カンデオホテルズ、稼働率8割の奥義 家族客途絶えず
(日本経済新聞 2022年5月日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2038X0Q2A420C2000000/

【ホッシーのつぶやき】
22年4月のカンデオホテルズの稼働率80%台。20年4月10%台、21年は年間60%というからその人気ぶりは凄い。「ビジネスホテルでも高級ホテルでもない『四つ星ホテル』を目指す」という。
カンデオの平均客室単価は1万1000円。20平方メートルとやや広め。大浴場とサウナを最上階に設置。朝食はホテル内調理と魅力的だ。
カンデオは全国に23棟、4235室で、24年夏までに5棟、約1500室増やす計画だという。
魅力的なホテルが増えることは観光の質を上げることになりそうだ。

【 内 容 】
独立系ホテルチェーン「カンデオホテルズ」が新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中で集客している。2020年4月に稼働率は10%台まで落ち込んだが、足元は80%台まで回復した。ビジネスホテルでは味わえないサービスを味わえる。でもシティホテルほど高額ではない。そんな消費者のニーズに応えるホテル作りの内側を探った。

京都・烏丸にあるホテル「カンデオホテルズ京都烏丸六角」は、訪日外国人客(インバウンド)がいない中でも客足が途絶えない。緊急事態宣言が発令された21年6月に開業した。京都市の有形文化財である京町家を改修し、1日60食限定の朝食は京都の「おばんざい」を楽しめる折詰で提供する。朝食付きで1泊9000円台からとビジネスホテルより2~3割高いが、家族連れやカップルが利用している。

カンデオホテルズを運営するカンデオ・ホスピタリティ・マネジメント(東京・港)は穂積輝明社長が創業した。07年に第1号店を開業した。現在は栃木から熊本まで全国に23棟、4235室のホテルを展開する。

カンデオホテルズの稼働率は緊急事態宣言が発令された20年4月は10%台だったが、21年は年間で60%台に回復した。同時期の全国のビジネスホテルやシティホテルは30~40%にとどまっていた。
22年4月は80%だったもようだ。東京・六本木や新橋のホテルは90%とコロナ前とほぼ変わらない。

なぜ客足が戻っているのか。「ビジネスホテルでも高級ホテルでもない『四つ星ホテル』を目指してきたことが実を結んでいる」と、穂積社長は語る。

穂積社長が言う四つ星ホテルとは、ビジネスホテルよりもデザイン性が高くて独自のサービスを提供するが、高級ホテルよりも気軽に泊まれるホテルを指す。

ハード面では客室は20平方メートル台が中心で、一般的なビジネスホテルより広めにして、部屋でゆったり過ごせるようにした。広くすることで客室数は減るが、宿泊単価や稼働率を高められる。
また全てのホテルに大浴場とサウナを設置した。「非日常を味わってもらえるよう、最上階の設置にこだわった」と穂積社長は話す。ホテルにとって大浴場は、コスト削減にもつながる。各部屋のユニットバスを利用してもらう場合よりも、光熱水費や清掃費は少なくなるからだ。

地域にちなんだ朝食メニュー提供
ソフト面では朝食にこだわった。ビジネスホテルの朝食の多くは、外部業者が作ったものを毎朝取り寄せている。カンデオはホテル内に調理場を設けて、作りたてを提供している。
その地域にちなんだメニューを用意することもある。松山市のホテルは鯛めしを提供している。ビジネスホテルで朝食サービスを利用する人は3割程度といわれるが、カンデオは5割を超え、客単価を高めている。
カンデオの平均客室単価(ADR)は1万1000円(21年12月)だ。共立メンテナンスが運営するビジネスホテルの「ドーミーイン」は9300円で、西武系の「プリンスホテル」は1万3000円と、カンデオはビジネスホテルとシティホテルの間の料金帯にしている。

足元は客足を戻しているカンデオホテルズだが、これまでの道のりは平たんではなかった。2000年代半ば、穂積社長はホテル市場への参入を模索し、年間250日前後を出張先のホテルで過ごした。その中で感じたのが「ビジネスホテルと高級ホテルのちょうど中間のホテルがほしい」ことだった。そうしたホテルは日本にほとんどなく、潜在需要があると感じた。
だが、07年の1号店開業直後は顧客の反応が芳しくなかった。「ビジネスホテルの割に価格が高い」「シティホテルかと思ったらレストランの種類が少ない」などの意見が多く寄せられた。

1号店開業から3年ほどたったころ、風向きが変わり始めた。出張で利用したビジネスマンが、家族を連れて再利用する例が出てきた。「口コミが広がる中で、需要が顕在化してきた」(穂積社長)。出張時の宿として使ったがビジネスホテルで味わえないサービスを体験し、家族旅行でも使おうとする人が増えた。

大阪に旗艦ホテル
カンデオは24年夏までに現在より5棟、約1500室増やす計画だ。カンデオが狙う「四つ星ホテル」の国内市場規模は10万室程度とみており、将来はその1割に相当する1万室まで増やそうとしている。
その中で、24年夏に大阪・堂島で開業するホテルは「過去最高グレードの星4.5」(穂積社長)に設定した。同社で最大規模となる548室を持つ旗艦ホテルと位置づけている。
ただ穂積社長は「あくまでカンデオは四つ星ホテル。五つ星は目指さない」と話す。五つ星ホテルになると設備への投資も大きく、チェーン展開には向かないとの判断からだ。

採用は学歴・職歴不問
カンデオは社員の採用や育成にも工夫をこらしている。採用では学歴や国籍、性別、職歴などは一切問わない。「接客業のホテルには、やる気がある人に来てもらうことが1番大事」(穂積社長)という考えが背景にある。
カンデオは部長や課長などの役職を置かない。独自の資格制度があり、能力に応じて資格や給与が上がるようにした。資格は新設されるものも多い。「セキュリティは任せてほしい」など、本人の希望や適性に合わせて作られる。
プロジェクトごと「責任者」を置くが、推薦制だ。周囲のスタッフが日ごろの働きぶりを見て推薦状を書く。責任者は永久的な地位ではない。

従業員に新しい働き方を提案
アルバイトが社員になり、ホテルの責任者になることもある。「カンデオホテルズ大宮」(さいたま市)の責任者であるアルパナ マハルジャン氏は2014年に日本の大学を卒業後、最初はアルバイトとしてカンデオに入った。いくつかの店舗を経て、カンデオで最大規模となる大宮のホテル責任者となった。能力に応じた役職を与えられることで、社員が自発的にサービスの質を高めているという。
積極出店しているカンデオだが、課題もある。一つは建物や土地のオーナーに支払う賃料の仕組みだ。

「固定賃料制」がリスクに
ホテルの運営方法は4つに大別される。土地や建物も所有する直営型、土地や建物を所有するオーナーに賃料を支払って運営するリース型、オーナーから運営料を受け取りホテル運営するMC型、そしてフランチャイズチェーン(FC)型だ。
カンデオはリース型だが特殊な方法をとる。オーナーに毎月、一定の賃料を支払う「固定賃料制」だ。穂積社長は「コロナ禍でも賃料を下げたことは一度もない。リスクを軽減したいオーナーから引き合いが増えている」と話す。リース型でも売り上げなどに応じて賃料が変わる「変動賃料型」を採るホテルが多い。
だが、固定賃料制は客足が急減して売り上げが落ち込んだ場合、賃料負担が大きくのしかかる。コロナが再び流行して、稼働率が大きく落ち込むと、カンデオの収益が悪化する懸念がある。
また、現在の建材費高騰が今後の成長の足かせになる可能性がある。カンデオは固定賃料制を取る代わりに、建材費や家具の一部をオーナーに負担してもらう場合もある。だがホテル業界に詳しいデロイトトーマツグループの伊藤雅之パートナーは「今後作るホテルは、計画時より総投資額が増えることになる」と指摘する。投資額を抑えようとすると「客室などが中途半端で魅力に乏しい施設になるリスクがある」(伊藤氏)。
穂積社長は「ほかのホテルチェーンと資材の共同購買を検討していきたい」と言う。ほかのビジネスホテルより資材費がかさむだけに、対策は急務だ。

「四つ星ホテル」に競合
人材の育成も課題だ。ビジネスホテルより高い価格を設定するだけに、それに見合うサービスが求められる。内部で人材を育成するなど、サービスの品質を保つことがカンデオの成長に欠かせない。
カンデオが掲げる「四つ星ホテル」を巡っては、三井不動産が展開する「三井ガーデンホテル」が競合といえる。同ホテルは客室やサービスの質を高めた「三井ガーデンホテル プレミア」を全国につくっている。24年夏には、京都市内に開業する予定だ。
新型コロナが引き続きまん延するなかでも、国内のホテル市場は少しずつ回復している。外資系高級ホテルの出店拡大や、星野リゾートのような大手の出店攻勢も目立つ。その中でカンデオホテルズがオンリーワンのホテルとして存在感を高められるか。「四つ星」の今後の戦略に注目が集まる。