話題の音声SNS「Clubhouse」 孤独な人を救えるか
(日本経済新聞 2021年2月4日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ033YN0T00C21A2000000/

【ポイント】
「Clubhouse(クラブハウス)」という”音声版Twitter”アプリが今年1月からはやりだしたという。
Clubhouseに使用できるスマホは、iPhoneのみ。Androidスマホでは使用できない。
また「誰かに招待してもらわなければ参加できない」。しかも招待枠は最初は2人だけという。「喋りやすい」といい、新しいネットワークツールになりそうなアプリのようだ。
私も昨日(2/5)から使い始めました。『関西の観光』のネットワークを作ってみようかな…!

【 内 容 】
2021年1月下旬、iPhoneユーザーの間で突然「Clubhouse(クラブハウス)」というアプリがはやりだした。「音声版Twitter」ともいわれているSNS(交流サイト)アプリだ。

ユーザーがこのアプリの上で集まり、音声で会話できる。ひとつのグループには最大5000人が参加可能だ。数人がしゃべっている会話に残りの人が耳を傾けるようになっている。

アプリを開くと、様々なテーマで会話しているグループの一覧が表示される。登壇してしゃべっているユーザーの名前を見て参加してもいいし、グループのタイトルで判断してもいい。

某報道番組のキャスターが「伝える」というテーマで語っていたグループもあれば、タレントと教授が人工知能(AI)について議論していたグループもあった。お笑い芸人やアナウンサー、さらにIT評論家、スタートアップの社長が入り乱れて、Clubhouseの可能性について語っていた。
有名人たちが語るのをみんなで聴くのは楽しい。仲間同士で飲み会感覚でしゃべり合うのにも向く。

【関連記事】
• 音声版Twitter「Clubhouse」、完全招待制で話題に
• [FT・Lex]次は音声SNSアプリが席巻か
• Amazonも音声配信 「ながら聴き」需要争奪戦

20年には新型コロナウイルスによる外出自粛で「Zoom飲み会」が一瞬、はやったが、あっという間に飽きられてしまった。ちゃんとした服を着たり化粧をしたりして互いの顔を見ながら飲むのが負担だったのかもしれない。自宅にいるのでやめるタイミングがわからず、飲み過ぎてしまうのもストレスだった。

Clubhouseがはやりだした当初は、新しいサービスに飛びつくアーリーアダプターが中心になっており、テレビやラジオなどのメディア関係者の姿を結構な割合で見かけた。メディア関係者としては、「自分の声を共有できるSNS」を自分で使ってみて将来性を試したかったのだろう。
筆者も1月31日の午後10時にグループを立ち上げてみたところ、50人ほどが参加してくれた。中には知り合いもいたが、面識のない人が多かった。
テーマは、同日をもって一般向けサービスが終了したPHS(簡易型携帯電話)の思い出を語るというもの。日付が変わる午前0時まで、昔のPHS端末やサービスなどについて懐かしく語り合った。知り合いの元メーカー担当者から開発の秘話なども飛び出し、大いに盛り上がった。2月2日には「スマホ料金乗り換え案内所」というテーマを立て、150名近くが参加してくれた。

米国のサービスをいち早く使いたい
Clubhouseが注目を浴びている理由は「仲間はずれになりたくないという日本人の意識」を巧みにくすぐっている点にあるのかもしれない。
例えば、Clubhouseは誰かに招待してもらわなければ参加できない。自分だけでは参加できないのだ。招待枠は最初は2人だけ。しかも、相手の電話番号にショートメッセージを送るため、招待したい人の電話番号を知っていなければならない。
利用できるスマートフォンはiPhoneのみ。Androidスマホのユーザーは仲間はずれなのだ。日本で最も売れているAndroidスマホを作っている日本メーカーの知り合いは「我々の周りは誰もClubhouseに参加できない」と嘆いていた。

日本人は舶来のネットサービスにとても弱い。TwitterやFacebook、Googleなど、とにかく米国発のネットサービスをありがたがって我先に使いたがる傾向がある。Clubhouseは、20年に米国サンフランシスコで創業したアルファ・エクスプロレイションというスタートアップが手がけている。同サービスは、日本人の「他人よりも先に使いたい」という気持ちを絶妙に揺さぶってスタートダッシュに成功した。
Clubhouseが「音声版Twitter」といわれているのは、日本のユーザーに普及したタイミングや背景などがTwitterによく似ているからかもしれない。
Twitterが日本で普及したのは今から10年前。11年3月11日に東日本大震災が発生し、その日の夕方には携帯の音声通話がつながりにくくなりメールの送受信もままならなくなった。通信が混雑する「輻輳(ふくそう)」という状態が発生し、通信を一時的に規制していた。
その直後に注目を浴びたのがTwitterだった。足りない資材の情報が避難所からTwitterにアップされてリツイートされることで、情報が一気に拡散した。また、タイムライン上でリアルタイムに情報が発信されることで、人々が何となく「つながっている」という気持ちになれた。深夜も余震が続く中、「いま揺れた」とつぶやこうとすると、みんなも一斉につぶやき始める。まさに「家にいても人とつながっている感」が受け入れられ、Twitterは広まっていった。
あれから10年、世界は新型コロナで苦しんでいる。なかなか人と会えず、会食もできない中、Clubhouseで夜な夜な雑談を楽しむ人が増えてきた。
今はアーリーアダプターや芸能人などが目立つが、将来的に幅広いユーザーに広まれば、ちょっとした隙間時間に雑談や相談ができるようになるかもしれない。
例えば、親の介護で家を出られず社会から孤立し始めている人の助けになる可能性がある。深夜、人生に行き詰まった人がClubhouseで誰かと話すことで、気分が明るくなることもあるだろう。スマホとClubhouseによる「雑談」が多くの人を救うと期待したい。
Twitterはテキストベースだったのに対しClubhouseは音声ベース。モバイル通信だと1時間で100メガバイト弱のデータ容量を使っている印象だ。1カ月間、毎日1時間聴けば3ギガ(ギガは10億)バイトになる。ほかの動画アプリやビデオ会議サービスも使っていると、NTTドコモの「ahamo(アハモ)」のような20ギガバイトのプランではあっという間にデータ容量が足りなくなってくる。
音声メディアや音声SNSがさらに普及するには「データ容量を気にしない料金プラン」の浸透が不可欠だ。
菅義偉首相は「日本では20ギガバイトプランが世界よりも高い」と主張し、ahamoをはじめとした「20ギガバイトで2980円(税別)」というプランが誕生した。しかし、全員が20ギガバイトまでしか使わなくなると、こうした音声関連のサービスを避けるようになってしまう。
動画や音声のメディアやSNSが盛り上がるには、高速通信規格「5G」の使い放題プランをいかに普及させるかが鍵といえる。

5Gによる超低遅延に期待
Clubhouseが一気に広まった背景の一つに「しゃべりやすい」という点が挙げられる。Zoomなどでは話し出すタイミングが難しく、複数の人間が一緒に話し出すことがある。Clubhouseはそうした「お見合い」が少ない気がする。技術的にはまだ発展途上だが、音声を超低遅延で処理することで、話しやすい環境をつくり出しているようだ。
先日、世界的にヒットしている動画共有サイトの日本法人の担当者に「5Gはいつ普及しますか」と面と向かって尋ねられた。コロナ禍で外に出られず、家にばかりいるユーザーの投稿に変化がなくなってきているという。
どうやら、5Gによる超低遅延のネットワークが普及することで、ユーザー同士が一緒に楽器を演奏したり、歌ったり、同期してダンスしたりするようになり、動画投稿がさらに増えると期待しているようなのだ。ただ、5Gで実際に低遅延でやりとりできるようになるのは22年以降とされている。
Clubhouseだけでなく、ZoomやTeamsなどのビデオ会議サービスでは、今後「いかに遅延なくしゃべれるか」が重要になってくる。遅延がなければ、他人が話した後にもすんなり入りやすく、会話が円滑に進む。5Gの超低遅延はコミュニケーションでこそ生かされるのかもしれない。