「中国人観光客依存」の怖さを台湾で見る、波が引いたその後は…
(ダイヤモンドオンライン 2019.5.2)
https://diamond.jp/articles/-/200836

中国大陸からの訪台旅行は2015年には418万人に達した。2016年に民主進歩党が政権を奪還し、訪台大陸客は減少、2018年には269万人となった。
訪台大陸客で恩恵を受けた台湾の観光産業は、次々と中国資本に買収されていったという。
今、東南アジアからの訪台客が増加し、2018年は1106万人と、2年間で37万人増(3.4%増)となった。
「タマゴは一つのカゴに盛るな」「ブームはいつまでも続かない」ということも認識しなければならない。

【ポイント】
中国大陸からの訪台旅行が始まったのは2008年。政権に就いた国民党の馬英九総統は台中融和路線のもとで、大陸から団体旅行や個人旅行を多く受け入れた。
任期中の8年間で大陸客は増え続け、2015年には418万人に達し、143億米ドルの観光消費がもたらされた。

2016年に民主進歩党が政権を奪還し、「一つの中国」原則を拒む蔡英文政権が発足するや、中国政府は団体旅行客の渡航を制限。団体旅行者に対しビザ発給を制限した。
その結果、2015年をピークに2016年は351万人、2017年は273万人、2018年は269万人と、訪台大陸客は減少した。

高雄市の運転手によれば、「商売あがったり」だというが、別の運転手は「大陸からの観光客を相手にしても、彼らは儲けさせてくれない。大陸の客は団体が多く、タクシーを使わない」という。
「物を買ってくれるのは有難いけど、所構わずゴミを捨てるから街が汚れる」と嫌っているともいう。

台湾が訪台大陸客で恩恵を受けたのは、宿泊施設、観光バス、飲食、免税店、土産物店とそのメーカーなどで、訪台大陸客の増加とともに事業者は雨後の筍のごとく増加したが、しばらくすると観光関連産業は、次々と中国資本に買収された。

台湾行きの団体ツアー価格は激しい競争にさらされ、年々利幅を薄くした。それに伴い、ツアーに組み込まれる宿泊費、食費も削られ、ツアーの質の低化が始まった。ツアー商品では利益が出せないため、ガイドは実入り確保のために観光客を免税店に連れて行きリベートを取るようになった。
台湾観光とはいえ、しょせんは中国資本に押さえられたルートを回遊するのが実態となった。

台湾の生活習慣も脅かされた。
台湾の飲食店は人数分の注文をしなくても『2人で1人前』という消費に寛容だった。
10人の訪台大陸客がフードコートで席を取り、たった1つのカキオムレツしか注文しない“1つの皿に割り箸10本”が大きな話題になったこともある。

台湾の面積は3万5980㎢で九州の面積に近い。そこに年間400万人の大陸の観光客が訪れれば、市民生活もダメージなしでは済まされない。
新幹線の停車駅には「切符に書かれた座席に座りましょう」という掲示物があり、車内では「低い声で話しましょう」という注意喚起アナウンスが流れたりするのも、狭い台湾に400万人が押し寄せた名残だ。

台湾は東南アジアに活路を見出した。タイからの訪台客は2016年に19.5万人だったが、2018年には32万人、ベトナムからの訪台客は19.6万人から49万人に増えた。日本からの訪台客も約189万人から約196万人に増えた。訪台客を総合すれば、2016年の1069万人から2018年は1106万人と、2年間で37万人増(3.4%増)となっている。
一方で、消費は落ち込んだままだ。訪台客の平均消費額は、ピーク時の2015年に1378米ドルを数えたが、2017年には1147米ドルに下落した。大陸の観光客が観光消費に貢献していたのは明らかだ

『(大陸に比べて)遅れている』『(見るべきものは)何もない』『何も発展していない』――。台湾に大陸の観光客が来なくなったのは、こうした口コミもあるという。

台湾が10年あまりのインバウンドで学んだことは、政治リスクゆえ「タマゴは一つのカゴに盛るな」という投資分散の考え方と、「ブームはいつまでも続かない」という現実だった。
市民の心には「数を受け入れれば、相手に冷淡にならざるを得ない」という後悔も残った。
「インバウンドとは数ではなく質」――台湾の人々が身をもって経験したこの教訓は、今の日本にも通じるものがある。