震災復興から歩みを進める宮城県気仙沼DMOが、コロナ禍でも需要喚起策を次々と実践できる理由
(やまとごころ 2020年7月16日)
https://www.yamatogokoro.jp/column/corona_casestudy/39190/

【ポイント】
長文です…
宮城県気仙沼市のポイントカード「クルーカード」が素晴らしいので、やまとごころのレポート(上・下)を中心に、オンラインセミナーから得た情報をまとめてお送りします。
東日本大震災により壊滅的な被害から復興に取り組むなか、スイスのツェルマットに学び、ポイントカードを軸とした顧客管理(CMR)を実践し、気仙沼の強みである水産業や「食」を観光業に活かし基幹産業として育成することを決めたという。
日本のDMOとして、これほどデータを活かしたマーケティングで成果を挙げているところはない。
(許諾を得ていませんので転載禁止でお願いします)

・「気仙沼という共通の船に乗り込んだクルー皆が、気仙沼を元気に動かすクルーシップ」というコンセプト。
・気仙沼市民であろうと観光客であろうと、クルーシップでつながる仲間という考え方。
・クルーシップ会員は2万5千人。会員の半数以上が気仙沼市民で、仙台などの宮城県民3割強、東北圏、関東圏と続く。
・新型コロナの中、ポイント付与による購買促進(市内会員の売り上げ96.8%)や、宮城県内からの来訪55%へのマイクロツーリズムの展開。宮城県のクルーカード顧客を対象に、加盟店宿泊施設利用で3000円のポイントをプレゼントするキャンペーンで大きな成果。

【 概 要 】
日本で、地域観光が注目されるにつれ、DMOに期待される役割も多様化が進む。マーケティングやブランディング、地域プレイヤーのマネジメントなどその範囲は多岐にわたり、DMOへの期待は高まる一方だ。
その一つ、経験や勘を頼りにするのでなく、“科学的データに基づいたマーケティング”の重要性の理解も進んでいる。ただし、DMOが自らデータを取得することは難しく、多くのDMOが手法を模索している。

宮城県気仙沼市は、いち早くマーケティングの重要性を認識し、気仙沼住民や気仙沼好きの観光客を対象としたポイントカード「クルーカード」を発行した。カードを持つ人の属性や、いつどこでいくらお金を使ったか日単位で把握し、取得したデータを次なる施策に活かしている。

一見すると普通のポイントカードだが、東日本大震災による壊滅的な被害から、復興に取り組む気仙沼の想いがこもった、地域と気仙沼ファンをつなぐ「証」となっている。
気仙沼観光推進機構(気仙沼DMO)設立の背景や経緯、「クルーカード」をどのようにマーケティングに活用しているのか、またコロナ禍で売り上げが落ち込む中で、どのようにデータを活用したのか、そして今後の展開について、気仙沼DMO事務局としてマーケティングなどを担う、(一社)仙沼地域戦略 事務局長の小松氏と玉川氏に話を伺った。

2011年に気仙沼を襲った東日本大震災と津波は、市内の7-8割を占める水産業に壊滅的な被害をもたらした。その後、震災復興計画を作る過程で、水産業一本足では、同様の事態に陥ったときに、地域が立ち直れないと再認識し、第二第三の柱の検討を始めた。そして、気仙沼の強みである水産業や「食」を活かせる観光業を気仙沼の基幹産業として育成することを決めた。

2012年3月から約1年かけて観光戦略を策定し、翌2013年には戦略を実行する新組織を立ち上げ、2015年から2年間は、前半2年間に取り組んだ商品開発や人材育成を、どのように地域内で自走させるかにフォーカスして検討した。その過程で「DMO」に着目したと、(一社)気仙沼地域戦略で事務局長を務める小松氏は語った。
小松氏は、2013年当時勤めていた富士通からの出向で、4年間地元である気仙沼の震災復興プロジェクトに携わった。

スイス観光局の仕組みを参考に、DMO立ち上げ
「DMO」立ち上げに際し、既存の観光関連の組織の役割見直しと再編成が必要と感じ、有識者を招き議論を重ねた。その中でJTIC SWISS山田桂一郎氏からスイスのDMOの仕組みや考え方を学ぶ。
その仕組みをより深く理解するため、主要メンバーでスイスのツェルマットを訪れ、ツェルマット観光局が実践するマーケティングやマネジメントの仕組みを肌で感じた。
「ここで、意思決定に民間事業者を巻き込むことの重要性やモニタリングの仕組み、財源確保の重要性や手法についての理解を深めていきました」と、小松氏は語る。

DMOのマーケティングツール導入は1年間模索を続ける
帰国後、ツェルマット観光局で得た学びを、気仙沼DMOにどのように取り入れるかの検討を進めるなかで、マーケティングの仕組みの導入が大きな壁として立ちはだかった。ツェルマットでは宿泊施設や観光事業者が所有する顧客情報をDMOのシステムに集約することでDMOが一元管理しているが、日本では個人情報保護基本法の壁があり、同様の仕組みにできない。最終的には、地域を軸としたポインドカードの導入に落ち着いた。
「大きな声では言えませんが、実はポイントカードはやりたくなかったのです」小松氏は苦笑いしながら答えた。ポイントカードの成功事例はあまり耳にしなかったことも、前向きになれなかった要因の一つだという。
「何か他にやり方はないか、時間をかけて調べ、いろいろな人に相談しました」とその苦労を語る。最終的には、他の方法が見つからずポイントカードの導入を決めたが、どうしたら成功に繋げられるか、皆が持ちたくなるポイントカードにするには、どのようなコンセプトにすればいいのか、1年近くかけて作り込んだ。

「クルーシップ」をコンセプトにしたポイントカード「クルーカード」を導入
このポイントカードの取り組みを「気仙沼という共通の船に乗り込んだクルー皆が、気仙沼を元気に動かすクルーシップ」というコンセプトに固めた。会員が持つポイントカードは「クルーカード」と定義づけ、クルーカードを持つ人は、気仙沼市民であろうと観光客であろうと、クルーシップでつながる仲間という考え方だ。
クルーシップ会員は、飲食店や物販、宿泊施設など市内の125の加盟店での、買物時にカードを提示するとポイントがたまる。たまったポイントは加盟店での買い物にも利用できる。
現在、クルーシップ会員は2万5千人を超えた。会員属性は、半数以上が気仙沼市民で、その他、仙台などの宮城県民、仙台を除く東北圏、関東圏と続く。
加盟店になるためには、初期のシステム導入費用以外に、クルーシップ会員による売上金額に応じて、毎月システム利用料を負担しなければならない。
小松氏は「現時点では、市内事業者に占める加盟店の割合は1割程度ですが、毎月発生するシステム利用料を負担できる、比較的規模が大きい店舗や施設が登録しています。そのため域内経済へのインパクトは1割以上とみています」と話す。

クルーカードを通じて取得した情報をマーケティングに活用
このポイントカードの仕組みでは、クルーシップ会員がいつどこでどの程度お金を使ったか、詳細のデータがDMOに蓄積されていく。
クルーカードの取り組みは2017年4月にスタートし、現在4年目だ。そしてマーケティングへの活用は「最近にやっと、利用可能な規模のデータが蓄積されてきました」(一社)気仙沼地域戦略の玉川氏は話す。
例えば、過去のデータから、仙台など宮城県からの観光客と一ノ関や盛岡の人、首都圏から訪れる人では、人気のシーズンも違えば、気仙沼に来る理由や期待も異なることが分かった。
そこで、ターゲットごとに伝えるメッセージや訴求する商品、サービスも変えている。現状を把握したうえで、相手のニーズに応じた施策を打つマーケティング活動は、民間企業では当たり前だが、日本国内で、地域単位で実践できている場所は多くはない。自ら顧客情報とデータを所有する気仙沼DMOならではの強みだ。
気仙沼DMOでは、クルーシップ会員の半数以上が気仙沼市民であり、気仙沼市内会員による域内消費と、市外会員による観光消費を分けて考え、それぞれに目標値を設定する。また、クルーシップ会員による売り上げだけでなく、気仙沼市内の延べ宿泊者数も目標を定めているという。

コロナ禍で落ち込む需要を喚起すべく、素早くキャンペーンを展開
クルーシップ事業も4年目に入り、取得データを活用したマーケティング施策を加速させていこうと思っていたところに、新型コロナウイルス感染症が広がり、気仙沼も大打撃を被った。
緊急事態宣言が発表された時に、気仙沼市で感染者が出たため、4月上旬以降、休業や営業短縮する店舗が急増し、クルーシップ加盟店の売上も一気に落ち込んだ。
そのような状況下で、市民や市内事業者を支援する施策「フレー!フレー!地元キャンペーン」を始めた。消費を刺激しようと、期間中に一定金額以上利用した人にポイントをプレゼント。実店舗だけでなくEC加盟店も対象にし、気仙沼を訪れることができない人にも対応した。

キャンペーンが、地域のクルーシップ会員の消費落ち込みを微減にとどめる
4月6日から1カ月間行われたキャンペーンの経済効果は、市外会員による消費は昨年同期比53%と半数近くに減ったものの、市内会員による売り上げは同96.8%にとどめた。市内と市外あわせたクルー会員の消費は3割減だったという。「キャンペーンを実施しなければさらに売り上げが落ち込んだのではないか」と小松氏は分析する。

「実施時期や期間は、緊急事態宣言や市内感染者の発覚のタイミングと重なり、店舗の時間短縮営業や休業の時期と被ったため反省すべき点もあった。ただ、加盟店へのヒアリングの結果、満足したという声が65%で、一定の評価をいただけた」とみている。

市外のクルーシップ会員を気遣う取り組みが、人々の心をつかむ
市内会員には消費を促すキャンペーンを展開したが、市外会員の多くは、移動自粛の動きもあり気仙沼を訪れることができなかった。そんななかで市外会員を対象に行ったある取り組みが、想定以上の反響を呼んだ。
「一緒に気仙沼という船に乗る仲間であるクルーシップ会員の方は、気仙沼に思いを寄せる方も多い。彼らに気仙沼から元気を届けたい。困難な時期にお互い頑張りましょうという想いを伝えたい。そう考え、“あなたの地元も気仙沼は応援します!”というメッセージを添えたハガキを送りました」と、(一社)気仙沼地域戦略の玉川氏は話す。
「東日本大震災で壊滅的な被害を受けた後、多くの方からお便りをいただき、励まされた経験から “大変な時は手紙やはがきの方がよい”という声があり、敢えてメールではなくハガキにしました」という。
「費用対効果から、消費を促す内容の方がいいという意見もありましたが、大変な時だからこそ、相手を気遣う内容にしたい」とメッセージ内容を決めた。このはがきへの反響が大きく、「大変なときって助けてくださいという取り組みが多いなか、逆に応援してくれたのがすごく嬉しかった」「もっと好きになった。コロナが落ち着いたら行きます」といった感謝のメールや手紙が多数寄せられた。

市民から始まった活動をDMOが後押し、気仙沼テイクアウトメニュー表の作成
「フレー!フレー!地元キャンペーン」を通じて、市内事業者に対する支援を行ったものの、125ある気仙沼クルーシップ加盟店の4割強を占める飲食店の売上減少は大きかった。特に市内で感染者が発覚した翌日からの売上が大幅に落ち込んだ。
影響が大きい飲食店のサポートをしようと始めたのが、テイクアウトやデリバリー対応する店舗の情報収集と発信だ。市民の方がハッシュタグをつけた「#テイクアウト気仙沼」という発信で盛り上がりを見せたので、この取り組みを後押しする形で情報発信を始めた。
ハッシュタグで集めた情報のほか、スタッフでお店に足を運び、料理の写真を撮影し、集めた情報をSNSで発信したほか、観光情報サイトにまとめて掲載した。「市民発の自発的な取り組みを後押しできたのもよかった」と玉川氏は話す。
テイクアウトメニューの掲載後、すぐにアクセスが伸びたという。公開したページを気仙沼ランチメニュー表として参考にする人が続出した。市役所でも課でまとめて注文という動きも見られたという。
「実は加盟店へのアンケート結果と、テイクアウトメニューのとりまとめと発信への満足度が一番高かった」と小松氏は付け加えた。DMOという立場を活かし、市民と飲食店両方のニーズをとらえた取り組みを素早く形にしたことが、高い評価を得たポイントと言える。

withコロナの観光戦略マイクロツーリズム推進で近場からの利用を狙う
6月19日、県を跨いだ移動が解禁され、観光再開の動きも見え始めた。気仙沼でも、緊急事態宣言下で休業や時間短縮営業を余儀なくされていた事業者が徐々に通常営業を再開している。
そのような状況下で気仙沼DMOが着目するのはマイクロツーリズムだ。今後、感染症拡大の第二波、第三波が発生し、規制と緩和を繰り返しながら緩やかに旅行需要が回復することも見据え、まずは近隣に住む既存顧客をメインターゲットとした施策を展開する。
マイクロツーリズムや近隣からの観光客の需要を取り込む動きは、日本だけでなく世界的なトレンドだが、気仙沼ではデータに裏付けされた根拠がある。クルーシップ会員の市外会員のうち3割強が仙台市などの宮城県民だ。宮城県最北端に位置する気仙沼では、一ノ関市など岩手県会員も多いが、宿泊も見込めると判断した宮城県在住の会員を最重要地域に設定した。2019年に行った街頭アンケート調査でも、宮城県からの来訪が55%と一番大きい。また、2019年の宿泊統計調査からも、市内宿泊の37.5%が宮城県ということが分かっている。さらに、岩手県含む東北圏からの来訪のピークは秋だったのに対し、宮城県民のピークが6-8月だったことも決め手となった。

取得したデータを活用し、市場のニーズを踏まえたサービスづくり
そこで7月10日からは、宮城県在住のクルーカード顧客を対象に、加盟店宿泊施設利用で3000円のポイントをプレゼントするキャンペーンを開始した。
実は、当初は宿泊客への値引きキャンペーンを想定していたが、クルーシップ会員へのアンケート結果、お得に買い物できるポイント付与の方が、よりニーズが高いことが分かった。同時に観光に関する情報収集の方法や気仙沼の魅力調査も行い、会員に訴求するコンテンツや告知媒体の絞り込みも行った。
「作り手側の想いや、経験や勘を頼りにサービスやコンテンツを決めうちする、プロダクトアウトの発想ではなく、ターゲット顧客や市場ニーズを正しく把握したうえで商品やサービスを作る、マーケットインの発想で判断している」と、顧客データベースを所有しているからこそのメリットを小松氏は語る。

「応援消費」をキーワードに、市民が事業者を支援する仕組みを構築
コロナ禍のなか「応援消費」に着目した。「今は訪れることができないが、窮地に陥った事業者を助けたいという“応援消費”へのニーズは注目度も高く、実際に応援消費した人の満足度も高い」小松氏はそう話す。
ジャパンネット銀行が実施した応援消費に関する意識調査によると、応援消費は誰かの役に立っている実感を得たり、自分自身の活力にもなる効果があり、その満足度は94%にのぼる。
そこで「応援消費」をコンセプトにし、フレー!フレー!地元キャンペーンの第二弾を始めた。加盟店での消費に応じて、加盟店に対して現金で還元する仕組みを取り入れる。買い物することが地元店の応援に繋がることを訴求し、消費を促すというものだ。また、消費に応じてクルーシップ会員にもポイントを付与することで、会員にとってもメリットがでるようにしている。

7月1日のキャンペーン開始から2週間が経過しましたが、キャンペーン開催の前の週や昨年同期比と比較すると、クルーシップ会員による売上が3割増となったと、キャンペーン効果について玉川氏は話す。

気仙沼のヘビーリピーターを囲い込むプレミアム顧客向け施策スタート
これまで温存していた、DMO設立時にツェルマット観光局での視察で学んだ「プレミアム顧客向け施策」も、このタイミングで着手する。
ツェルマットでは、繰り返し地域を訪れるヘビーリピーターの方にバッジをプレゼントし、バッジをつけた方をプレミアムなお客様として、地域一体でより丁寧に暖かく迎えている。この取り組みを参考に、気仙沼DMOではクルーシップ会員の中からプレミアム顧客を設定した。
まずは、気仙沼市外の宮城県に住む会員に絞り、2019年実績からクルーカード利用5回以上かつ利用金額5000円以上という条件で顧客を抽出し、限定の非公開コンテンツにモニターとして招待する。提供する非公開コンテンツは、アンケートで会員からの関心が高かった野外でのダイニングアウトと気仙沼湾クルージングの2つに絞った。「モニター参加者には事後のアンケートに回答してもらうことで、商品化や今後コンテンツの改善にも繋げていく」モニター会員からのフィードバックも欠かさない。

気仙沼の生産者に焦点をあててその魅力を発信
マーケティングデータを収集し、会員へのアンケートをもとに施策を展開する気仙沼DMOだが、地域の新たな付加価値創出によって、気仙沼という地域が抱える大きな課題を解決しようと取り組んでいる。
気仙沼の抱える課題の一つに、地域経済循環率の低さが挙げられる。気仙沼の2013年の地域経済循環率は34.2%と低水準にとどまっている。なお、水産業、食料品、林業を除いたほぼ全ての産業で数百億円規模の域外流出が発生している。特に、東日本大震災以降、インフラや建築関連産業など、復興関連の予算分配の多くが域外流出しているのが現状だ。今後、経済循環率を高めるためには、域内調達率のアップが欠かせない。地域で生産したものを地域で消費する「地産地消」を超えて、地域で消費するものを可能な限り域内で生産する「地消地産」を軸に、域内循環を高める。最初のステップとして、行政との連携により産業連関表を作成し、気仙沼市の経済構造を相対的に把握するべく準備を進めている。

他方で、「地消地産の考え方を気仙沼市民にも感じてもらいたい」と、分かりやすく伝える取り組みも進めている。その一つが、気仙沼の主要な農産品や海産品の生産者に焦点をあて「どういった商品を作っているのか」「商品のおすすめポイントやこだわりは何か」など、その裏にある想いや過程などのエピソードをストーリーにして発信するというものだ。
生産者や商品への魅力だけでなく「その商品はどこで購入できるのか」「商品を使ったおすすめレシピ」など、具体的な行動に繋がる情報も発信し、その魅力を多面的に伝えていく。

「クルーポイントを活用した施策は、どうしてもお得感を出す値引き施策に偏りがち。気仙沼ならではの付加価値を作り出すことも必要」と小松氏は語る。
市場や顧客ニーズやデータをもとにしたマーケティングの重要性は認識しつつも、データ一辺倒の施策に傾倒するのでなく、地域が抱える課題に向き合うことや、新たな付加価値創出も忘れずに取り組んでいる。

ふるさと納税を活用した自主財源の確保
気仙沼DMOが抱える課題の一つに「安定した自主財源の確保」が挙げられる。
現在、気仙沼DMOの財源の多くは行政からの補助金で賄っているが、用途や条件に制限もあり、施策実施までのスピードや柔軟性という点で課題もある。
現在は、全国のDMO関連組織からの視察受け入れに伴う収入を自主財源として活用するが、金額も多くはない。「今後、より一層機動的かつ柔軟に施策を実施できるよう、自主財源確保の強化も進めている」と小松氏は語る。

今後の財源確保の一つとして、ふるさと納税の仕組みを活用する。気仙沼市へふるさと納税する際に、気仙沼DMOに関わる返礼品のラインナップを新設し、納税者がDMOの商品を選ぶと、その一部をDMOが受け取れるようにする。今年の秋にはスタートする予定で準備を進めている。返礼品には、気仙沼クルーシップ加盟店で使えるポイントのほか、事務局セレクトの地元ギフト詰め合わせやプレミアム体験などを用意する。

クルーカード事業の更なる拡大に向けた財源も確保
ふるさと納税を活用した財源確保に加え、クルーカード事業の更なる拡大に必要な財源確保も進める。
新規会員の獲得や加盟店数のアップ、加盟店の購買単価向上や売上拡大には、気仙沼DMOによるきめ細やかなサポートが欠かせない。より一層取り組みを強化するべく、クルーシップ会員の売り上げの一部を財源として確保する予定だという。
東京や京都、大阪など都市部で最近導入が進む宿泊税も検討しているのか伺ったところ、「今現在、宿泊税は、既に観光業が成熟している地域や、一定規模の宿泊客が見込める地域での実践は良い施策かもしれない。ただ、気仙沼は観光地としては発展途上。これから観光業を伸ばそうとする現段階での宿泊税導入は宿にのしかかる負担も大きく、現実的には難しい。観光業が定着し、市場が成熟したうえで検討を進めるのが良い」と小松氏は話す。

地域経営を担うDMOは、データを活用した科学的根拠に基づいたマーケティングへの期待は高まる一方だ。しかしながら、自治体主導で行う観光調査や宿泊統計を頼りにしている地域も多い。それ自体を否定するものではないが、テクノロジーの進化が進むなかで、DMOが主体となってデータを取得し、マーケティングに活用している珍しい事例の一つが気仙沼DMOだ。
地域によって抱える課題は様々であるため、今注目を集める施策をやみくもに何でも取り入れるのではなく、地域の実情や、優先して解決すべき課題に応じて柔軟に考えることが大切と言えそうだ。