ホテル業界が今できることは? 需要回復期に生まれる新たなトレンドを、営業・流通・マーケティングの視点から考えた【外電】
(トラベルボイス 2020年3月17日)
https://www.travelvoice.jp/20200317-145642

中国における、春節の国内旅行者数を4億5000万人と予測したが、新型コロナウイルスで1億5200万人を下回り、中国のホテル業界は64%減となった。中国の観光産業の損失額は3兆元と、SARSの10倍となる見込みだという。
新型コロナウイルスは、感染拡大スピード、患者数、死亡者数、流行期間のすべてにおいて、2003年のSARSを上回る。SARSの時は、ビジネスが平常に戻るまで1年かかった。
本レポートではホテル業界を捉えて戦略を説いているが、観光業界全体も同じである。パニックに混乱しているだけでなく、今やれることとに注力するとともに、回復期に入る時の戦略、また業界全体の次世代の戦略を考えることが必要である。

【ポイント】
2020年1月下旬、中国のホテル業界は、今年の春節の国内旅行者数は4億5000万人と予測。ところが新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大で急停止し、1億5200万人を下回った。2019年は4億2000万人だったので、中国のホテル業界にとってはマイナス64%の需要減だ。
春節の観光需要激減による経済損失は、5500億元(約800億ドル)。中国レクリエーション観光研究センター推計では、中国の観光産業の損失額は今年3兆元に達し、2003年のSARSの10倍となる見込みだ。

SARSと新型コロナウイルスの性質を比較すると、感染拡大のスピード、患者数、死亡者数、流行期間のすべてにおいて、新型コロナウイルスが確実に上回る。
SARS流行時の経験から学べる部分は、需要回復に必要な時間の長さや、スピード感などだ。

2003年7月、中国国家観光局は公式に地域間および海外への渡航制限を解除したが、旅客数がようやく上向きに転じたのは2003年下半期に入ってから。前半のロスを取り戻す勢いになったのは12月、ビジネスが「平常」に戻るまで、流行の収束から1年かかった。
ホテル業界は混乱とパニックの真っ只中にあるが、今、大切なことは冷静さを保つこと。長期的戦略に重点を置き、合理的に考えることだ。
ホテルビジネスにおける5つの主要分野を対象に、現在の状況下でも、すぐ行動に移せることを以下に挙げた。

ホテル売上予算と見通しをしっかり確認しながら、適宜、必要な調整を加えていく。マーケット回復のスピード予測は、悲観的過ぎてもいけないが、短期的にも中長期的にも現実的な数字であるべきで、これに沿って営業戦略を見直していく。
価格コントロールの原理原則だけでなく、スタッフ、オペレーション、キャッシュフローなど、大きな決定に欠かせない要素も考慮することだ。

流通チャネルに対するプロモーションや営業活動は、感染拡大が続く中でも継続して行うべきだ。
企業としての社会的責任を果たし、政府当局や地域コミュニティ、産業界からのどんな要望にも積極的に応じる姿勢は対外的なイメージを向上する。
感染拡大が落ち着き、需要の回復期に入ったとき、宣伝活動におけるポイントは、衛生面や旅行者が安心できる環境についての情報である。SARS流行の直後、誰もが旅行することに不安を感じるようになり、需要の兆しは見えなかった。健康と旅行時の安全についての広報は、懸念の払しょくの役割を果たす。
当面は、ホテル・ブランドのポジショニングを固めることに力を入れ、キー・メッセージを届けよう。
ホテル営業チームと流通マネジャーが忘れてはいけないのは、日頃から担当しているクライアント企業や流通パートナーとコミュニケーションをとり、関係を維持する工夫だ。
こうした努力は、感染拡大が収束した後、ホテルの需要回復をスピードアップし、平常通りに戻るまでに要する時間を短縮する。
販売トレンド、マーケットセグメント、顧客プロフィールにおいて、流行の収束後、どのような変化が起きるか分析と予測に取り組み、顧客の行動パターンに注意しよう。

危機が去った後、感染拡大の影響が軽微だった地域から、日常的な飲食の消費が回復するのではないか。出張者の渡航需要は、大型の会議需要よりも早い。営業やマーケティング部門を率いるリーダーは、こうしたトレンドに対する嗅覚を鋭くし、タイミングよく対応できる体制を整えよう。
現在、ホテル各社は競争状況の分析に力を入れているが、今後は、宿泊ゲストたちが潜在的に抱えている深層心理や要望、期待、満足度まで探り出すべきだ。
回復期に入った後には、大きな変化があるはずで、ホテル経営者はこれにうまく対応する必要がある。

財務面では、通常の売上はもちろんだが、他にもホテル業務の新しい収入源になるサービスはないか、幅広く検討してみよう。例えばフードデリバリー、プロの技で差別化したランドリー、リムジンサービスなど。Eコマースを活用して、バスローブ、ベッド・リネン類、電気製品など、ホテル内で使っている商品をアピールしたり、販売することもできる。
ホテル内に従来より除菌を徹底したフロアを設け、差別化したプランを提案するのはどうだろう。
• AIを使ったセルフサービス導入により、他の人との接触がなくなる
• モバイルアプリで客室内をコントロ―ルできるようにし、操作ボタンに触れる必要がない
• 特別な研修を受け、審査に合格したハウスキーパーによる客室清掃の実施
• 新鮮な外気を取り入れた空気循環システム、床にはエアロゾル感染を防ぐための排気口を設置
• 一人ひとりの体温チェック
その他、宿泊日数の延長サービスや、客室をサービスアパートメントとして提供するなど、キャッシュフローの安定確保に役立つ。

自社ホテルの競争相手と市場トレンドにフォーカスしながら、価格戦略を見直し、調整を加える。
余力がある場合は、価格の割引幅を広げよう。
近隣の競合ホテルについて、自社ホテルと同等クラスの客室レートの動きを追い、在庫客室や流通の違いを把握する。

需要が動かない時期は、価格に対する反応が、通常とは違う状況にある。
価値評価やキャッシュフローの状況を踏まえつつ、価格体系を熟考することが求められる。やみくもに値下げしたり、キャンセル規定を厳格化するのは控えたい。
価格決定は、サービスと価値であり、価値と価格のバランスが、ホテルの競争力アップと売上拡大のカギになる。

(パート2に続く)

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。