【観光学へのナビゲーター 36】観光による地域振興には地域住民が鍵 日本国際観光学会オーバーツーリズム研究部会・国際観光サービスセンター 矢田部 暁
(観光経済新聞 2021年5月9日)
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【ポイント】
日本国際観光学会オーバーツーリズム研究部会による、川越市在住者を中心にオーバーツーリズムに関するアンケートによると、観光関連の方と地域住民では異なる結果となった。
地域住民は「川越のイメージアップにつながる」「全国的に注目され誇りに思う」と好意的な面もあるが、オーバーツーリズムによる地域住民の生活への支障がマイナスとなっているようだ。
当然の結果と言えるが、オーバーツーリズムの抑制や、地域住民に直接的メリットを享受できる方策を真剣に考えなければならない時期に来ていると思われる。

【 内 容 】
 地域において、観光客の誘致・受入による地域振興を持続的に進めていくためには、観光関連産業に従事していない一般の地域住民の理解を高めていくことが不可欠と考えられる。地域は住民の日常生活の場である。そこに、外部からの非日常の場所としてその地域を訪れる観光客によって、地域住民はプラス、マイナス両面の様々な影響を受けることとなる。

 日本国際観光学会オーバーツーリズム研究部会では、川越市内在住者を中心にオーバーツーリズムに関するアンケート調査を実施し、「川越が観光地として有名になったことについて感じること」について尋ねた。その結果、川越市内在住者の中でも観光関連産業従事者と非従事者の間で感じ方が異なる傾向のあることがわかった。

 この設問では八つの選択肢を設け、当てはまるものはすべて選択可として回答を得たところ、七つの選択肢で観光関連産業従事者のほうが選択率が高い結果となった。唯一、観光関連産業非従事者の選択率のほうが高くなったのは「全国的に注目され誇りに思う」であった。選択肢別にみると、両者を合わせた選択率が最も高かったのは「川越のイメージアップにつながる」で、観光関連産業従事者と非従事者の選択率の差が最も少ない選択肢でもあった。一方、両者で最も選択率の差が大きく、観光関連産業従事者の選択率が高かった項目は「多くの人が来ることで経済が潤う」であった。

 これらのことから、川越が観光地として有名になることに関する一般の地域住民の関心は、観光関連産業従事者に比べると相対的に低い。また、観光客による経済的な効果についてもあまり実感・理解していない。一方、「川越のイメージアップにつながる」、「全国的に注目され誇りに思う」という情緒的な面においては観光地であることを大いにプラスに捉えている。しかし、観光客の増加等によって一般の地域住民の日常生活に様々な影響が出てくるようになると、上述の情緒的な面に対する彼らのプラスの感じ方が薄らいでいく可能性があると考えられる。この情緒的な面が観光による地域振興のプラス面であることの認識を、地域住民の間で定着させていくことが重要であろう。具体的には、地域住民と観光客が接する機会の創出等によって、より多くの地域住民が観光客をとおして地域の固有性やその魅力等を実感していくことが、地域における観光による持続的な地域振興につながっていくものと考えられる。

 観光による地域振興の意義を一般の地域住民へと広げ理解を得ていくことが、鍵となるとだろう。このことはアンケート対象となった川越に限らず、すべての観光地に於いて言えることではないだろうか。