雇用危機防げるか 宿泊・運輸・小売り、日米欧1億人
(日経新聞 2020年3月22日)
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO5707287021032020SHA000?unlock=1&s=1

欧米諸国の新型コロナに対する規制が凄まじい。国境を越える渡航制限、外出禁止、飲食店の営業休止、食品の買い物や通院などを除き自宅待機を義務付けとなり、街から人々の姿が消えた。
ホテル・レジャー、運輸、小売りの日米欧の国内総生産(GDP)は13%の5.5兆ドル。雇用者数は日米欧の全雇用者の1/4に相当する1億人。営業規制や外出規制が長期化すれば、労働者の雇用が危うくなる。
商店の営業や外出制限を課していない日本も感染が広がれば影響を免れないという。

【ポイント】
世界で雇用不安が広がっている。新型コロナウイルスの流行で経済活動が停滞。旅行や外食需要が消失し、ホテル・レジャー、運輸、小売りは実質休業に近い状況が広がる。3業種の雇用者数は日米欧の全雇用者の4分の1に相当する1億人に上る。感染拡大が止まらず、今の状況が長期化すれば、雇用や消費など実体経済への打撃は計り知れない。企業の破綻を防ぎ、雇用不安を緩和する政策が急務となっている。

米サンフランシスコ市の観光名所フィッシャーマンズワーフ。同市で外出が原則禁止となって一帯の景色が大きく変わった。人影が消え、臨時休業を余儀なくされた飲食店やホテルはレイオフ(一時帰休)を急ぐ。同市観光協会は「影響が甚大なことは間違いないが、まだ全容は見えない」と言葉少なに話す。

「当面、店を閉めます」。いつもなら店の外までビールを手にした客があふれる英ロンドンのパブ。英政府が飲食店の営業休止を決めた20日夜。店の入り口には、A4サイズの急ごしらえのお知らせが貼られた。在宅勤務が推奨され、街は閑散としている。レストランの店員は「お客さんがこないから、どうせ閉めるつもりだった。仕方ない」とつぶやく。
国境を越える渡航制限からスタートした人の動きの制限は日増しに強まり、日常生活に支障を及ぼすほどになっている。

米カリフォルニア州とイリノイ州のほか、ドイツのバイエルン州などが住民の外出を原則禁止した。食品の買い物や通院などを除き自宅待機を義務付ける。イタリアでも一部州が住民の散歩やジョギングなどを禁止したという。米ニューヨーク州は22日から在宅勤務を義務付けた。

ホテル・レジャー、運輸、小売りへの打撃は必至だ。ユーロスタットや経済調査会社CEICによると、こうした3業種が日米欧の国内総生産(GDP)に占める比率は13%にとどまる。一方、3業種の労働者は日米欧で1億人を超える。営業や外出規制が長期化すれば、こうした労働者の雇用が危うくなる。
米ニューヨーク市のレストラン従業員は営業規制をきっかけにレイオフされ、10年のキャリアを失った。

商店の営業や外出に制限を課していない日本も感染が広がれば影響を免れない。3業種が占める割合は日本は26%。欧州連合(EU)加盟国トップのスペイン(27%)に次ぎ、米国(24%)を上回る。
ホテルや航空会社にはひたひたと信用不安が迫る。ホテル最大手のマリオット・インターナショナルは北米や欧州の客室稼働率が足元で25%を割り込んだ。コマーシャルペーパー(CP)や社債の利回りは上昇が止まらない。
米低格付け社債の代表的な指数の利回りは10.81%まで上昇し、約10年半ぶり水準となった。株式市場では小売りなど3業種の株式時価総額が昨年末比で1兆4400億ドル(約158兆円)減った。

破綻を防ぐには、資金調達を手助けする政策が欠かせない。みずほ証券の大橋英敏チーフクレジットストラテジストは「米連邦準備理事会(FRB)は(CPに続き)社債買い入れも導入することになるだろう」とみる。万が一企業の破綻が広がっても、雇用喪失とその痛みを最小限に抑える政策をためらうことなく打ち出す必要がある。