今後のインバウンド復活シナリオは?~どこの国から戻ってくるのか?公開情報をベースにまとめてみた~
(株式会社D2C Xの中西恭大さんのnote 2022年9月25日)
https://note.com/ynakanishi/n/n3df1b7f03269

【ホッシーのつぶやき】
アトキンソンさんはインバウンド解禁後、2023年667万人、2024年1983万人、2025年2900万人になると予測されている。中国はゼロコロナ政策を継続するとみられ、アジアの回復が遅れるとの見立てです。またワクチン3回接種証明の提示も中国製ワクチンは対象になっておらず、多くの国では2回接種が多いこともあり、韓国がインバウンド復活の筆頭になりそうです。
一気に3000万人を超えるインバウンドが復活するより、緩やかな増加の方が受け入れ態勢を整えるのには良さそうです。(このレポートは分かり易く分析されており秀逸です)

【 内 容 】
1.今後の訪日外国人数の予測
これについては様々な要因が複雑に絡んでくるので明確な数を予測することは非常に困難です。そんな中、菅政権時代のブレーンであり、新・観光立国論などを執筆されているデービッド・アトキンソン氏が今後3年間の予測をしていました。

インバウンドを解禁すると、
2023年は667万人、2024年は1983万人、2025年2900万人
来年2023年は667万人と2019年の3188万人に対して約20%と予測しています。この予測に関する計算過程は公開されていませんが、中国を中心としてアジアの回復が遅れていることを考慮して予測を立てていると考えられます。

2023年は667万人、2024年は1983万人、2025年2900万人とすると、2024年の成長率は前年比297%で1316万人増、2025年の成長率は前年比146%で917万人増という急回復を予想しており、約3年をかけて2019年水準まで訪日客数が戻ると予測しています。

2.円安効果でもっと多くの訪日客が訪れるのではないか?
もっと急速に回復するのではないか?と思った方がいるかと思いますが、結論から申し上げると、円安によって訪日客が増えるという事実はありません。そのため、水際対策の緩和と円安が相まって急速に戻ってくるというのは幻想です。

一方消費に関しては買い物代に影響があると考えられており、Japan Localized代表 宮本 大 氏の記事が分かりやすいので、こちらを参照ください。

インバウンドと円安の「本当の関係」過去のデータが示すこと
https://honichi.com/news/2022/07/19/japanlocalizedcolumn8/

また、外貨(自国の通貨)で旅行予算全体の確保を考えている人にとっては、円安によって予算を増減させるというよりも、事前に設定した予算内で消費していくと考えるのが普通です。

2000ドルを旅行予算として確保している米国人の観光消費額は、
1ドル=100円時は20万円、1ドル=150円時は30万円
となり、円安により円換算で消費額が増えていくことになります。
そのため、円安の局面で観光事業者の皆さんは、国内顧客とのバランスを考慮しながらも価格を上げることで従来以上の利益を確保することができます。米国人からすると現在の円安状況は、常時30%OFF以上のバーゲンセール状態になっているので、10/11以降はプライシングが重要な局面に入ってくることでしょう。

3.インバウンド市場回復の足かせ
9/25(日)時点で水際対策緩和の詳細は発表されていないため推測ベースとなりますが、ワクチン3回接種証明の提示で自由に入国できるという要件が残ると言われています。つまり、ワクチン3回接種未満の方は72時間以内のPCR検査陰性証明が毎回必要ということです。

このワクチンですが、日本政府は種類を限定していることをご存知でしょうか?どんなワクチンでも接種していれば良いということではなく、政府が指定した下記6種類のワクチンを接種していることを”ワクチン接種”としています。

◆対象ワクチン
・コミナティ(Comirnaty)筋注/ファイザー(Pfizer)
・スパイクバックス(Spikevax)筋注/モデルナ(Moderna)
・バキスゼブリア(Vaxzevria)筋注/アストラゼネカ(AstraZeneca)
・ジェコビデン(JCOVDEN)筋注/ヤンセン(Janssen)
・COVAXIN/バーラト・バイオテック(Bharat Biotech)
・ヌバキソビッド(Nuvaxovid)筋注/ノババックス(Novavax)
https://www.mhlw.go.jp/content/measure_jp.pdf

つまり、上記6種類以外のワクチン接種者は、毎回PCR検査の陰性証明が必要になるという理解です。ここで勘の良い方はお気づきになったかと思うのですが、中国で主流となっている”シノファーム””シノバック”製のワクチンが対象に入っておりません。

現在中国は日本より厳格な水際対策を実施しており、そもそも出入国のハードルが高い環境にありますが、日本政府が現在認定しているワクチンをより拡充する、あるいはワクチン接種証明の提出自体を廃止しない限りは、中国人観光客の訪日ハードルが高い状況が今後も続くことになります。

また、72時間以内のPCR検査陰性証明書の提出も今後大きな足かせになると考えています。当社の外国人社員が母国へ帰国したあと日本へ再入国する際に、日本政府が指定するフォーマットの陰性証明を発行できる病院へ行くためだけに片道2時間車を走らせて病院に行ったそうです。つまり、PCR検査の陰性証明を求める機会は世界的に減少しており、さらに日本政府指定のフォーマットとなると発行できる医療機関はかなり限られているのではないか?ということになります。

今後、世界はウィズコロナからポストコロナへ移行していき、PCR検査自体が求められなくなっていくことでしょう。そのような環境下で、厳格にPCR検査の陰性証明を求め続ける水際対策を継続した場合、日本政府指定のフォーマットで陰性証明を発行できる病院へ訪日前に行く、つまり自国で訪日前に日本大使館にビザ申請・受取をすることと同じくらい面倒なことを訪日客に強いることになる可能性をはらんでいるのです。

個人的には、そもそも日本政府が指定するPCR検査の陰性証明を発行する病院自体が各国で無くなるのではないか?と思っており、この水際対策が残ってしまう場合は、早期の見直し検討が必要と考えています。

4.世界のワクチン3回接種状況
ワクチン3回接種の状況を人口比で正確にとらえたデータは見つけることはできなかったが、2回接種の状況をOur World in Dataより、JNTOが定める訪日重点市場+日本で抽出したグラフが下記です。

上記データを見る限り、訪日重点市場の大半は2回目接種率は最低でも60%以上という状況である。(ロシア除く) 一方、3回目接種状況はどの程度か?というのを推測するために日本のデータを確認します。9/21時点でブースター接種した方は約8200万人、人口比で65.23%という状況となります。

3回目のブースター接種をかなり推奨した日本でさえ、現在の普及状況は国民に対して65%程度。これは世界でも屈指の普及率と考えられ、Our World in DataのCOVID-19 vaccine boosters administered per 100 peopleのデータも見る限り、日本はブースター接種が非常に高い国である。
(ちょっと私の理解力ではこのOur Worldのデータの持つ意味がイマイチ理解できていないため、もし詳しい方がいたら是非教えて頂きたいです。)

ひとまず、アジアを中心とした訪日重点市場に絞って抽出したグラフが下記です。日本、台湾、韓国、シンガポール、香港、ベトナム、ドイツ、フランス、イギリス、中国、オーストラリア、マレーシア、タイ、アメリカ、インドネシア、フィリピンの順で並んでいます。

上記データを見る限り、日本が突出して普及しており、第2群として台湾・韓国・シンガポール・香港・ベトナム・ドイツのブースター接種率が非常に高いのではないかと考えられます。この接種率の高さは、10/11以降の水際対策緩和時に接種証明のみで入国できることをあらわすため、非常に注目すべき数値となります。

キーポイント:ワクチン3回接種が進んでいる国は訪日ハードルが低い

5.訪日重点市場別の普及ワクチン種別
今度は、Our World in Dataより訪日重点市場別の普及ワクチン種別を抽出。全ての国のデータが揃っていたわけではないため、一部の国を対象としており、今回はアメリカ・韓国・香港・フランス・EUを抽出しています。

アメリカ・韓国・フランス・EUは、ファイザー・モデルナが接種の中心となりほとんど日本と変わらない状況ですが、注目すべきは香港です。香港は、普及しているワクチンの約40%が中国製のシノバックであり、日本政府が認定しているワクチンの対象外となっています。

香港のような状況は、アジアを中心として中国との結びつきが強い国も普及率が高いことが想定され、現在想定されているワクチン3回接種証明の要件に影響を受ける可能性があります。

キーポイント:中国製ワクチンが普及している国の訪日ハードルは高い

6.どこの国が訪日する可能性あるか?
これにも様々な要因が絡むため、非常に予測が難しいです。しかし、今までの前提情報を踏まえつつ、数少ない情報をもとに予測してみたいと思います。まずは、観光庁が毎週金曜に公開している入国者健康確認システム(ERFS)における登録状況における今後の外国人観光客新規入国希望者数です。現在の対策では、団体旅行のみしか認められておらずビザ取得も必須で事前に入国の申請が行われるため補足できている情報です。
(※ERFSへの申請数のため、随時変化している。また、実際に入国がなされるかは不明。)

今後の外国人観光客新規入国希望者数の推移 (毎週の上位5ヶ国)
現在の環境下で、パッケージツアーのみ、ビザ取得も必須というハードルが高い状況でも日本への入国を希望する方が多い国は下記の5ヶ国となります。
・韓国
・米国
・タイ
・オーストラリア
・マレーシア
https://www.mlit.go.jp/kankocho/page03_000090.html

全体の数字としてはかなり小さいですが、特に韓国はコロナ前の日韓関係の悪化が嘘のように急速に増加しており、FITが解禁された暁には最も入国してくるのではないかと考えています。

また、日本の冬を狙った層と考えられるものとして、タイ・オーストラリア・マレーシアからの登録申請が入ってきているのも特徴的で、10月以降の緩和でこれらのマーケットからの訪日も非常に期待できます。

さらに追加の情報として、日本のように厳格な水際対策を実施していた台湾・香港もこのタイミングで徐々に緩和していくことが発表されています。台湾・香港では、帰国時に隔離措置が残っていましたが、これらが緩和されることから、今後海外旅行の動きはかなり活発になることは間違いないでしょう。

台湾、水際対策をさらに緩和へ 9月29日以降の措置まとめ – フォーカス台湾
政府は22日、新型コロナウイルスの水際対策のさらなる緩和を発表しました。9月29日から2段階に分けて緩和を進める方針です。
japan.focustaiwan.tw

香港ようやく隔離を廃止 中国ゼロコロナで「国際ハブの機能失った」:朝日新聞デジタル
 香港政府トップの李家超(ジョン・リー)行政長官は23日に会見を開き、空路で香港に到着したあとの強制隔離措置を26日から廃止
www.asahi.com

余談ではあるが、9/22(木)深夜に日本の水際対策の緩和が公式に発表されてから、当社が運営する訪日観光メディア「tsunagu Japan」の繁体字ページ≒台湾・香港からのアクセスが急激に伸びていまして、その中でも下記の記事が連日最も見られています。台湾・香港の方は、もう訪日する気満々ですね! 成田空港と羽田空港について調べているみたいです。

最後に水際対策緩和前の情報をベースとして執筆されていますが、Japan Localized代表 宮本 大 氏の記事はタイ・ベトナムの状況を基にして分析されており、こちらも非常に参考になります。

筆者は韓国、シンガポール、タイ、マレーシアのアジア諸国と、アメリカ、オーストラリア、英国、ドイツ、フランスからある程度の訪日客が見込めると考えます。
しかし、2019年ベースで訪日客数の約68%を占める、中国(香港含む)と台湾からの訪日客数が当該国のゼロコロナ政策と厳しい水際対策によって訪日旅行への大きな足かせとなり、加えてロシアウクライナ情勢による物価高や景気懸念で、世界的にロングホール旅行需要が押し下がる可能性もあります。
これらを踏まえて、日本が水際対策を撤廃した場合のインバウンド回復の仕方を予想するのであれば、日本のインバウンドは①中国(香港含む)と台湾を除く近隣諸国から、②2019年の25%程度になる事が考えられると思います。
https://honichi.com/news/2022/08/23/japanlocalizedcolumn9/

日本のインバウンド需要はいつ・どの国から戻る?タイ、ベトナムの観光回復フェーズからわかること
外国人向け街歩きツアーの企画運営や株式マーケット、データから旅行市場を読み解く、インバウンドアナリストの宮本です。
honichi.com
キーポイント:韓国・米国・タイ・オーストラリア・マレーシア・香港・台湾の訪日意向は非常に高そう

7.ところで中国人観光客はいつ戻ってくるのか?
訪日中国人観光客の動きを左右する大きなファクターは2つです。一つ目は中国自体の水際対策、2つ目は日本政府が認定するワクチンのみでの水際対策です。

まず、おさらいとして2019年の訪日外国人観光客数3188万人のうち、東アジアで約7割の2235万人を占め、その内中国は全体の約3割である959万人でした。

アトキンソン氏の今後の予測では、恐らくこの中国人観光客の戻りは2023年にほとんど含まれていないと考えられます。現在の厳格な水際対策を来年以降もしばらく続けていくという予測です。

ここからは私の個人的な考えになりますが、1つ目のファクターである中国自体の水際対策緩和については、10月16日から開催される第20回全国代表大会は大きな分岐点になると考えています。

中国共産党第20回全国代表大会、10月16日に開催決定(中国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
www.jetro.go.jp

国家主席は、この代表大会で再度5年の続投を決めると言われており、この続投が決まれば、政権体制が5年盤石になることから、厳格な水際対策を緩和の方向へ持っていき、経済政策にも舵を切っていくのではないか?と考えています。

その場合、2023年冬の旧正月タイミングでも水際対策の緩和可能性はあると考えており、ここまでに2つ目のファクターである日本政府が認定するワクチンにおける水際対策の緩和を政府が判断できるかが2023年の訪日客数に大きな影響を与えてくると思っています。

上記の2つが早期に緩和された場合、2023年に中国人訪日観光客が戻ってくる可能性があり、今後注視すべき事項になります。

キーポイント:第20回全国代表大会の動向は要注目

8.まとめ
非常にだらだらと事実を羅列するようにまとめてしまいましたが、シンプルにまとめると以下のように考えています。やや主観で◎・〇・△・×の4つに分類しています。※国別のワクチン種類は調べると分かりそうですが、今回諦めました。。もし分かれば誰か教えてください!

なお、今回は世界経済の状況や飛行機の就航状況、航空券・燃油サーチャージの高騰による旅行控えなどの要因は一旦排除しているのでご承知おきください!

10月11日以降の水際対策緩和で最も入国者が多くなる可能性が高いのは、韓国と考えています。団体旅行の申し込み状況や距離の近さを考えても、他国を圧倒する数で訪日する可能性が高いと思われます。

次点は、ワクチン種類を考慮すると欧米豪といわれるアメリカ・オーストラリア・ヨーロッパ主要国と考えられます。

その次は、ワクチン種別次第ですが、今冬の需要を加味すると東南アジアの4か国、タイ・シンガポール・ベトナム・マレーシアは、団体旅行の申し込み状況や元々の訪日客数などから、ワクチン種別の影響があまりなければ、ある程度の訪日客が見込まれると考えています。

そして中華圏については、香港→台湾→中国の順で訪日の可能性があると思われます。香港は、ワクチン種別の約4割がシノバックですがそれ以外の方は問題無く入国でき水際対策もほぼ緩和されたので、中華圏では筆頭の存在です。

台湾については、水際対策の状況がまだ不確定のところが多く判断が難しいですが、入国者数制限などが撤廃されるようになれば、一気に訪日する可能性があります。

最後に中国については完全に未知数です。この国が来年のインバウンド市場を左右する存在であり、第20回全国代表大会の結果と日本のワクチン政策の2つの要因が絡みあって大きく変動する可能性を秘めています。

◆直近半年程度で訪日客が見込まれる候補国
第一候補 :韓国
第二候補 :アメリカ・オーストラリア・ヨーロッパ主要国
第三候補 :タイ・シンガポール・ベトナム・マレーシア
第四候補 :香港・台湾
完全未知数:中国