食を創る「世界の台所」へ 大阪・関西、美食もB級も
都市の針路 発信力を磨く①
(日本経済新聞 2022年9月11日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF306LU0Q2A830C2000000/?unlock=1

【ホッシーのつぶやき】
久々に大阪の明るい話題だ。
和歌山県串本町にある近畿大学水産研究所でアイゴを養殖しているという。独特のにおいと毒のあるトゲで厄介者とされてきたが、「丁寧に処理すればうまみの強いおいしい魚だ」と語る。アイゴの養殖の特徴は「野菜クズで育つ」、25年の「大阪・関西万博」で提供できれば関西発の先進事例として打ち出せるという。
大阪はB級グルメも美味しいが、ハイエンドな料理も素晴らしいと語られる都市になって欲しい。

【 内 容 】
本州最南端、和歌山県串本町にある近畿大学水産研究所・大島実験場。7月に置かれたいけすで悠々と泳ぐ体長30センチメートルほどの魚が、サステナブル(持続可能)な養殖で世界のフロントランナーとなる可能性を秘めている。

「厄介者」アイゴを養殖、近大マグロに続け
その正体は「アイゴ」。独特のにおいを持つ個体があり、毒のあるトゲを持つことから市場では扱われない。「近大マグロ」をはじめメジャーな魚の養殖技術の開発で日本を代表する水産研究所に、この「厄介者」の共同研究を持ちかけたのが「ミシュランガイド」星付きなどの大阪・関西の料理人たちだ。2022年2月に持続可能な食の未来を実現する会社「RelationFish」(大阪市)を設立。社長を務める懐石料理「雲鶴」(同)の代表で料理長の島村雅晴氏は「丁寧に処理すればうまみの強いおいしい魚だ」と語る。

4つあるいけすの1つに与えるのが野菜クズ。白菜を我先にとついばむ様子を横目に、大島実験場長の沢田好史教授は「こんな魚は初めて。キュウリやブロッコリー、シソもよく食べる」と説明する。餌を変え、独特のにおいがどうすれば出なくなるか、味にどんな違いが生まれるかなどの研究が進む。一流料理人が料理法を開発、おいしく食べてもらった料理の残さを肥料にして野菜を育て、野菜クズはアイゴに与えて再び育てる――。「アイゴは有名でないからこそ、『実はこの魚は地球に優しくて』と伝えやすい」(島村氏)。沢田氏は25年国際博覧会(大阪・関西万博)でも提供できれば関西発の先進事例として打ち出せるとみる。食のスペシャリストが集う関西で、異色のタッグの挑戦が始まった。

「星」付き200軒、大阪・京都は世界の美食都市
「食い倒れの街」大阪、日本料理の原点ともいえる京料理など関西は日本の「食」の中心地といえる。ミシュランガイド掲載の星付きレストラン数を主要都市別にみると、9日時点で首位は東京の201軒。京都は3位で107軒、大阪は4位の94軒と、2位のパリ(118軒)に肉薄。江崎グリコに日本ハム、くら寿司、王将フードサービスなど食品や外食大手も多く本社を置く。日本のミシュランガイドの編集に関わる日本ミシュランタイヤの本城征二執行役員は「大阪、京都はすでに世界の美食都市に位置づけられる。食文化のレベルの高さを海外にもっと発信していくべきだ」と話す。

マスターカードの調査を基に20年に大阪観光局がまとめた資料では、大阪の観光客の消費額に占める飲食費の割合は6%と世界の観光都市の平均(14%)より低い。新型コロナウイルス禍前まで関西経済を潤したインバウンド(訪日外国人)の戻りは鈍いが、観光庁によると19年の訪日外国人旅行消費額のうち飲食は1兆円を超えた。「新・天下の台所」として食のブランド力を高め、富裕層の胃袋もつかめれば、大阪・関西が外貨を稼ぐ大きな武器になる。

25年万博で、大阪外食産業協会は「食博覧会・大阪2025(仮称)」というテーマで民間パビリオン出展に向けて協議を進める。それに先立ち、大阪商工会議所と大阪観光局が20年1月に設立したのが「食創造都市 大阪推進機構」。大阪の食はとかくB級グルメに注目が集まりがちだが、よりハイエンドな料理にも目を向けてもらう狙いだ。

うまみの強い大阪ワインが懸け橋に
「大阪ワインは紅ショウガと合わせても風味で負けない」。創業100年を超える西日本有数の老舗ワイナリー、カタシモワインフード(大阪府柏原市)の高井麻記子氏は、うまみの強い味わいをユニークに表現する。特産品が少ないイメージがある大阪だが、ブドウは戦前に山梨を上回って日本一の栽培面積を誇った。府内で収穫されたブドウから造る大阪ワインは「大阪と世界の食文化をつなぐ懸け橋になる」(高井氏)。21年には国が地域ブランドを保護する「地理的表示(GI)」の指定を受け、海外にも着実に浸透してきた。

古代朝廷に食材を献上し「御食国(みけつくに)」と呼ばれた淡路島には大手資本が相次いで参入し、魅力をPRする。飲食店を全国展開するバルニバービは11年ごろから都心部のレストランで島の食材を活用。19年にはイタリアンレストランを開業し、西海岸エリア一帯に完成させた「食」がテーマの複合施設の年間来場者数は25万人を超える。08年に就農支援事業を通じて島内に進出したパソナグループも廃校を飲食店に整備した「のじまスコーラ」を筆頭に地産地消をテーマにした飲食店を数多く展開する。

関西には山海の幸、歴史に裏打ちされた多様な食文化がある。「発信力」というスパイスを掛け合わせれば、さらに多くの人を引きつけられる。