2024年問題が修学旅行を直撃 バス運転手を確保できず 路線バスの大幅減便も
(産経新聞 2024年5月22日)
https://www.sankei.com/article/20240522-VXAH6FBNTJO3ZPTPOSQYYCS4J4/
【ホッシーのつぶやき】
修学旅行の貸し切りバスが手配できない事態が発生している。理由は「2024年問題」。全国のバス運転手は24年度10万8千人だが、30年度には9万3千人に減少するという。バス業界は「現状でも休日出勤などで対応」しているといい、運転手の時間外労働上限が年360時間に抑えられ、運転手1人が働ける時間が短くなると、従来の便数を維持するにはより多くの運転手が必要になるためだ。
運転手の労働条件を改善することは必要だが、路線バスの運行を取りやめる事態にまで発展するのは、性急すぎる改革に問題があったのではないか。
【 内 容 】
バス運転手の時間外労働時間の上限が規制される「2024年問題」をめぐる人手不足が修学旅行にも影響している。旅行業界大手の近畿日本ツーリストが中学校の修学旅行で貸し切りバスを手配できず、一部行程を変更する事態となった。修学旅行以外でも路線バスが大幅な減便に追い込まれるなど、バス運転手不足の市民生活への影響は深刻だ。
「修学旅行の貸切バスの確保の不履行について」
今月13日、KNT-CTホールディングス傘下の近畿日本ツーリスト(東京)は、東京都内の中学校に通う生徒の保護者に対し、バスの手配ができなかった旨を伝える文書を配布した。
運転手不足と時間外労働の上限規制により、バス会社から断りの連絡があったと書かれており、交流サイト(SNS)上に文書が投稿されると「大手が断られることがあるのか」といった驚きの声が広がった。
近ツーによると、新大阪発奈良行きのバスを確保していたが、学校側と相談して京都発に計画を変更。改めてバス会社に依頼したが、新たなバスを確保できなかった。同社の担当者は「バス会社側に落ち度があったわけではない。手配できなかった理由も確認したわけではなく、あくまで憶測。誤解を生む文書を配布してしまい申し訳ない」と説明した。
別の中学校1校でもバスが手配できなかった。ただ、いずれも鉄道などの代替手段で対応できるという。生じた料金の差額は保護者側に返金するとしている。
一方、富山地方鉄道(富山市)では修学旅行のバス運転手を確保するため、5月10~17日の高速バス計60本を急遽(きゅうきょ)運休した。予約受付を開始してから運休する異例の対応で、すでに高速バスを予約していた人には料金を払い戻した。
運転手不足は修学旅行以外の市民生活にも影響。千葉県は17日、県内35のバス事業者を対象にした調査で、4月時点の路線バス総便数が半年前から約1900便減ったと公表した。約8割の事業者が4月に導入された運転手の残業規制強化を理由に挙げた。
横浜市交通局は4月、全体の3・1%にあたる290便を減便。さらに22日にも77便を減便した。秋にもダイヤ改正を予定するが、担当者は「楽観的な見通しはできない」と明かす。
人手不足の緩和に向けた取り組みも進む。大阪メトロは4月、子会社の大阪シティバスの路線バスについて、乗客が少ない路線を小型バスに切り替える検討を進めていることを明らかにした。
大型バスの運転には大型2種免許が必要だが、小型バスならタクシーと同じく普通2種免許で運転可能。大阪メトロによれば、普通2種免許は大型2種免許より保有者が多く、取得に必要な期間も通常は短いため「運転手の人材確保がより容易になる」という。
京都府バス協会は今年1月、バス運転手の人材確保に向け、バスの乗車体験や運転技術を披露するなどのイベントを京都市内で開催。約200人が参加し、その後のバス会社の採用活動に応募した人もいたという。(桑島浩任、黒川信雄、重川航太朗)
長期的に運賃上げ 待遇改善を 近畿大経営学部・高橋愛典教授
バス業界はかつてコストの8割を人件費が占めていた時代があり、20年ほど前から運転手の給与を下げる方向にシフトしていった。安い賃金で若い運転手を雇い業界全体の延命を図ったが、責任に比べて給与が安いと感じる人が増え、人手不足の原因となった。
その背景には、公共交通ということで、長らくバス運賃が上げられなかったことがある。運転手の待遇を根本的に改善するには客単価を上げるしかないが、市民の足として難しい面はある。
また、近畿日本ツーリストのような最近のバス手配の混乱は、運転手の引き抜き合戦も影響しているのではないか。急に人が減るので対応ができなくなってしまう。修学旅行は優先して人員を充てているはずだが、「2024年問題」もあって想像以上に大変な状況になってしまっている。
短期の対策としては市民に修学旅行などの繁忙期を周知して路線バスの減便などを受け入れてもらうしかない。長期的には運賃を上げて運転手のなり手を増やしていく必要がある。(聞き手 桑島浩任)
2030年度には3・6万人不足
バスの運転手不足は全国で深刻化している。
日本バス協会が2023(令和5)年9月に公表した推計によれば、全国のバス運転手の人数は24年度時点で10万8千人だが、30年度には9万3千人にまで減少する見通しという。
協会によれば、バス業界では「現状でも休日出勤などで対応している。それでも対応しきれない事業者では、都市、地方問わず、路線バスの減便などが発生している」という。
状況に拍車をかけるとみられるのが、今年4月から運転手の時間外労働の上限が原則、年360時間に抑えられるなどして人手不足が懸念される「2024年問題」だ。運転手1人が働ける時間が短くなるため、従来と同じ規模の便数などを維持するには、より多くの運転手が必要になる。
協会によれば、22年度と同じ運輸規模を確保するのに必要な人数(12万9千人)と比べて、30年度には3万6千人も不足する見通し。協会は「運転手を確保できなければ、路線バスの減便や廃止、貸し切りバスの受注制限の拡大は避けられない」としている。
24年以前から、バス業界の苦境は続いている。国土交通省によれば、10~21年度にかけ、全国で廃止されたバス路線は1万5332キロメートルに及んだ。背景には、沿線の人口減少のほか、マイカーの普及などで、バス会社の経営が慢性的に悪化していることがある。
さらに打撃となったのは新型コロナウイルス禍だ。協会の推計によれば、コロナ禍が本格化した20~22年度の3年間で、全国の路線バス会社の赤字額は合計4348億円にのぼった。国交省によれば、21年度は全国の路線バスや高速バスなどを含むバス事業者の94%が赤字に陥った。(黒川信雄)