カテゴリーセッション:クラウドファンディング「観光 × 越境クラウドファンディングの可能性」
(インバウンドサミット2021 2021年6月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=jXw3ry2ycrY&t=3s

<登壇者>
・齋藤 慎之介 – 株式会社MATCHA CMO
https://matcha-jp.com/jp
・照井 翔登 – 株式会社CAMPFIRE 地域事業開発担当
https://camp-fire.jp
・臼井 拓也 – 株式会社オープンロジ マーケティング担当
https://service.openlogi.com
・秋吉 文暢 – 天台宗 文殊仙寺 住職
https://www.monjyusenji.com

【ホッシーのつぶやき】
「クラウドファンディング」を海外で展開するとはどういうことなのだろう… 不思議に思いながらセッションをお聞きしましたが、利用するのに、日本人、外国人の差はないと教えられました。
「熊野古道プロジェクト」では、「熊野古道保全」を前面に出されたことが、外国人の支援にもつながったのだと思います。一番高額な商品は30万円で「熊野古道1泊2日スペシャルミステリーツアー」とあり、返礼品の魅力と地域貢献の二点が成功のポイントのようです。
「クラウドファンディング」は、単なる資金調達だけではなく、海外へのPRやテストマーケット、仲間集めや、認知度向上など、多角的な視点を持つことが必要だと理解させられたセッションでした。

斎藤:セッションを始める前に、クラウドファンディング(以下CFという)の2020年の国内市場は、コロナの影響もあり1840億円まで伸び、アメリカの「キックスターター」も右肩上がりに伸び続け、越境ECの市場規模は、日本、中国、アメリカ、台湾ともに伸び続けています。

セッションをお聞きの方は「CFをやってみたい」「興味を持っている」という方が多いと思いますので、セッション後は「実施しよう」に変っていただける事を願って進めてまいります。最初に、キャンプファイアーの照井さんからお話をお願いします。

照井:キャンプファイアーは、会員数160万人、累計支援者数520万人、累計プロジェクト数52000件、累計支援金額450億円超、最高支援総額3億円超と、国内最大規模のCFです。弊社のポイントは、誰でも簡単に始められ、ジャンル、規模を問わず、目標金額1万円からとハードルが低いことです。

「支援が集まる仕組みではなく、支援を集めることができる仕組み」を考える事が大切です。
CFの目的は、「資金を集める」だけでなく、「仲間を集める」「認知を高める」にもあります。また、目標金額、リターン品、メディアに取り上げられやすいなどのポイントも押さえると良いと思います。
2020年はコロナ禍の中で、前年比265%成長と急拡大しました。また、コロナで影響を受けた方向けに、手数料をゼロにするプログラムをキャンプファイアーとして実施しました。累計5000件以上のプロジェクトに、支援者数92万人以上、累計支援総額100億円超というお金の流れを作ることができました。
地域や観光領域のCFの取り組みとしては、自治体との連携があります。広島県と連携し、「広島の観光産業事業者を支援するプロジェクト」で、累計200以上の観光産業事業者に1億円以上の支援金を集めた事例、また「京都の食を応援するプロジェクト」を京都市信用金庫と連携し、200以上の飲食店に、3500万円以上の支援金が生まれた事例があります。

CFは、「支援が勝手に集まる」と思っている方もおられるのですが、そのような魔法があるわけはなく、「支援を集めることができる」仕組みが重要で、挑戦する方が「自分たちで動く」ことが大前提です。また、資金調達だけではなくて、商品開発やテストマーケティング、集客、販路拡大などにも活用できるので、多角的に考えると、より良い結果を招きます。
ポイントは、「どんな事業をやりたいのか」「どんな地域にしていくのか」「どんな課題を解決したいのか」を最初に考え、その後に「実施することで地域がどうなるのか」「どんな影響を与えるのか」を考えて、「事業を支援することで、地域の人たちにどんな関わりができるかを、リターンで分かりやすく明示する」ことが大切です。
“まちづくり”そのものに参加するのはハードルが高いですが、CFですと、例えば3000円払って、お店に行ってみるとか、イベントに参加するとか、名前が載るといったような参加ができるのが良い点だと思います。
参加者の巻き込み方は、募集中ひたすらPRされる方が多いのですが、準備期間で7〜8割まで決まります。例えば、準備期間のうちに「こんなリターンだったら欲しいですか」とか、「どんなリターンだったら支援したいですか」とか、「アイデアを募集」したり、SNSで発信したり、仲間を集めて、事前にプロジェクトを盛り上げる工夫があると良いと思います。
募集後も大事です。リターンを送って終わりと考える人も多いのですが、支援者をアフターフォローすることでコミュニティをつなげていき、「一緒に街を変えていきましょう」「地域に関わっていきましょう」とすれば、より持続的になります。
最後に、CFに限らず寄付業界でよく言われるのは、寄付しなかった人の一番の理由は「お願いされなかった」です。だから「CFやっています」だけでは足りなくて、「あなたに支援してもらえると、こんな価値を提供できます」と言うような話をすることが大切です。

齋藤:要所要所に「コミュニティをどう作っていくのか」とか、「アフターフォローが大事だ」とかという話がありましたので、後ほど話を伺えればと思います。
私は、博報堂でデジタルマーケティングを経験し、今は(株)MATCHAのCMOとしてメディア統括を行いながら、越境クラウドファンディング「Japan Tomorrow」を立ち上げて、担当しています。
弊社は、訪日・在日外国人向けwebメディアを運営する日本最大級の会社になり、10言語で情報発信しています。コロナで7割減まで落ち込みましたが、この厳しいコロナ禍のなかで「我々ができることは何か」と考え、作ったのが「Japan Tomorrow」というプラットフォームです。
「Japan Tomorrow」は、4ヶ国対応(日本語、英語、中国語繁体字、タイ語)、MATCHAのメディアからの送客、1万記事以上のコンテンツを保有しているので、外国人向けのプロジェクトをサポートさせていただける点です。アクセス状況は日本が半数近い46.5%、そして台湾25.7%、アメリカ9.9%、シンガポール4.9%、香港3.5%と続いています。

今日のシンポジウムでも、日本とか、海外とかいう境目を無くすことが大事だという話がありましたが、実際、越境CFをやっていると、日本人、外国人はあまり関係ないと分かってきました。そういう意味で、日本と海外、どちらにもアプローチできるプラットフォームとして使っていただくのが良いかと思っています。
今、越境CFで挑戦すべき理由は、「モノとカネの移動はコロナ禍でもできる」「人の旅はもうすぐ始まる」「日本に行きたいと思う関係性を事前に作る」です。「テストマーケティング」や「PR」という視点で使っていただけると考えています。
越境CFを成功させるには、「CFの目的」「支援してくれる人は誰か」「提供できる価値(メッセージ)は何か」です。これが曖昧なままCFを始める方が結構おられますが、ここが明確になっていないとうまくいかないと思います。支援額は、「認知度」×「好き度」×「特別感」で決まり、支援額を多く集める法則にもなります。
弊社の成功事例に「世界遺産熊野古道プロジェクト」があります。
熊野古道は元々人気スポットでもあり、巡礼や、自然文化遺産に関心の高い層がおられるので、そこに対し明確なメッセージを発信したのがポイントでした。また、プレミアム感と地域貢献感の双方を得られるリワード(価値)も魅力的でした。一番の高額商品は30万円の「熊野古道1泊2日スペシャルミステリーツアー」でしたが、3名の方が購入されました。また全プランに「熊野古道保全寄付プラン」と名付けたことにより、地域貢献したという特別感も得られました。
私も1万円で購入し、「熊野古道メンバーズカード」を返礼品として受け取ったのですが、リターンに感動しました。カードは記名入りで、このカードを持って熊野古道に行くと記念品がもらえるというのです。このカードが届いたら絶対に熊野古道に行くと確信しました。これが支援した後を作る関係性だと思います。
認知を上げるため、海外エージェント約100社にメールし、大使館に電話して、徹底的に広報にも力を入れました。その結果Yahooニュースに載り、 Facebookグループを盛り上げものにもつながりました。

海外にモノを送るプロジェクトでは、マーケティングフレームワークで代表的な「BEAF」の法則と言われるものがあり、ポイントを抑えたプロジェクトページを作れるかが重要です。
大分県での事例ですが、山城屋という旅館の大女将が作った味噌を海外販売し、目標の200%超の購入がありました。しかも約8割が海外のお客さんでした。山城屋さんも、新聞社、テレビ局、海外メディアなど積極的に広報されたのも成功につながりました。そういう意味でも、自ら声を上げ、認知を高めるということが非常に大切です。
次に、越境CFにチャレンジをされた文殊仙寺の秋吉住職にお話をお伺いします。

秋吉:私は、天台宗の文殊仙寺の住職を拝命しております秋吉と申します。
今43歳ですが、平成20年に帰省した際、国東地方を改めて良い所だなと感じるとともに、何とかしなければとの危機感も覚えました。それから住職としてお寺の活性化に務め、平成26年に寺社仏閣や文化財を中心に観光活用する広域観光連携団体「宇佐国東担当巡る会」を立ち上げ、事務局長をしております。
国東半島は、大分空港から車で20〜30分の位置にあり、全国八幡社の総本山の宇佐神宮がある “神仏習合文化発祥の地”と言われる地域です。国東には、五穀豊穣や無病息災を祈る「修正鬼会(しゅじょうおにえ)」という、鬼祭り、火祭りとが一体になった祭りが1000年以上続いてあります。国指定の重要無形民俗文化財や日本遺産に指定され、観光客も多く、外国人も約3割も集まるお祭りです。
越境CFに取り組んだキッカケは、「修正鬼会」が無観客開催となり、MATCHAの斎藤さんから「無観客ゆえのオンラインツアー」であればとアドバイスをもらったことです。最初は、CFとライブ配信の事業に分けて取り組みました。ライブ配信は大分県の観光補助金を使うことが決まり、自己負担が出ますので、その分をライブツアーで補う形で合体しました。
目標額を200万円に設定しましたが、約2週間で200万円が集まりビックリしました。MATCHAの広報支援がSNSでブームを呼び、投稿直後に申し込みが増えるのも実感しました。アメリカ、イギリス、オーストラリアなどからサイト訪問もあり、最高50万円の商品も販売できました。
CFをやって一番良かったのは、支援者とのつながりに尽きます。またCFの大変さは、返礼品の発送などアナログ的な所だと思います。

齋藤:私も配信ライブを見ていたのですが、ライブ中、鬼に対する質問がすごく多く、逐一説明を返される運営が素晴らしかったと思っていて、オンラインライブでしか実現できない部分だと感じました。
次は、オープンロジの臼井さんからお話をいただきたいと思います。

臼井:私は、オープロジでマーケティングを担当している臼井と申します。私からは「物流」の話をさせていただきます。
物流は「入荷」「保管」「出荷」から成り立っています。「入荷」は、外注で生産されたモノを「荷受」「検品」して、「保管場所」に入れて、商品の「データ入力」をします。「保管」では、「在庫の品質管理」「保管場所の管理」「棚卸し」や「温度管理」など、「出荷」では、「注文を確認」し、「商品を検品」し、「適切な資材を選び」、「梱包」(ダンボールの組み立て、緩衝材入れ、納品書入れ)して、「送り状を発行」して、「集荷を依頼」して、「引き渡し」となります。
「出荷」で、例えば100件を1件当たり5分の作業時間として、約500分(8時間20分)かかります。さらに海外発送する場合は、日本郵便のEMSを使用しアジアに配送した場合14万円かかり、インボイス(税関の申告、検査書類)、税関告知書、原産地証明、輸入許可書などを作成します。これが国によってバラバラなのでここが一番難しいです。
事業者はやることが多いので、「物流」を自社でやるのか、外注するのか考えて頂けたらと思います。

オープンロジを使えば、入荷、保管、出荷が滞りなくできます。そして長期契約が不要で、1回でも利用でき、固定費もかからず、従量課金制になっている所が特徴です。
トラブルについてお話します。商品の「保管」では、日光で商品が劣化しないか、商品に匂いがつかないか、温度、湿度もしっかり管理することです。次に、「商品の重さ」によりダンボールのガムテープの貼り方も、軽い商品は縦貼り、重い商品はH貼り、十字貼りで補強します。商品の詰め方も、重いものは小さい箱に梱包し、隙間を作らないようにすると壊れません。
配送後、配送完了通知をユーザーさんに送ります。発送状況が狂うこともありますし、支援者の住所の記入ミスや数量が間違っていることもあります。返品があると、費用も倍増しますので細心の注意を払いましょう。

齋藤:照井さん、最初に200以上の事業者と連携されたという話があり、相当大変だと思いますがどのように進められるのでしょうか?

照井:お話した事例は200の事業者を個別に調整したものですが、例えば、商店街が一斉にCFを立ち上げる事例もあります。地域の中心人物がリーダーシップを取ってまとめていくケースが多いと思います。

齋藤:実施後、支援してくれた方と地域の関わりについて、キャンプファイアーさんではコミュニティサロンを運営されていますが、ど

照井:次の動きがあった時に連絡したり、オンラインサロンで共有していただいたり、今後のサービスにつなげる仕掛けづくりをされることが多いです。

齋藤:先日、キャンプファイヤーのコミュニティを見て、結構アクティブだなあと感じました。プロジェクトを支援したくなる「好き度」を作り続ける仕組みだとも感じました。そういう意味では、プロジェクトが終わった後の関わり方までサポートされているのですね。

照井:熊野古道は凄く良かったと思います。返礼品として「メンバーズカード」などを受け取ると、必ず行きたくなります。支援して良かったと思ってもらえる事例が増えると良いと思います。
アフターフォローまでサポートはしないですが、リターン設計時に、後々こんな関わりが生まれると良いですねというアドバイはします。

齋藤:秋吉さん、国東半島の事例では、最高50万円を購入された方がいらっしゃいましたが、その支援者の方と返礼品のやりとりはされたのでしょうか?

秋吉:事業が終わってからメールでやり取りをして、ツアーを実施する時期をお聞きしていまですが、今はコロナ禍なので、先方からの希望待ちです。

齋藤:CFは、高単価商品をテスト的に売るチャネルとして絶対有効なので、検討されている方がいらっしゃれば、是非チャレンジしてください。
残り時間が5分になりましたので、最後に、インバウンドという文脈から見て、越境CFや越境ECが日本の観光に及ぼす可能性について、お話しいただければと思います。

照井:CFには、色があるわけでもなく仕組みでしかありません。それをどのように色づけするかというのは、地域の人たちが、事業内容や、リターンをどう設計するか、それ次第だと思っています。
CFは目標額が集まったら実行するという形も勿論ありますが、大きい投資をする必要はないので、リスク無く、ミニマムなサイズから挑戦していただければと思います。

秋吉:私が一番実感したのは「CFを使えばお金が集まる」というものではないということです。
また、自分自身がどうしたいか、どういうふうに使いたいかを考え、後は意気込み一つじゃないかと思います。今後、デジタル化が進みますが、アナログ的なデジタルというところが大事だと思っています。
CFが終わった時、次の事業構想が浮かびました。文化庁や観光庁の事業に応募して採択待ちですが、高額商品をノーマルにしていこうという気持ちも強くなりました。

臼井:オープンロジは配送周りなので、皆様の応援という形で下支えさせていただければと思います。
今、EC事業様から問い合わせが多く、最初は国内と言われるのですが、海外はどうされますかと聞くと、行く行くやろうと思っていると言う方が8〜9割です。であれば、なるべく早めに挑戦さてはと思います。

齋藤:CFに取り組むといろいろな発見があります。CFは単なる資金調達ではなくて、海外と日本との関係性づくりをして、「日本に行きたい」「日本の商品は良い」と思ってもらうためのツールとして捉えると、これからの観光というところでも力を発揮していけると思っています。ありがとうございました。