旅行業界が注目する新セグメント「LGBTインバウンド」とは
(日経クロストレンド 2020年2月18日)
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00189/00007/

LGBTについてあまり関心がなかったが、世界中の旅行客の10%以上で、総旅行支出の約16%、年間支出額が1950億ドルに上るという。LGBTは、家庭や子供を持つ人が少なく、故にカップルで旅行する頻度や消費額が高く、高所得者が多いようだ。
LGBT観光客を引きつけるポイントは、好奇の眼を向けず、LGBTの人たちがありのままでいられる環境を提供することだという。

【ポイント】
世界最大級の国際観光展示会「FITUR(フィトゥール)2020」が2020年1月22~26日にスペインの首都マドリードで行われた。
スペインは世界2位の外国人訪問客数を誇る観光大国で、2019年は約8370万人の観光客が訪れた。
観光国スペインで世界最大級の国際観光展示会「フィトゥール」には19年より2000人も多い25万3000人が来場し、世界165の国と地域がブースを構えた。年々注目度が高まり、大々的にプロモーションを展開しているのが性的少数者(LGBT)ツーリズムのセクションだ。

LGBTエリアでは、スペイン国内の市や州、IGLTA(国際ゲイ&レズビアン旅行協会)などが、LGBTの人たちが楽しめるゲイエイリア、バー、レストラン、ホテルなどを紹介している。それと同時に、それぞれの町や州がLGBTに対していかにフレンドリーかをアピールしていた。
“LGBTフレンドリー国”を掲げているスペインだが、国内でもバルセロナのシッチェス市、マドリードのチュエカ地区、マラガのトレモリーノス、グラン・カナリア島のマスパロマスなどはLGBTの人々が多く訪れ、自治体もその集客に力を入れている。
近年、アジアではタイや台湾、中南米の国々ではアルゼンチンやウルグアイ、チリなども同性婚を認めたり、合法化を試みたりすることが、LGBTツーリズムの強化につながっている。

LGBTとは、L:レズビアン(女性同性愛者)、G:ゲイ(男性同性愛者)、B:バイセクシュアル(両性愛者)、T:トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の総称の言葉だ。
近年、このLGBTツーリズムが注目を浴びている。
世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によると、現在LGBTは世界中の旅行客の10%以上、総旅行支出の約16%を占め、年間支出額は1950億ドルにも上っている。
LGBTの人々は旅行好きで、パスポート取得率は2倍以上。家庭や子供を持つ人が少なく、カップルなどで旅行する頻度や消費額が高い。高所得者が多いこともあり、富裕層マーケットの一つと見なされている。

スペインはLGBTインバウンドで成功している国の一つだ。
観光収入60兆円の内、10%をLGBT観光客が占めている。国を挙げてLGBTフレンドリー国をアピールしており、05年、オランダ、ベルギーに続いて同性婚を認めた。
LGBTに対する国内の理解も進み、それがLGBTツーリズムのビジネスが成功するきっかけとなった。
マドリードで開催される「Mr.Gay Pride(ミスターゲイプライド)」は欧州で1番、世界で2番目に大きな規模として行われている。それ以外にも年間を通して、Gay Day(ゲイデイ)などLGBTにまつわる多彩なイベントが頻繁に行われている。
それらのイベントやプロモーションを企画運営しているのが、マドリードのJN GLOBAL PROJECT社だ。

年々LGBTインバウンド関連の収益は増加しており、LGBTに対する世界的な関心とともに、ニーズが高まっている。ビジネス展開はLGBT旅行客専用のホテルの手配、グループツアーの企画、結婚式など多岐にわたる。
LGBTの旅行は「旅行自体は、観光地へ行ったり、ホテルに泊まったり、おいしいものを食べたりと一般の旅行と大きな違いはない。それに加え、LGBTの人たちが集まるエリア、バー、レストランへ立ち寄ることや、イベントへの参加などが異なる点と言える」

LGBT観光客を引きつけるための3要素、
①現地の人のLGBTへの理解度だ。ホテルでチェックインをする際、「ツインにしますか?」ではなく「ダブルの予約でよろしかったですね?」など自然に聞く気遣いが大事だ。
結婚式も同様で、スタッフが偏見を持って彼らに対応していたら祝福されている気分にはなれない。周囲の人が偏見を持たずに接することは、LGBTの人たちが心地よく旅をするために重要である。
②その場所が文化的であること。美術や文化的なものに触れる機会はLGBT旅行者でなくても大事な要素だ。そうした面でロンドンやマドリード、パリなどは人気の都市だ。
③LGBTに関連したイベントや催し物が行われていること。イベントがあれば、それに参加しながら観光も楽しめる。
LGBTの人たちがありのままでいられる環境。手をつないで歩いたり、振る舞いや行動に対して、周りの人々が偏見を持った目で見ないことが、彼らが心地よく旅を楽しめる大きなポイントである。

日本でもここ数年、東京を中心にゲイパレードやLGBTのイベントが行われるなど、LGBTへの理解を深める活動が目立つようになってきた。東京都内には数百件のゲイバーなどが密集するエリアがあり、テレビで活躍するLGBTの有名人が何人もいる。

日本へパートナーと一緒に2回旅行したときの経験によると、「ゲイが集まる地区やイベント情報はブロガーから集め、東京、大阪、京都などを楽しんだ。ホテルにも泊まったけど、偏見的な視線を向ける人は誰もいないし、とてもホスピタリティーにあふれていた。ゲイタウンではお店にゲイの店だと分かりやすい看板が付けてあったのはすごく助かった。日本は文化的財産がとても多い国で、LGBTインバウンドのポテンシャルがとても高い国だと思う」という。

今後日本がLGBTフレンドリー国になっていくためには、偏見を持たないことも当然ながら、同性婚の合法化や、国や地自体のリーダーが、LGBTツーリズムに目を向け、理解を深めることがポイントとなる。