業にとってチャンスだと展開されているが、インバウンドが再開した今、訪日観光客にリアルな場で販売しつつ、帰国後、越境ECで購入してもらう仕掛けが必要だ。

【 内 容 】
【この記事のポイント】
・越境ECによる海外への販売額が2年で8割増えた
・円安が追い風となり、時計やアクセサリー、家電などが人気
・中小企業のグローバル化が進むきっかけとなる可能性も

越境電子商取引(EC)による海外への商品販売が急増している。IT(情報技術)の発達で翻訳や手続きなどが簡単になったところに急速な円安が追い風となり、中小企業が参入する動きが広がる。2021年には米中向け越境ECだけで両国向け輸出額の約1割に相当する規模に成長した。中小企業のグローバル化が進むきっかけとなる可能性があり、息の長い取り組みが求められる。

経済産業省によると個人向け越境ECの販売額は21年に中国向けが前年比10%増の2兆1382億円、米国向けが26%増の1兆2224億円。米中向けの貿易統計上の輸出額の約1割に相当する。米中は日本の越境ECの2大主要国とされる。越境ECは20万円超などの取引でなければ貿易統計に反映されないため越境EC全体の販売額は明らかではないが、一定の市場に成長したようだ。

足元では海外向け販売がさらに勢いづいている。越境EC支援で国内最大手のBEENOSが持つ国内3千社以上のデータによれば、22年1~6月の販売額指数(円ベース)は20年同期比で8割増えた。5年前比では3.7倍だ。東南アジアや欧州、北米向けの伸びが目立つ。越境ECは15年前後にも日用品販売が急増しブームとなったが、今回はアクセサリーや時計など「高額の嗜好品が売れている」(同社の直井聖太社長)。

背景にあるのは円安だ。14日のニューヨーク市場で対ドルの円相場は一時1ドル=148円台に下落し、32年ぶりの円安・ドル高水準となった。各国通貨で見た日本製品の割安感が強まっており、BEENOSが集計する客単価は実効為替レートで換算すると22年1~6月に20年1~6月比で4%増にとどまる。物価高のなかで他国製品に比べて価格競争力が増している。BEENOSによると、米国の越境EC利用者の26%で日本製品の購入頻度と購入額が増えている。

カーテン製造販売のくれない(大阪府高槻市)は、米アマゾン・ドット・コムに出店し米国向け販売を伸ばしている。屋外から室内は見えないが室内からは外が見える国産の高級カーテンが人気だ。津田善朗社長は「円安で利益を上げやすくなった」と語る。

弁当箱販売などのECサイトを運営するBERTRAND(京都市)は22年以降、月商が1200万~1300万円と2~3割増えた。トマ・ベルトラン社長は「円安のおかげで在庫積み増しや販促など前向きな投資ができる」と話す。

ITの発達で越境ECを手がけやすくなったことも企業を後押ししている。従来は商品説明などの翻訳や顧客への連絡、配送・申告書手続きなどが煩雑で中小企業にとって負担が大きかった。EC大手や支援会社による自動翻訳や手続き代行などのサービスが広がり、中小企業が参入しやすくなっている。日本貿易振興機構(JETRO)の調査によれば、
越境ECを利用または検討中の中小企業は48%と大企業よりも約10ポイント高い。

中小企業の海外展開が進めば、稼ぐ力の底上げにつながる可能性がある。経済財政白書の分析によると、輸出を始めた企業は始めなかった企業よりも生産性が改善する傾向にある。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「越境ECは中小企業が事業構造や経営を変革する好機になる」と指摘する。

世界と比べると、日本のEC活用はなお見劣りする。経済協力開発機構(OECD)の調査では、日本の中小企業のEC活用比率は22%と世界平均(31%)を下回り、下位グループだ。拡大できる余地が大きいといえ、腰を据えた取り組みが欠かせない。

越境EC
電子商取引(EC)サイトを使い、国をまたいで商品を売買すること。外国に売るにはサイトを多言語対応にしたり、現地ECモールに商品を出したりする。トランスコスモスは世界の越境EC市場が2025年に約1兆3000億ドルと22年比で4割弱伸び、利用者が20億人に膨らむとみる。ECは消費者に幅広く定着しつつあり、米インサイダー・インテリジェンスによると世界の小売総額に占めるEC比率は約2割に達した。

中小企業が海外開拓の一歩として始める例が多い。課題も少なくなく、日本政策金融公庫の21年の調査では越境ECによる売り上げが想定を下回る中小企業が49%に上る。商品の差異化や物流網確保などで苦戦する企業が目立つ。

越境ECで生鮮食品や美容商品を販売する場合は各国の法規制に対応したり温度管理を徹底したりする必要があり、特にハードルが高いとされる。越境ECを支援するWe Agri(東京・中央)の根岸健社長は「海外向けの低温輸送網や独自の販売網を持つ支援会社が増えれば、参入の裾野が広がる」と話す。