米国の旅行者心理に変化、移動型より滞在長期化の兆し、一方で感染自宅療養に民泊の貢献で新たな市場も【コラム】
(トラベルボイス 2021年8月26日)
https://www.travelvoice.jp/20210827-149464

【ホッシーのつぶやき】筆者の柴田氏は、シンガポールを拠点に旅行メディア「トラベルjp」を運用し、「Trip101」で実務をやっているだけに説得力がある。「Trip101」の4~6月の旅行予約金額は前年比1.9倍、2019年比で4.2倍だったようだが、今はデルタ株の感染拡大で不安が広がっているようだ。Withコロナ時代の旅行者心理は、「旅行意欲は無くならない」「移動が簡単でない・リモートワークから、滞在の長期化」「家族などと人ごみを避け、一棟貸しの民泊」が伸びているという。

【 内 容 】こんにちは。ベンチャーリパブリック「トラベルjp」運営の柴田啓です。
僕自身の渡航体験を通じ、世界でいま起きている状況をお届けしている本コラム。最終回は、パンデミック下でも伸びている民泊市場の要因とともに、日本、そしてアジアが世界の観光市場をリードするための処方箋を探ります。

パンデミック下でも伸びる民泊市場
前回コラムでお伝えしたように、ハワイは行動制限解除でアメリカ本土からの旅行者が増加する一方、市民によるコロナ感染が広がっています。自己検疫・隔離場所が数多く必要になってきているにもかかわらず、アメリカ人を中心とした旅行ブームによって、感染者を受け入れる宿泊施設の空きが不足してしまっているのです。
この課題を解決する救世主がバケーションレンタルなど民泊です。アメリカはもちろん、ヨーロッパでもウィズコロナ、ポストコロナ時代における旅行市場復活の大きなカギとなるのは間違いありません。Airbnb(エアビーアンドビー)がパンデミック下でも大きな新規公開株売り出し(IPO)を実現させ、直近でも他のOTAや旅行関連企業と比較しても秀でた四半期決算を発表したことも1つの大きな証明でしょう。

当社が運営する「Trip101」が2021年4~6月の旅行予約金額が前年比1.9倍、2019年比で4.2倍と大きく伸びた要因も、主力市場がアメリカというだけでなく、事業の主目的が世界各地のエアビーアンドビーやバケーションレンタルなどの民泊施設を紹介することにあるからです。僕自身、「Trip101」の経営を通じて、アメリカを中心とした民泊市場の力強さを肌で感じています。
もともと民泊を積極的に利用していたアメリカをはじめとする欧米の旅行者は、パンデミックを機にさらに利用するようになりました。背景のひとつには旅行滞在期間の長期化があり、「Trip101」の予約データでもその傾向が顕著。パンデミック前の2019年2月時とパンデミック下の2021年4月時で当サイトを通じて発生した民泊予約の平均宿泊数を比較したところ、この1年強の間に世界平均で2.76泊から3.76泊へと伸びていました。実際、寄せられる相談の多くが数週間以上の長期滞在です。
僕が現在、滞在しているハワイの宿泊施設もバケーションレンタル、いわば民泊施設。キッチンや洗濯機があり、生活に必要なものはすべてそろっています。駐車場がありレンタカーが利用しやすく、ビーチチェアやシュノーケリング道具などもあり自由に使える。まさに民泊は長期滞在にうってつけなのです。

withコロナ時代の旅行者心理とは? 
こうした実体験から見えてきたのがwithコロナ時代の旅行者の心理。
• 人々の旅行意欲は無くならない→旅に出る
• でも移動が簡単でない→一度旅に出たら長めに滞在する
• リモートワークが普及→滞在の長期化が後押しされる
• 旅行先で密を避けたい→ホテルなどでの人混みを避け、外食の機会を減らし、民泊施設に泊まりキッチンを使って料理する。レンタカーを使って移動する
• 感染リスクを減らすために家族などの限られた人とのみ行動をともにしたい→ 一軒家などの施設に滞在する
すなわち、滞在が長期化し、民泊施設に需要が集まっていく構図です。ワーケーションの観点からみても、こうした民泊施設を使った長期滞在の魅力は捨てがたいもの。僕の場合は、朝一番でシュノーケリングやサーフィン、冬はスノーボードやスキーをしてから仕事を始めたり、ランチ時間に海岸沿いをランニングしたり、仕事が終わった後に海辺でバーベキューを楽しんだりしています。こうした体験をしている時間に仕事に対する新たな発想が湧き上がってくることも少なくありません。
民泊を活用した滞在の長期化やワーケーションといった消費動向はポストコロナ時代においても引き続き大きく成長するでしょう。日本、アジアでもこれからこの傾向が強まってくると考えられます。

デルタ型ウイルスによるゲームチェンジ
しかしながら、アメリカでも、直近の「デルタ株」による急速な感染拡大が好調な旅行市場に影を落とし始めています。サウスウェスト航空では、新規予約数の減少や既存予約のキャンセルが発生し始めているとの報道も耳にしました。
アメリカはウイルスの中心がデルタ株に変わったことにより、次のチャレンジに直面しています。デルタ株の発生により、ワクチンによる感染抑え込みが従来型のコロナウイルスと比べハードルが一気に上がったからです。デルタ株の場合、80〜90%の完全接種率が感染抑え込みに必要とされますが、アメリカの完全接種率は50%強にとどまっています。
また、世界主要国のワクチン接種率をあらためて調べたところ、かなり構図が変わっていました。ワクチン接種の先進国とみられてきたイスラエル、アメリカ、イギリスの完全接種率(8月17日時点)はイスラエル60%、アメリカ51%、イギリス61%。いずれも80%には大きく及ばず、接種の伸び悩みに直面しています。一方で、ドイツ(57%)やカナダ(64%)といった国が急速に追いついき、追い越し始めています。
アメリカやイギリスのワクチン接種が世界に先駆けて進んだ大きな理由は、パンデミック初期に多数の死者を出した、きわめて厳しい感染拡大が発生したことにあったと思います。強い危機意識が早期のワクチン確保を後押ししました。これらの国は、デルタ株が広がる前に一定のワクチン接種が進んだことで感染が一段落。他国に比べてひと足早く経済を回し始めましたが、その結果として今、人々がほぼ通常通りの生活ができることになり、コロナに対する危機感が薄れ、結果として、ここにきてワクチン接種が進まなくなる状態に陥ったと考えられます。

日本が世界の観光市場をリードする日
一方で、日本を含むアジアは、ワクチン接種が遅れたことによって、今、デルタ株による大きな感染拡大に直面し、アメリカやイギリスに比べ、相対的に社会全体でより強い危機意識が芽生えつつあります。この強い危機意識が、結果的にワクチン接種が大きく進む要因になり得ると思います。

Whatsappチャットで届くコロナウイルス情報
僕のもとへ、シンガポール政府から毎日Whatsappチャットで届くコロナウイルス関連最新情報。シンガポールのワクチン完全接種率は8月17日時点で76%へ到達しました。1日あたり約1%の接種率上昇が見込まれており、8月中には80%を超える可能性が高い。ファイザー、モデルナといった西欧ワクチンのみを使用する国々の中で、最も完全接種率が高い国となり、デルタ株に対して世界で最も高い免疫力を持つ国になる可能性が出てきました。ちなみに、シンガポールではワクチン接種に対する政府の強制力はありません。
ひるがえって、日本の現在の完全接種率は約42%。ファイザー、モデルナといった西欧ワクチンのみを使用するアジア圏内の主要国の中では、シンガポールに次ぐ高い接種率です。日本国内における直近の厳しいデルタ株の感染拡大を考えると、国民のワクチン接種に対する意欲はアメリカやイギリスなどに比べても高い。目先のワクチン供給をしっかり担保できれば、ここ2、3カ月の間でアメリカやイギリスの接種率を超える可能性も十分あります。そうすれば旅行も含めた経済の再開が視野に入ってくるはずです。

もっとも、日本でも接種率はどこかで必ず伸び悩むと思いますが、一部識者が提唱しているように「GoToトラベルを中心に官製・民製キャンペーンをワクチン接種者に限った形で広範囲で運用していく」ことにより、機動的かつ大胆なインセンティブを国民に供与できれば80~90%の完全接種率へ到達することは十分可能ではないでしょうか。
今後、ワクチン接種がさらに進むにつれ、国、民間、個人といったあらゆるレベルにて、社会や国境を開く勇気や強い意志が求められ、それが試されていくことになります。パンデミックワールドの後半戦、この試練が乗り越えられれば、日本およびアジアが、アメリカやイギリスにとって代り、世界の観光・旅行市場をリードできる立場になることも夢ではないでしょう。