世界の損害保険支払い12兆円 コロナで過去最大規模に
(日経新聞 2020年6月8日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60103360Y0A600C2MM8000/?n_cid=NMAIL007_20200608_Y

新型コロナの蔓延で、世界の損害保険会社の損失が広がっている。
東京五輪やイベントの中止による利益喪失の補償が増え、2020年の保険金はは約12兆円となり、過去最大規模になる見通しだという。
感染症のリスクを契約に明示するように変わり、保険料が上昇する可能性もある。
損害保険の再保険の仕組みまで変わる可能性を占めるようだ。

【ポイント】
新型コロナウイルスのまん延で、世界の損害保険会社に損失が広がり始めた。
東京五輪などイベントの中止・延期や休業による利益の喪失を対象にした補償が増え、2020年の業界全体の保険金支払いは約12兆円と過去最大規模になる見通し。
コロナで損保会社の負担が増え、保険料上昇につながるとの見方が強まっている。

世界最大の保険市場である英ロイズ保険組合の見積もりでは、新型コロナによる損保業界の保険金支払いは20年で1070億ドル(約12兆円)。米国を大型ハリケーンが襲った05年(1160億ドル)に匹敵する可能性があるとみる。

過去のテロや大地震などと違い、経済活動の停滞が地球規模で起きた。再保険の引き受け手であるロイズ保険組合も、20年の新型コロナ関連の保険金支払額が最大43億ドルと、01年の米同時テロ(47億ドル)に迫るとみる。

各国損保も損失を引き当て始めた。スイス再保険は20年1~3月期決算で5億ドル弱の新型コロナ関連費を計上し赤字となった。スイスのチューリッヒ保険グループは今年のコロナ関連の支払いを7.5億ドル前後とみる。米保険大手マーケルは「08年の金融危機と同様、数四半期にわたって損失の計上が続く」とする。

多いのは東京五輪やテニスのウィンブルドン選手権などイベント中止・延期に伴う保険金の支払いだ。
店舗・工場を閉じたために生じた損失を補う利益保険もある。利益保険は財物損害に伴う損失を対象とし感染症は免責扱いとされるが、契約には曖昧さもあり係争が起きている。

英国では支払いを拒否した保険大手ヒスコックスに対し、パブや飲食店の事業者など複数の団体が集団訴訟に動き出した。英監督当局は基本的に対象外との見解を示しつつ、一部の契約は補償対象になりえると指摘する。法的な判断基準を明確にするため、高等裁判所に裁定を求める構えだ。

米国でも議会の超党派グループが企業救済のため、損保の業界団体に事業中断の損失も対象に含めるよう要請した。強制的にパンデミック(感染の大流行)を補償対象に入れる法案を提出するなど圧力をかける。

日本国内ではイベント関連は、感染症のリスクは除く契約が大半だ。利益保険の普及率も低い。欧米子会社のイベント中止保険などの支払いで、東京海上ホールディングス(HD)で300億~400億円、MS&ADインシュアランスグループHDで約200億円の損失を見込む。SOMPOHDも海外の支払いが200億円程度に膨らむ可能性があるとみる。

訴訟や法制化の行方次第では、業界の負担はさらに膨らむ。保険会社は将来の支払いに備えて資産を運用しており、今回は株安や債券利回りの低下による重荷ものしかかる。英ロイズは運用面のコストを960億ドルと見積もる。

金融大手UBSは「コロナは市場の転換点になる」として保険料上昇を見込む。感染症のリスクを契約に明示するよう慣行が変わる可能性もある。