観光協会とDMOは何が違うのか? 法人格の視点から意思決定プロセスの改善を考えた【コラム】
(トラベルボイス 2019年8月17日)
https://www.travelvoice.jp/20190817-134129

日本版DMOが展開されるようになり、「一般社団法人」が多くとなっている。
DMO登場以前の観光協会は、同業者組合、互助会という側面が強く、行動原理が事業者視点であるのに対し、DMOは顧客視点となり、一部事業者から反対意見が出ても、地域としての競争力を高めることを優先されるようになったという。
本レポートは、さらに「一般社団法人」でなく、「一般財団法人」とすることが有効と述べられている。
「一般社団法人」は年会費が基礎的収入であるため、事業計画も単年度でつくりあげるが、「一般財団法人」の場合、基金をもつことで中長期的な時間軸での事業計画を立案できるという点は重要だ。

【ポイント】
日本版DMOが政策として展開されるようになって以来、観光推進組織の創設や法人化が進んでいる。
かつて、観光協会の多くは任意団体だったが、着地型旅行が登場し始めた2000年台の中頃から、各種の契約行為や主催旅行の催行などを目的に、法人格を取得する動きが顕在化した。

2001年に株式会社南信州開発公社が、2003年に株式会社ニセコ観光協会が創設され、2004年にNPO法人ハットウ・オンパク、2005年にNPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構、一般社団法人白馬村観光局が創設されている。
2005年の第3種旅行業の特例は、こうした動きを更に加速させることとなり、株式会社昼神温泉エリアサポート(2006年)、松之山温泉合同会社まんま(2008年)、株式会社小値賀観光まちづくり公社(2009年)、一般社団法人飯山観光局(2010年)などが創設されるに至った。
そして、観光庁は2010年、全国で特徴的な動きをしている観光推進組織を「地域いきいき観光まちづくり2010年」として取りまとめた。

2000年代は、株式会社やNPOを採用することが少なくなかった。しかし現在では、ほぼ「一般社団法人」の一択となっている。
理由は、社団法人が一般と公益に区分されたことで、公益性を排除した一般社団法人を簡単に創設可能となったことが大きく影響している。

DMOの法人格として、一般社団法人が適切かどうかという点では、疑問が残る。
そもそも社団法人とは、組合形態を法人化したもの。社団法人では会員を「社員」と呼ぶが、社員が共同で課題に対応していく組織が社団法人となる。これは、当事者自身で、または専門家に依頼して問題解決をおこなうのではなく、共通する利害関係者が連携することで解決する手法となる。

DMO概念登場以前の観光協会は、共同事業体、同業者組合、互助会組織という側面が強かった。地域で集客を目的としたイベントを開催したり、行政に陳情をしたりする場合、バラバラでは対応が困難です。一方で、(一般)社団法人は対応が容易となった。

観光協会(Tourism Organization)とDMOの違いは、端的に言えば、観光協会では行動原理が事業者視点であるのに対し、DMOは顧客視点であるということです。
事業者視点では、不利益を生じる事業者がいる取り組みを進めることができません。つまり、「誰も反対しない」取り組みしかできないことになる。
それに対して顧客視点の場合、ターゲットの顧客に「刺さる」かどうかが判断基準となる。その結果、一部事業者から反対意見が出されることがあっても、地域としての競争力を高めることが優先される。

ただ現実的には、ターゲットを設定した時点で「誰も反対しない」ものとなりがち。仮に特定セグメントをターゲットとしても、それ以外の市場についても、ジェネラルな対応をするという判断に至ることがある。そのため、投入できるリソース(資金や人材、時間)が分散し、集客のしきい値を超えることができないこととなる。
マーケティングの重要性が叫ばれ、以前に比べて多くのマーケティングデータが取得できるようになったにもかかわらず、結果として、やっていることはあまり変わらない…というのが実情だ。

一般社団法人は、互助会組織を運営するのに適した法人形態でした。社員(会員)を集め、社員から会費を集め、その資金の使途については、社員から互選された理事が決定する形態です。
一般社団法人では、会員要件を設定することで、参加者を選別することも可能。正会員と準会員などに分け、理事は正会員から互選するといったことが可能となる。

議決権は会費口数に比例することが多いですが、地域の特性上、大手事業者だからといって議決権確保のために、あからさまに口数を増やすということが難しい。そうなると、議決権は事業所の数が多い中小事業者が握ることになる。
こうした状況は、構造的にマイノリティの意見は通りにくく、新しいことをしたい若手経営者や外部からの参入者が組織(一般社団法人)に参加しないという事態も招いてしまう。
外部から専門人材を招聘したとしても、その専門人材は、顧客視点での戦略立案は難しく、社員(会員)の意見を聞くところから始めなければならないことになる。
パレートの法則で言えば、地域の観光は2割の事業者が牽引しているにもかかわらず、8割の事業者の声を踏まえないと事業を組み立てられない構造にある。その結果、DMOと名前を変えても、結局「これまでと同じ」路線が強化されやすくなる。

意思決定プロセスの構造的な問題に対応するには、法人格を一般財団法人とすることが有効ではないかと考える。
一般社団法人も、一般財団法人も、外形的に大きな違いはないが、社団法人は社員という人の集まりが基軸になっているのに対し、財団法人は基金という資金が基軸となっている。
財団法人には議決権を持った会員という概念が存在しない。賛助会員制度を設けている法人は多数あるが、これは会費を納めるだけで、議決権はなく、明示的なリターンも不要となります。

一般財団法人の執行部(理事、監事)は、社員総会にて選出され、その事業計画、決算も同様。一般財団法人の場合は、第3者機関的な評議員会にて選出、了承されます。
一般社団法人は年会費が基礎的な収入であるため、事業計画も単年度でつくりあげていくことが求められるのに対し、一般財団法人の場合、基金をもつことで中長期的な時間軸での事業計画を立案することが可能。

宿泊税が顕在化してくると、行政は持続的にDMOに対して活動資金を拠出できるようになる。
一般財団法人であれば、その活動資金を単年度の事業費としてだけでなく、数年間にわたって自立的に利用できる基金として受領することもできる。

基金は株式会社の資本金に近い性質を持つが、財団法人の場合、基金に寄付した時点で、寄付者は資金に対する一切の権限が喪失する。つまり、寄付をしたからといって、議決権が高まるわけではなく、配当金が得られるわけでもない。

一般財団法人の執行部は、会員(事業者)ではなく、法人に設定されたミッションに従った行動を行いやすくなる。専門人材を招聘し、ある程度痛みの伴う取り組みもおこないながら地域の競争力を高めるには、より好適な法人形態だと言えるのではないか。

一方で、一般社団法人であっても、社員(事業者)が、観光協会とDMOとの違いを認識し、DMO活動を支えるような体制が取れるのであれば、実行上の問題はない。一般財団法人よりも、会員との距離が短い分、むしろ、より強力な体制となることも期待できるメリットもある。