32年ぶり150円台 国力低下、人材・資本の日本離れも
(日本経済新聞 2022年10月20日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB187OH0Y2A011C2000000/

【ホッシーのつぶやき】
1ドル=150円になった。2022年1〜9月の貿易収支は14兆3000億円の赤字だ。日本の食料自給率は4割弱、エネルギーの輸入依存度は9割にのぼり、これらの輸入でさらに赤字が膨らみそうだ。日本人の海外旅行も高くなり、米国で19年比4割上昇している。
日本の国力が下がっていることに気づいている人は多いと思うが、国もマスコミも正面から取り組んでいるように見えない。訪日外国人の観光は輸出額の大きな拡大につながることを再認識したい。

【 内 容 】

円相場が急落し、一時、1ドル=150円台を付けた円相場を示すモニター=20日午後、東京・日本橋茅場町(共同)

20日の外国為替市場で円相場が下落し、一時1ドル=150円の節目を1990年8月以来32年ぶりに下回った。かつてほど円安で輸出は伸びなくなり、むしろ資源高で輸入コストが膨らむデメリットが目立つ。行きすぎた「安いニッポン」が人材や資本の日本離れを招き、国力の一段の低下につながるリスクをはらむ。

円相場は20日、じりじりと下落し目立った材料なく150円台を付けた。市場で指摘されるのが輸入のための実需のドル買い圧力だ。日米金利差を手掛かりに円を売る投機筋と並び円安が長引く要因となっている。

かつての日本では円安になると国内からの輸出が増え、稼いだ外貨を円に替える動きが円安のブレーキとなった。企業が製造拠点を海外に移した現在、輸出力は低下した。資源高による輸入額の増加が勝り、円売り・ドル買いの需要が強い。

貿易収支に海外投資の収益を加えた経常収支(季節調整値)は7~8月に2カ月連続で赤字となった。1ドル=150円の定着を前提に「NEEDS日本経済モデル」で試算したところ、現在1バレル80ドル台の原油価格が100ドルになると23~24年度の経常黒字は21年度の12兆円強から1兆~3兆円台に減り、120ドルなら経常赤字となる。経常赤字は日本から資金が流出していることを示し、円安が一段の円安を招く悪循環に陥りかねない。

通貨の実力は「実質実効為替レート」に表れる。貿易量などをもとに様々な国の通貨の価値を計算し、物価変動も加味して調整した数値で、高いほど対外的な購買力があり、海外製品を割安に購入できることを示す。

円の実質実効レートは95年をピークに低下し足元では、変動相場制になった73年以前の1ドル=360円の時代の水準まで低下している。

円の実力低下がもたらす最大の問題はエネルギーや食料の輸入だ。日本の食料自給率は4割弱どまり。エネルギーの輸入依存度は9割にのぼる。円建ての今年の上昇率は原油や小麦で4割程度と高く、国外への所得流出につながっている。

海外から労働力をひき付けられなくなる問題もある。円安でベトナムなどからの出稼ぎは減る可能性が指摘されている。国際協力機構(JICA)は、政府の成長目標達成には40年に現状に比べ約500万人の追加受け入れが必要とみるが、日本は出稼ぎ先に選ばれにくくなっている。

日本人にとっても海外旅行は高くなった。JTB総合研究所によると、7月時点の宿泊費や飲食費など航空券以外の現地コストは、19年に比べて米国で4割上昇。為替要因が27%と物価要因(13%)を上回る。台湾やベトナム、韓国などアジアでも2~3割増えた。

JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏によると日米の物価が対等になるレートは1ドル=80円台。実際のレートは大幅に乖離(かいり)し、底が見えなくなっている。個人は外貨預金や海外株への投資を増やしており、約1000兆円の預金が海外に流出する懸念もじわり高まっている。