DMO・観光組織が見直すべきデジタル戦略は? 2021年に成果を出す4つのポイント、成功指標は「再定義」を【外電】
(トラベルボイス 2021年1月11日)
https://www.travelvoice.jp/20210111-147906

【ポイント】
コロナ禍において国内観光への関心が高まっている。そうする中で、今まで見過ごされていた観光資源の再発見によって、ゆっくり滞在し、オフピーク期も楽しめるコンテンツが大切になる。
旅行者の36%は「地域の名物料理」を挙げており、ローカルが故に知名度が低く観光客の誘致につながっていなかったものも、マーケティングにより、観光客の誘致につながる可能性も広がっている。そのためにも地域における共同マーケティングが重要だと思われる。

【 内 容 】
観光産業のすべてが変わってしまった2020年は、予測不能な一年だった。人々の旅行意欲、活動予算、各種の規約や手続きなどあらゆる面で、旅行各社や受け入れデスティネーションは戦略や事業サービスの見直しを迫られることになり、新たに出現した旅行者ニーズへの対応に追われた。
こうして旅行者はもちろん、観光産業のマーケティングにおいても、ニューノーマルの時代が到来した。各地の観光組織では、限られた予算内で、より効率的に結果を出せる手法を模索しているが、2021年における最大の難点は、効果測定の指標が時代遅れになってしまったことだろう。
今年は、売上増に向けたデジタルキャンペーンでも、新しい常識に即した手法を確立するべきだ。

多くの観光組織において、デジタル予算の配分先は、ダイレクト・レスポンスを狙うもの、または潜在的な旅行者を刺激し、購買行動へと促すキャンペーンとなっている。ダイレクト・レスポンスの効果測定指標には、ウェブサイトへのアクセス数、クリック率、広告の露出回数などがある。
だが2021年度は予算の縮小が続く見込みで、旅行者側も予約を入れることにはまだ慎重姿勢だ。こうした状況下でのデジタル広告展開では、ブランドキャンペーンに傾くデスティネーションが多くなるだろう。
デジタル・ブランディング・キャンペーンは予算的な負担が軽く、柔軟性があってトラッキングしやすいが、効果測定のKPIや指標には、顧客生涯価値、長期的な信頼関係作り、インクリメンタルサーチ(逐次検索)などが求められる。

デスティネーションや観光機関がデジタル指標を見直し、2021年の活動で成果をあげるためにはどうするべきか、以下に4つのポイントを紹介しよう。

  1. 2020年からの教訓を活かす
    2020年はもちろん普通ではない一年となったが、多くの新しいトレンドや気づきが生まれた年でもある。2021年には、これを活かすことが重要だ。
    航空会社では、これまでの姿勢を見直し、健康と安全を何よりも優先するようになった。
    旅行では、海外より国内を選ぶ人が増えており、この傾向は2021年以降も当面変わらないだろう。そこで、デスティネーション側がターゲット市場を選定する際に必要なデータ群も、従来とは異なるものになる。
    例えば、2019年のフライトデータと、現在の国内ホテルの検索・予約データを組み合わせると、デスティネーション側にとっての優先順位や広告の投資先がはっきりしてくるのではないか。
    また国内旅行で特筆すべきことは、旅の目的として、食べ物などへの関心がより強いこと。実際、旅行者の36%は、新しい年に楽しみたいこととして、地域の名物料理を挙げている。
    そこで、まだ飛行機に乗るつもりはない旅行者向けのマーケティングでは、ローカル性を意識し、興味や関心別にキャンペーンを展開することを検討してみてはどうだろう。

2. 長期的戦略と地域の共同マーケティングを
旅行者の大半は、スーツケースを持って海外に出かけることにはまだ消極的で、この状況はしばらく続きそうだ。しかしその分、今まで目を向けていなかった国内のデスティネーションへの関心が高まっている。
この現状は、知名度の低さに悩んでいた小さな町にとっては絶好のチャンスで、この機会を活かそうと、初めて広告予算を組んだところも多い。だが問題が一つある。競争は激しくなっており、わずかな予算しかない地域や自治体にとって、投資を最大限に活かせるかどうかは悩みの種だ。
例年とは異なるマーケット状況になっている今、デジタル広告マーケットや新規顧客開拓に必要な各種ツールについて知りたいというデスティネーションが急増している。
ブランディングは、需要回復のカギを握るものだが、ブランディング・キャンペーンには長期的な展望に立った戦略が欠かせない。
小さなデスティネーションが競争を勝ち抜き、予算を最大限に活かすベストな手法が、地域限定の共同マーケティング(Co-Op marketing)だ。Co-Opマーケティングは、DMOなどデスティネーションのマーケティング担当組織が、地域の関係各社と一緒に展開するもので、それぞれの予算や打ち出したいメッセ―ジをまとめ、共同でマーケティング活動を行う。
これにより、地域に新しい旅行者を呼び込むことはもちろん、コミュニケーションでの連携や、地域事業者への直接予約の支援などの効果も期待できる。

  1. サステナブルなビジネスモデルを構築する
    いま、デスティネーション側にとって、かつてないほど重要になっているのが、持続可能なビジネスモデルの確立だ。これは、単により効率的なマーケティング手法を取り入れることだけでなく、地元コミュニティとの間に長期的な信頼関係を築いていけるよう汗を流すことであり、旅行者が求めているものを提供するということだ。
    このマーケットでは、地元で暮らす居住者やその生活ぶりが、唯一の観光資源である場合が少なくない。だからこそ観光機関には、居住者がもたらす価値の代弁者としての役割が不可欠となる。
    また旅行者側も、以前よりサステナブルな体験を求めるようになっており、今までは見過ごされていたデスティネーションの再発見や、一つの場所にゆっくり滞在したり、オフピーク期を楽しむといった傾向が出ている。
    こうした風潮や、人々の興味関心の変化は、小さなデスティネーションにとって、マーケティング活動の対象を広げる上で追い風となっている。
    データに導かれたアプローチを進めることで、デスティネーション側は、少ない投資でも、多くのことができるようになる。最適化と試行錯誤を続けることで、さらに望ましい結果が出るようになるだろう。
    独自の戦略に加えて、DMOやCo-Opマーケティングの活動にも参画すれば、リーチできる顧客層はさらに拡がる。Co-Opマーケティングでは、旅行ブランド各社が連携し、KPIを整えていくことで、「常時オン」の体制で、複数の流通チャネル向けにキャンペーンを展開できるようになる。
    例えば、デスティネーション組織が地域のアトラクション施設やホテルと一緒に活動することで、域内で体験できることが全て紹介できるようになったり、旅行者の滞在時間を伸ばしたりすることができる。
  2. 適正なパートナーシップを構築する
    観光の回復には、コラボレーションが欠かせない。その際、目を向けるべきパートナーには、国連世界観光機関(UNWTO)や欧州観光委員会(ETC)などもある。
    UNWTOでは、持続可能なビジネスの定着に向けて、最も重要なことの一つとして「パートナーシップ」を挙げている。さらにその相手として、これまでのライバルも検討するべきだとの考えで、例えば競合する近隣都市やホテルなどとの連携もありえるとしている。
    現在、多くのDMOでは、依然として公的資金が活動予算の多くを占めているが、地域の関係各社の協力を得ながら官民のパートナーシップを構築することが、需要回復とサステナブルな未来のマーケット創出につながっていく。
    ただし、パートナーには、しっかりとしたデジタル連携が可能なDMOを選ぶことが大切だ。DMO側には、効果測定とデータによる消費者心理の洞察をサポートできるように、適正なツールを提供できる体制が不可欠だ。

結論
需要回復をスピードアップするために、デスティネーション側は、旅行におけるニューノーマルへの対応が必須だ。複数のチャネルを対象に、データ主導のアプローチを行うことで、限られた予算から最大限の効果を引き出し、未来へとつながる持続可能な事業モデルを作り上げることが求められている。
旅行者は今、かつてないほど長い時間をオンライン上で過ごしている。DMOとの協働や共同マーケティングへの参画は、デスティネーションや観光組織にとって、オンライン上での存在感を高め、市場シェアを広げることにつながる。さらに人々の旅行先リストの上位へと食い込むこともできるはずだ。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Tourism organizations need to rethink their success metrics in 2021
著者: セリーヌ・ショーズグロ氏(Celine Chaussegros、ソジャーン 欧州中東アフリカ地区代表)