『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が海の向こうでメガヒットした秘密
(週プレNEWS 2023年4月27日)
https://wpb.shueisha.co.jp/news/entertainment/2023/04/27/119227/

【ホッシーのつぶやき】
映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』、アメリカを始めとする世界では4月5日に公開され、興行収入7億ドル(940億円)を突破、オープニング興行収入は、世界のアニメ映画歴代1位の『アナ雪2』を上回るという。
ゲームの「スーパーマリオ」シリーズは世界で累計3億7000万本を売り上げ、世代をこえて楽しんできたからこそ映画も成功したとの図式のようだ。
日本では4月28日に全国公開だという。

【 内 容 】
今から42年前に誕生した日本生まれのゲームキャラクターが、世界中のスクリーンを熱狂させ、とてつもない興行収入記録を樹立している! これさえ読めば映画の満足度もグンと上がること間違いなし!? 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』爆発的ヒットの裏側!

■続々と記録を樹立し、世界を席巻!
任天堂がアメリカを代表するアニメ制作会社・イルミネーションと共同で制作した映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が、海の向こうで爆発的なヒットを記録している。
日本でもこのGWに合わせて4月28日からの公開が決まっているが、すでに4月5日に公開されたアメリカをはじめとする世界市場では、興行収入は7億ドル、日本円にして約940億円を突破したと報じられている(4月23日時点)。
またオープニング興行収入は、世界累計興行収入でアニメ映画歴代1位に君臨する『アナと雪の女王2』のそれをも上回る数字を叩き出しているという。
ほかにも、『怪盗グルー』シリーズや『SING/シング』など数々のヒットを飛ばすイルミネーションの作品のオープニング興行収入として歴代最高、さらにアメリカの映画配給会社ユニバーサル・ピクチャーズの公開週における世界興行収入で歴代4位となるなど記録ずくめのこの作品。日本で生まれたゲームキャラクターがこれほど世界を席巻している事実には、なんだか誇らしい気持ちにさせられる。
マリオといえばご存じのように、『スーパーマリオ』シリーズをはじめ数々の人気タイトルに登場する、口ヒゲとオーバーオールがトレードマークのキャラクターだ。
初めてお目見えしたのは1981年7月にローンチされたアーケードゲーム『ドンキーコング』で、その後、1983年にファミリーコンピュータがリリースされると、初代『マリオブラザーズ』はもちろん、『テニス』や『ピンボール』『テトリス』などの定番タイトルでも脇役としてたびたび登場した。
そして国民的な人気と知名度を不動のものにしたのは、やはり『スーパーマリオブラザーズ』(1985年)だろう。このタイトルが社会現象的なブームを巻き起こし、以降、次々に発売されたシリーズ作品は、世界で累計3億7000万本超を売り上げている。

マリオカートが走ったりジャンプしたりするシーン。まるでゲームの中にいるかのような迫力と爽快感が幅広い世代の心をつかんだ。

口ヒゲのおじさんをモチーフにしたキャラがこれほど愛され続けているのは妙な感じもするが、今回のメガヒットの理由は、いったいなんだろうか?
「ひとつには、制作を手がけたイルミネーションのブランド力が挙げられますが、やはりマリオそのものの人気を抜きには語れないでしょう。海外のコミックコンベンションなどに足を運ぶと、マリオのコスプレをしているファンが必ず目につきますし、世界に通用するキャラクターであるのは間違いありません」
そう語るのは、アメコミ事情に詳しい映画評論家の杉山すぴ豊氏だ。
「任天堂がうまかったのは、マリオのキャラ造形です。日本発のキャラでありながら、マリオはイタリア人風の風貌で、グローバルでも受け入れられやすかったといえます。リオデジャネイロ五輪の閉会式で、故・安倍晋三元首相がマリオの姿で登場したのも記憶に新しいですよね。単なるイケメンヒーローなら、これほど親しまれることはなかったはずです」
そこで思い出されるのが、1993年にハリウッドで制作された実写版映画、『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』だ。実に50億円もの予算を投じて制作されたこの作品、日本での興行収入はわずか3億円にとどまり、作品を見たファンからは酷評の声が相次いだ。
「昔の作品ではありますが、あの経験によっておそらく、マリオは実写でやってはいけないキャラであると任天堂側も気づいたのではないでしょうか。結果論ではありますが、『バイオハザード』のようなゲームなら実写に向いていても、マリオはやはりアニメが最適解なのでしょう」

■物語の深みなんてどうでもいい
ただし、今回の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』に関しても、賛否あるのは事実である。
「『Rotten Tomatoes』というアメリカの映画批評サイトでは、かなり辛辣な評価を受けていました。いわく、”ゲームの世界をそのまま見ているだけで、映画としての深みがない”と。でも、映画館でワイワイ楽しみたいファミリー層からすると、物語の深みなんてどうでもいいんです。
実際、今回の作品では大画面でマリオカートが走ったりジャンプしたりするシーンの迫力や爽快感が特徴的で、割り切って映像としての快感を表現している様子がうかがえます」
さらに言えば、暴力的なシーンや性描写がないことも、ファミリー向けの作品としてうってつけ。うるさ型の批評家の声とは対照的に、観客スコアが非常に高いのもそのためだと杉山氏は言う。

「ゲーム実況やeスポーツ中継がコンテンツとして成立している現代は、ゲームをゲームの世界観のまま映画で表現しても、十分に成り立つということでしょう。ファンがゲームとしてのマリオのどのような部分に愛情を注いでいるのかをしっかり咀嚼し、その上でイルミネーションがアニメとしてのクオリティを担保したことで、誰もが大満足する作品に仕上がったということですね」
サブスクサービスが浸透する中、自宅での配信視聴ではなく、あえて劇場へ出掛けたいと考える人が多いのも、これまでゲームの小さな画面で見ていた世界を「映画館の大画面で見てみたい」と思わせたからこそだろう。

当初、アメリカの映画批評サイトでは辛口な評価もされていた『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』だが、観客の満足度は高い。

■キャラへの愛情を貫いての割り切り
ここで、実際に作品を見た現地の人々の声をいくつか拾ってみよう。
「ストーリーもキャラクターもよくできていて、11歳と6歳の息子を含め、一家で楽しめました。私たち夫婦は幼少期に遊んだゲームボーイを思い出しながら鑑賞し、子供たちは今まさに遊んでいるニンテンドースイッチの世界をそのまま感じ取っていました。幅広い年代が楽しめる作品です」(米ワシントン州在住・40代)
「マリオのゲームで育ったので、楽しみにしていました。アニメのクオリティが素晴らしく、子供の頃から親しんでいたキャラたちが躍動し、彼らのストーリーを見せてくれるのだから最高ですよね」(米ワシントン州在住・20代男性)
「ストーリー性の乏しさを指摘する声もあるが、一家そろって見るには最適な作品。映画館にはマリオやルイージに扮ふんした人の姿も見られました」(米グアム在住・40代女性)
これらのコメントからもわかるように、マリオ人気は海外でも世代を超えている。だからこそ、ゲームとして人々に受け入れられた核の部分がなんなのかを、的確に解釈することが制作側には求められたといえる。
例えば『バイオハザード』も映画版は成功を収めたが、これはアクション性を重視した作り方をしたことで、もともとのゲームファンの支持を得られたことが大きいと前出の杉山氏は語る。
「仮に、スティーブン・スピルバーグやティム・バートンが独自の解釈でマリオを撮りますとやっても、ファンの期待には応えられなかったと思います。映画マニアが期待するのはむしろそっちでしょうけど、ゲームにはゲームの文化がありますからね。
その意味ではマリオの場合、先に実写版で失敗したことが今回の大成功につながっていると思います。ファンはマリオのあのかわいらしさをそのまま表現してほしかったわけで、イタリア系のおじさんを配役してほしいとはまったく思っていません。いわば、マリオというキャラへの愛情を貫いて、割り切ってゲームの世界観を表現したことが今回の勝因でしょう」

では、この作品。日本でもヒットが期待できるのか?
「期待できると思いますよ。WBCで活躍した大谷翔平選手もそうですが、日本発のものが世界を席巻するというのが、今の日本にとってはすごくいいニュースですから、同じ文脈で盛り上がるのではないでしょうか。
願わくはこのメガヒットを機に、ほかの人気ゲーム作品も次々に映画化されるようになれば楽しいですよね。あの『ポケモン』だってもともとはゲームなわけですから、ポテンシャルは大きいはずです」
海外の先進諸国と比較して、近頃は何かと落ち目に思われがちな日本だが、ゲームやアニメの市場で覇権を目指すことは、決して非現実的じゃないだろう。

●『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』4月28日(金)全国公開 
監督:アーロン・ホーヴァス、マイケル・ジェレニック 
製作:クリス・メレダンドリ(イルミネーション)、 宮本 茂(任天堂) 
声の出演:クリス・プラット、アニャ・テイラー=ジョイ、チャーリー・デイ、ジャック・ブラック、キーガン=マイケル・キー、セス・ローゲンほか。
日本語版吹き替え声優:(マリオ)宮野真守、(ピーチ姫)志田有彩、(ルイージ)畠中 祐、(クッパ)三宅健太、(キノピオ)関 智一