DMOのあり方とは? 世界観光機関(UNWTO)報告書から読み解いた【コラム】
(トラベルボイス 2020年2月3日)
https://www.travelvoice.jp/20200203-138585

DMOの定義は解りにくい。観光だけに関わらず、行政は行政の区域の課題解決に取り組み、国も行政に対して助成や制限をかけている。
「日本版DMO」では「観光地域」が何なのか明確な記載が無いという。日本で行政の壁を超えたDMOを形成する場合、新しく地域指定のルールを策定する必要があり、今、試行が始まっているのだろう。
しかし、行政区域を超えた「観光地域」を形成するのは難しい。

【ポイント】
観光地を取り巻くパラダイムの変化
UNWTOは国連機関の観光組織です。1975年に発足し、2019年1月現在、加盟国158ヵ国、加盟地域6地域、500以上の賛助会員で活動している。
UNWTOは、観光によるマイナスの影響を最小限に抑えつつ、観光が社会経済に最大限寄与することを目指している。また、SDGsの観光部門にも取り組んでいる。

今回ご紹介する報告書は、「DMOは新しい課題に備える」。
この課題とは、これまでなかった宿泊、航空券の予約のデジタル化やオーバーツーリズムなどの持続可能な観光が挙げられている。

UNWTOは、DMOについても定義しており、日本版DMOの定義は実質的に同じです。
• DMOは、関係する行政、ステークホルダー、専門家などを取りまとめ、観光地域を牽引する機関である。関係者が共同で作成する観光地域のビジョンについて、達成を支援する役割を果たす。
• DMOの組織構造は、単一組織から官民パートナーシップなど形式は様々。観光政策の採用、戦略の策定、観光商品開発、マーケティングやプロモーション活動、コンベンションビューローなどの活動を始動し、調整、管理を行う。
• DMOの範囲は、現在あるいは潜在的な観光ニーズ、あるいは行政機構によって国、地域、地区などのレベルは様々である。また、必ずしもすべての観光地域がDMOを持つ必要はない。

実は、「日本版DMO作成の手引き」第3版では「観光地域」が何なのか、詳しい記載がありません。UNWTOは、観光地域を次のように定義している。

• 観光地域は旅行者が宿泊できる場所を含む地域。行政区域と同一か否かに関わらず分析などに対応できる一定範囲。
• 観光バリューチェーンに沿った観光商品、サービス、活動、経験が集積、連携し、それらの分析ができること。
• 多様なステークホルダーを包括し、連携することでより大きな観光地域を形成することができる。さらに観光地域の市場優位性に影響を与えるイメージやアイデンティティなど無形資産がある。

観光地域にとって「宿泊施設」は、バリューチェーンに欠かすことができない必要要件。旅行者の消費は、観光施設などの点の集合ではなく、観光地域を面でとらえ、バリューチェーン全体で付加価値を生み出せるように管理することが重要なのです。

本報告書では、戦略策定について、DMOの組織と、観光地全体で説明している。
DMOの戦略とは、DMOの組織単体での戦略です。一方、観光地域全体の戦略は、地域の事業者、ステークホルダー、住民など関係する人が力を合わせて達成するものです。
2018年に日本の都道府県の観光推進計画の調査では、都道府県の行政組織として取り組む内容と、地域全体として達成する内容が混在しているものがありました。
役割が違う2つの戦略があることを知っておく必要があります。

報告書では、ガバナンスの重要性も触れられています。
DMOの活動が適切であるか、計画したとおりに実行できているか、目標の成果が得られているかを内部で統制し、外部から監査されなければなりません。

オーバーツーリズムのガバナンスを考えてみましょう。
旅行者の増大によって、観光事業者は利益を得ます。しかし、そのツケが地域住民に押し付けられていることが問題です。
DMOとしては良かれと思って誘客しても、それで社会や環境に過重に負荷がかかるなら、観光地域にとって健全な成長とは言えません。
ガバナンスとは、このような不都合な成長を避けるための仕組みで、戦略や運営内容を監査する委員会の設定などがあります。

報告書の冒頭で「どんなDMOにも当てはまる万能の教科書はない」と明言しています。
観光地域は、保有する観光資源、規模、立地条件などが様々なので類型化は難しい。その一方で、観光地域は必ず差別化できる、ということの証とも言えます。