大洲の町全体をホテルに 四国観光新時代
(NHK松山放送局 2022年12月1日)
https://www.nhk.or.jp/matsuyama/insight/article/20221201-1.html

【ホッシーのつぶやき】
「伊予の小京都」と呼ばれる愛媛県大洲市、大洲城を活用した城泊でも注目を集めている。そして歴史的な古民家を活用したまちづくりでも注目だ。現在22棟を改修して「分散型ホテル」として活用しているという。
これまで行政の税金に頼ってきたが、これが困難になり「活用することで保存」するという。物件は基本的に15年の賃貸契約で借りる仕組みだ。
「観光地にするのが目的ではなくて、観光は手段だ」との発想は今後、広がっていくのだろう。

【 内 容 】

「伊予の小京都」とも呼ばれる愛媛県大洲市。

市のシンボルである大洲城のふもとではいま、住む人がいなくなった古民家がリノベーションされて、次々とホテルの客室に生まれ変わっています。
取材すると見えてきたのは、観光を手段として町を保全しようという「サステイナブル」な観光のあり方です。
(NHK松山放送局 藤田理世/八幡浜支局 勅使河原佳野)

町全体がホテルに

大洲城を中心に城下町が広がる愛媛県大洲市

いま、歴史的な建物を活用したまちづくりが進んでいます。
その一環として作られたのが「分散型ホテル」です。
市内にある22棟の古民家を改修して客室を作り、町じゅうがホテルとなっているのです。

きっかけは空き家問題

大洲市は江戸時代から昭和初期まで、製糸業や和紙、木ろう作りで栄えた、歴史ある町です。

しかし、過疎化が進んで空き家が増え、市全体に2000軒以上の空き家があるといわれています。
壊れかけた空き家にブルーシートがかけられて、風光明媚な町並みがなくなりつつありました。

キタ・マネジメント 髙岡公三さん

そんな中、大洲市から相談を受けたのは、伊予銀行で地方創生の仕事をしていた髙岡公三さんです。
現在は市と連携してまちづくりのプロジェクトを進める団体の代表を務めています。

(キタ・マネジメント 髙岡公三さん)
「市としては税金を投入して残すのは無理だということで、ではどうするかと考えたときに、活用することで残していくという方向性になりました。文化財が自らお金稼ぎ出すぐらいのことをやっていかないとダメなのではないかと」
外から来た人にお金を落としてもらうことで地域が潤う仕組みを目指し、観光客に町に長時間滞在してもらおうと、5年前、古民家を活用したホテルを作ることにしました。

お金で買えない”歴史”を保全する

客室に使われている空き家は、江戸時代から大正時代にかけて建てられた歴史ある建築物です。
ホテルにするにあたって大切にしたのは、当時の人々の息づかいを残すことでした。

例えば、こちらの部屋の壁には、江戸時代にかんなの代わりにちょうなを使って削られたはりが残っています。ここに下からライトを当てることによって、削り跡が文様のように見えます。

さらに、トイレの壁にはたくさんの文字が書かれています。江戸期に書かれたとされる落書きをあえてそのままに残しました。

(キタ・マネジメント 髙岡公三さん)
「何億円お金出しても買えない歴史というものがこの町にはたくさんあります。建物もそのひとつです。古民家や文化財は、もともと使われていた用途があって、それをもう一回よみがえらせてあげたら長く持つのだと思います」
分散型で地元にお金を落とす

ホテルは客室が町全体に分散しているだけでなく、フロントや食事会場もそれぞれ別の建物の中にあります。
この仕組みにより、1か所だけでなく、町のあらゆるところに観光客に足を運んでもらえるようになりました。

外国人の個人旅行が解禁となった10月、このホテルにやってきたオーストラリア人の宿泊客も、古くからの日本の町並みをより楽しめると感じていました。
(オーストラリアからの宿泊客)
「歩くことで城下町の作りを感じることができます。細い道がたくさんありますが、迷いながら歩くのも面白いです」

さらに、改修した古民家の一部には、飲食店や雑貨店なども呼び込んでいます。
21店舗あるうち、半数以上は地元の人が経営する店です。

大洲で菓子店を営む男性もその1人です。
改修した古民家では、わらびもちなどを提供するカフェの経営を行っています。
(茶寮平野屋 代表 平井啓太郎さん)
「お客さんが増えているなという感じはありますね。僕が大洲に帰ってきた9年前は空き家だらけでこれは崩れないかな、大丈夫かなと思っていました。取り組みによって町が死なずにすんでいるような感じです」

さらに、空き家を提供してくれた人との関係作りにも工夫がありました。
物件は所有者から買い取るのではなく、基本的には15年間の賃貸契約で借りる仕組みをとっています。
市外に暮らす所有者も多い中で、所有者にはホテルの宿泊券を配るなどして、地域の人とのつながりを保ち続けたいとしています。

観光は目的ではなく手段

大洲市の二宮市長(左) 髙岡さん(右)

こうしたまちづくりは、ことし、オランダの認証団体から「世界の持続可能な観光地」のトップ100に選ばれました。愛媛県内の都市が選ばれるのは初めてのことです。

コロナ禍により、観光地にとっては「たくさんの観光客が訪れること」が必ずしもいいこととは言い切れなくなっています。

そんな中で、環境や社会、経済に負担をかけない「サステイナブル・ツーリズム」というキーワードが世界中で注目されています。
大洲市の事例でも、目指しているのは観光を手段として町を活性化させることだといいます。

(キタ・マネジメント 髙岡公三さん)
「観光地にするのが目的ではなくて、観光は手段だと思っています。目的っていうのは、歴史文化の保全と地域経済の活性化なんです。この町にお金が落ちて、得られた利益はまた町に再投資をして、それを続けていけば、この町は残っていくんだろうと思います」

勅使河原の感想
「文化財は保護するのではなく活用して保全する時代だ」という髙岡さんのことばにハっとさせられました。お金を落とすことでその地域の歴史が守られる、その手段として観光が使われるという仕組みを見たときに、「観光」というもののあり方に変化が生まれているように感じました。
そして、コロナ禍を経て、旅行客の考え方にも変化が生まれていると思います。今回の取材で大洲を訪れた人にその理由を聞くと「ゆったりとできる」とか「人が多すぎない」などと、癒やしを求めて旅行をする人が多くいました。いわゆる”観光地”ではなかった地域も注目される可能性があり、四国など地方にとってはチャンスが訪れているように思います。コロナで大打撃を受けた観光業がどのように再生していくのか、追い続けたいです。

藤田の感想
町並みづくりの取り組みを取材する傍ら、大洲の町を歩きながら、観光客や地域の方の声もうかがいました。東京など県外からのお客さんも多い中、地元大洲の方も友人を連れて訪れていて、地元の人にとっても自分の地域をより好きになる機会ができたのだと感じました。
また、歩きながら気づいたことは、ホテルの周りに民家が並んでいることでした。武家屋敷を補修して代々住んでいる方がいたり、葉っぱで昆虫の飾りを作って自宅の前で売っている方がいたり、ふと落ち着けるような人々の暮らしがありました。
大洲にツアーの視察に来た韓国の方は、「ここは地元の人々とともに住む感覚があり素晴らしい」と言っていました。文化財や町の人々の穏やかな暮らしが魅力的だからこそ、建築を丁寧に扱ったり、地元の人々の生活を尊重したり、私も訪問するときは地域の文化を大切にしたいと思いました。