Tourism1.5 ~ツーリズムフォワード~(vol.2) 「離島×地方創生」
(JTB 2022年9月21日)
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【ホッシーのつぶやき】
「瀬戸内国際芸術祭2022」の春会期(35日間)の来場者は前回の6割の23万人。コロナ感染者は1人だという。コロナ禍で、一部島民から懸念の声が上がったというが素晴らしい実績だ。
前回(2019年)の来場者の約4人に1人が外国人で、海外からの評価も高いという。
男木島では芸術祭の影響で移住者が増加し、休校していた小・中学校が再開しており、地方創生の見本になりそうな事例だ。

【 内 容 】
瀬戸内国際芸術祭からみた持続可能な地域づくりの実践
まずは、株式会社ベネッセホールディングス本社・直島統轄部グループリーダー、公益財団法人福武財団渉外担当室長であり、ベネッセアートサイト直島、瀬戸内国際芸術祭で企業連携を担当する塩田基氏が寄稿されたコラムを一部抜粋してご紹介します。

ウィズコロナ時代の芸術祭
2022年4月14日、3年ごとのトリエンナーレ形式で開催されている日本最大級のアートフェスティバル「瀬戸内国際芸術祭2022」が開幕しました。春、夏、秋の3会期に分かれ、33の国と地域から184組のアーティストが香川県と岡山県の12の島と高松港・宇野港で作品を展開していきます。5回目となる今回はコロナ禍での初めての開催。会場となる島々は医療体制が脆弱なため、一部の島民から懸念の声が上がりましたが、徹底的なコロナ対策の結果、春会期(35日間)での来場者の感染は1人のみ。来場者は前回の6割程度の約23万人と減少したものの、島民の理解も広がり、ウィズコロナ時代における地域型芸術祭のひとつのモデルを示しました。

瀬戸内国際芸術祭の会場

瀬戸内国際芸術祭の開催意義と成果
瀬戸内海は美しい自然と独自の文化・伝統を有している地域で、1934年には日本最初の国立公園「瀬戸内海国立公園」に指定されました。その一方で、1960年代以降の大規模な工業開発により、直島や犬島では銅精錬所から出る亜硫酸ガスによる煙害が発生し、豊島では日本最大の産業廃棄物の不法投棄事件が勃発するなど、経済発展と引き換えに負の遺産を抱えることになります。このような近代化の影響とともに過疎高齢化が進み、島の活力が失われていく中で、瀬戸内国際芸術祭は現代アートを媒介として衰退した島々の自然、歴史、生活、文化などの資源を掘り起こし、瀬戸内に暮らす人々と国内外から訪れる多くのアーティストや来場者との新たな関係性を産み出すことで地域の活力を取り戻す取り組みです。

瀬戸内国際芸術祭は海外からの評価も高く、米国のニューヨーク・タイムズや英国のナショナル・ジオグラフィック・トラベラーにおいて日本で唯一「Setouchi」が取り上げられた際には、瀬戸内国際芸術祭が瀬戸内を訪れる目的の一つとして紹介されました。前回(2019年)開催時の来場者の海外比率は23.6%で、約4人に1人が外国人でした。

前回の来場者アンケートによると、「非常によかった」「よかった」が97.5%、次回芸術祭が開催された場合「ぜひ来たい」「来たい」と86.3%の人が回答。島民へのアンケートでは、73.4%の人が、芸術祭が地域の活性化に「大いに役立った」「少しは役立った」と回答し、地域活性化へ貢献出来たかどうかという観点も重要な評価指標の一つとなっています。

地域の変化と芸術祭を支える「こえび隊」の存在
目に見える評価だけでなく、芸術祭による地域の変化にも注目です。瀬戸内海の島々では瀬戸内国際芸術祭をきっかけに、様々な地域活性化の取り組みが進められています。男木島では芸術祭の影響で移住者が増加し、休校していた小・中学校が再開するという日本初の事例も見られています。

2014年4月7日に男木小・中学校再開。小学校には6年ぶりに児童4人、中学校には3年ぶりに生徒2人が通う

このように地域に変化を与える芸術祭の活動は、「こえび隊(NPO法人瀬戸内こえびネットワーク)」によって支えられています。前回開催時はのべ9,458人のボランティアが参加。こえび隊は芸術祭の会期外も継続して島々に通い、島民の方々と交流を重ねながら継続的な関係性を構築しています。

企業と文化の関係性
芸術祭には、多くの企業・団体からの寄付や協賛がありますが、その関係性は寄付型から共創型へと変化しています。前回開催時には企業経営者を招聘し、企業の持続的な成長と文化活動を統合的に考える「SETOUCHI 企業フォーラム」などのイベントを開催しました。
企業と文化の関係性については、マガジンで図を用いて詳しくご紹介していますので、ぜひご一読ください。

文化芸術による持続可能な社会の実現に向けて
これからの成長を前提としない定常化社会における地域づくりでは、地域のリソースを発見して掘り起こし、新たな価値として顕在化していくことが求められます。地域に定着しつつある瀬戸内国際芸術祭に足を運ぶことで地域社会の変化を体感し、今後の社会のあり方を考えていくことが大切なのではないでしょうか。