豪州でSAKEニュース発信 日本人男性が英語サイト(日経電子版 2020年1月10日)https://style.nikkei.com/article/DGXMZO54072960W0A100C2000000?channel=DF080420167228

オーストラリアで日本酒の英字サイト「Sake News」の運営管理されている遠藤烈士さんは、2月20日の『観光のひろば』の講師に来日していただけます!遠藤さんとは昨年秋に知り合い、特に訪日オーストラリア人の観光で新しい切り口の相談をしている所ですが、オーストラリアを舞台に新しい可能性に挑戦されている方です。2月20日に『観光のひろば』に是非おいでください! 

【ポイント】オーストラリアで日本酒の人気が徐々に拡大している。
現地の和食店だけでなく、地元店でも日本酒を提供する店が増えている。また、現地でSAKEを醸す個性的な醸造所なども登場している。オーストラリアでの日本酒関連のイベント情報を取りまとめているのが、シドニーで日本酒の英字メディア「Sake News」の運営管理者である遠藤烈士さんを取材した。

もともと日本酒好きだった遠藤さんが「Sake News」を立ち上げたのは約1年前。オーストラリアから日本へのインバウンド・サポートビジネスを主に手がけている現地企業(ジャムズ・ドット・ティーヴィー)でプロモーションの仕事をしており、「何か日本酒のお手伝いもできないものか」と考えたのがきっかけだ。同社はオーストラリア在住の日本人向け生活情報ポータルサイト(日本語メディア)なども運営している。

「今年でオーストラリアに住んで約25年目ですが、日本酒がどこで売られているのか、どこで飲めるのかといった情報がほとんどまとまっていないのです。私みたいな日本酒好きは満足できないです」と遠藤さん。
日本酒の情報不足を感じ、周りのオーストラリア人もそう感じる人が多かったので、日本酒情報を取りまとめたサイトを作ることにした。現在はシドニーを拠点に、メルボルンやパースといった都市で開催される、日本酒をメーンにした酒関連のイベント情報を定期的に掲載している。遠藤さんとシドニー在住のオーストラリア人記者の計3人で、各地を取材して記事をアップしている。

サイト運営で一番大事にしているのは、オーストラリア人の目線。「日本酒はこうあるべきだといった固定観念を捨てることがとても大事だと思っています。味わいから飲み方まで、日本酒は現地のマーケットに合わせて柔軟に対応していく必要があります。それをどのように表現すべきかいつも気をつかいます」と遠藤さん。

両国の価値観の違いを理解した上で、オーストラリア人感覚に合わせることもあれば、日本の伝統文化をあえてしっかり伝えながら書く時もある。ただ、そのさじ加減がなかなか難しいという。
「Sake News」のサイトオープン前に、遠藤さんは約2週間かけて日本各地の蔵を訪問した。日本酒の伝統文化をよく知らないと記事は書けないと思ったからだ。

「日本の山奥にポツンと存在する小さな蔵で、杜氏(とうじ)たちが命を削って必死に酒造りをしていました。その酒が海を渡って南半球のシドニーにまで運ばれ、オーストラリアの人たちがおしゃれなレストランで優雅に味わう。彼らは日本の伝統文化を直に感じ、日本のことを思う。その流れが一気に見えた瞬間、これはすごい仕事だ、すごいロマンだ、と感じました」と遠藤さん。

「先進的な取り組みをしている蔵もあれば、海外市場に向けていろいろと挑戦している蔵もありました。そういう蔵はぜひ応援していきたい」と、彼は2019年からオーストラリア進出を考える酒蔵を支援する取り組みも始めた。19年秋には岐阜県の5蔵共同の商談会をシドニーで開催した。現地のレストラン関係者や酒販店関係者など約50人に試飲してもらいながら、一斉にプロモーションした。

「オーストラリアでの日本酒のトレンドは刻々と変化してきている」と遠藤さん。ここ数年、刺激を受けているのはオーストラリア最大の日本酒の祭典「Sake Matsuri(酒祭り)」だという。18年からシドニーに加えてメルボルンでも開催されるようになり、昨年で3年目を迎えた。
以前は「大関」や「黄桜」といった大量生産された日本酒しか出回らなかったが、「ここ5年くらいでオーストラリアに本拠を構える輸入業者が登場し、小さい蔵元のクラフト感あふれる日本酒も飲めるようになってきた」と遠藤さん。

今、気になっている日本酒の一つがメルボルン発の「TOJI」(とうじ)というブランド。ウェブサイトを見る限り、新潟の米と水を使って、新潟で醸したものを、オーストラリアで販売しているようなのだが、どこの蔵の酒なのかなど詳細はサイトには明記されていない。だからこそ気になり、次に取材したいのだという。
「TOJI」のボトルは白と黒の洗練されたデザインが印象的で、日本酒の世界観からはかなりかけ離れていて斬新だ。純米吟醸と純米大吟醸の2種のみで、日本人の夫とオーストラリア人の妻の2人で販売しているという。地元では「TOJI」を提供している飲食店が増えてきており、ファインダイニングなどではペアリングイベントなども開催されて人気だ。

「TOJI」(720ミリリットル、純米大吟醸は1本65豪州ドル)は約4875円(1豪州ドル=75円で換算)、純米吟醸は45豪州ドル(約3375円)と、日本に比べるとやや高めだ。現地のワイン相場なら、20豪州ドル(約1500円)だとデイリーなワイン、30豪州ドル(約2250円)だと良いワイン、40~50豪州ドル(約3000~3750円)だとプレミアム感のあるワインといった感覚。
日本酒だと30豪州ドル(約2250円)だと純米酒、45~55豪州ドル(約3375~4125円)だと純米吟醸くらいのレンジになる。

オーストラリアで醸されるSAKEと言えば、現地で育てられた酒米で醸造している小西酒造(兵庫県)の「豪酒」(ごうしゅ)が昔から有名だ。他にも遠藤さんが一目置いているのが、シドニーのビール醸造所Yulli’s Brews(ユリーズブリューズ)が醸し出した新しいSAKEだ。
同社は豊富なクラフトビールが看板商品で、中にはミントやビートルート(ビーツ)を加えたアルコール度数1%のコンブチャなど、ユニークなビールもそろえている。ビール酵母を使ってSAKEを造ったり、ビールの製造過程でSAKEを掛け合わせたり、非常に個性的な製造に挑戦。SAKE造りを始めてまだ1期を迎えたばかりだが、すでに現地ではかなり話題を呼んでいるのだ。Yulli’s BrewsのSAKEは「NIGORIZAKE DOBUROKU 濁り酒 CLOUDY SAKE」と「NAMA-SAKE JUNMAI SEISHU清酒 CLEAR SAKE」の2種。日本酒らしくないボトルに入れ、ユニークなラベルで販売している。
特ににごり酒は、キャップを開栓するとシュワシュワと泡が立ち上り、酒があふれ出そうになる。その時にボトルの下に沈殿している白いにごり成分(おり)が一気に上まで上がってきて真っ白ににごるので、その見た目の演出も酒パフォーマンスの一つとして話題なのだ。
クラフトビールを愛しているファンたちが好みそうな味をイメージして作られたSAKEだそうで、酸味が効いていてキレがあるが、にごり成分がたっぷり入っているのでボディー感も感じられる。これを醸している日本人のCHIHOさんは日本の蔵で修業したことはなく、全て独学で、固定概念にとらわれない独自の製造を編み出している。

近年、「ワインリストの他にSAKEリストを用意する飲食店が増えてきています。それに伴って、シイタケ・コンブ・豆腐・のりといった和の食材も料理に使われるようになってきました」と遠藤さん。SAKEカクテルも増えており、ファインダイニングでの日本酒と料理のペアリング・イベントはすぐにチケットが完売する。少しずつだが和食や日本酒がオーストラリアに浸透しているのを実感しているようだ。遠藤さんの夢はオーストラリアにおけるSAKEマーケットの中心的なメディアとして「Sake News」を確立させることだ。ここ1年で、オーストラリアの日本酒関係者や飲食関係者にようやく認知されるようになってきたが、さらに各地のライターをもっと増やし、日本のアワード受賞酒の情報なども盛り込んでコンテンツを充実させたいと意気込む。