「何が地方を起こすのか」 ~観光振興と地方創生の原動力とは~
 株式会社パソナグループ顧問  中村 稔 様
(観光のひろばZOOM 2021年11月18日)

【ホッシーのつぶやき】
「何が地方を起こすのか」、”地方創生とは何か””何のために振興するのか””誰がやるのか”が、よく理解できる講演でした。
・GDPの7割は地方にあり、地方が元気になることが日本経済を元気にする
・住民が「シビックプライド」を持つ
・価値づくりを拡大再生産するため「プラットフォーム」が必要
・「大粒(OTUB)の感動」、O美味しい、T楽しい、U嬉しい、B勉強になる
・やる気(行動を起こす)、本気(継続する)、勇気(壁を乗り越える)
・K(気づく)、M(磨く)、H(発信する)、U(受け入れられる)

【 内 容 】
私は、広島市の出身で、昭和61年に今の経産省に入省し、去年の夏に退官後、10月からパソナの顧問となり、現在は単身赴任で淡路島にいます。
経産省に入省後20回のポストを経験しました。平成5年からは在ポーランド日本国大使館で外交官として共産主義から資本主義に変わる激動の時代を経験し、その後、中東やアフリカ、石油、原子力、サイバーセキュリティなどエネルギー・安全保障関係の仕事をしました。また近畿経済産業局の総務課長と総務企画部長、兵庫県の産業振興局長や産業労働部長と地方に赴任して地域振興に携わり、兵庫県では観光ツーリズム推進本部の事務総長を兼務して観光振興も担当しました。

「地域経済振興を考えるポイント」ですが、まず「何のために振興する」のかが大事です。マクロの視点では、日本のGDPの7割は地方にあり、地方が元気になることが日本経済を元気にすることになります。ミクロの視点では、アニメの聖地巡礼のように地域をブランド化し、「オラが町にはこんなに立派なものがある」「こんなに美味しいものがある」と、住民が「シビックプライド」「誇り」を持つようになることが大事で、地域振興にはこうした意義があります。
地域には「宝の山」があるのですが、地元の人に聞くと「宝」だと思っていないことが多いです。私は淡路島の西海岸に住んでおり、夕日が落ちる時がとてもキレイのですが、地元の人にとっては毎日のことであり「当たり前」と思われています。この「宝の山」をどう活用するか、観光や商品・サービスへ展開して、地域の魅力を高めることが大事だと思っています。こうした魅力こそが日本のソフトパワーになります。

100年前にトルコの軍艦「エルトゥールル号」が和歌山沖で遭難した時、和歌山の漁師さんが命がけで助けてくれた話ことが、イラク戦争の時に「100年前の恩返し」として、テヘランに取り残された日本人をトルコ航空機が救ってくれたことに繋がりました。その海難事故の話はトルコの教科書に載っており、トルコ人は皆んな知っていると言います。これが親日感情となり、ソフトパワーとして日本人が救われたのです。

京都に中国人観光客が押し寄せてきた時の話です。バスガイドさんが「京都は千年の都」と言った時、「中国は4千年だぞ」とブーイングが起こったのですが、「このお寺は唐の様式です」と言ったところ、バスから降りて、出発時間になっても戻ってこない現象が起こったと言います。中国では王朝が変わる時に、異民族の王朝は過去の文化を破壊していました。近年では毛沢東の文化大革命でも破壊され、唐の時代の良いものはほとんど壊れているのに、日本には1000年前の唐の文化が完璧な形で保存されていると尊敬の眼差しに変わったと言います。このように「観光の力をバカにしてはいけない」のだと思います。

兵庫県の観光戦略会議で、城崎温泉の老舗の社長さんに「社長さんにとって、観光とは何ですか」と質問したところ、「私にとって観光とは、“生き様”を見せることです」と返事がありました。観光は、人に来てもらって地域を見てもらうことですから、例えば「人を迎えるため掃除をする」。これは来訪者のためなのですが、これが自分にも住みやすさとして返ってきます。まさに「情けは人の為ならず」です。

これからの観光戦略には、「大粒(OTUB)の感動」を味わってもらうことが大切だと思っています。Oは「美味しい」、Tはエンターテイメントをなどで「楽しい」、Uは良いサービスを受けて「嬉しい」、Bは「勉強になる」です。最後の「勉強になる」は、ウンチクを持つと人に喋りたくなる。だから勝手に人が宣伝をしてくれるようになります。「大粒(OTUB)の感動」を感じてもらうため、いかに価値づくりをするかが大切だということです。

自然が歴史や文化に大きな影響を及ぼします。「ブラタモリ」で、淡路島は太古の昔は湖の底だった所が隆起してできたと紹介されていました。堆積物は重いものから沈んでいき、一番軽い砂などが湖の底に沈殿したため、淡路島ではきめの細かい粘土が取れて、それが「淡路瓦」の原料になりました。そういう背景をストーリー化して、発信する。価値づくりが重要です。その価値づくりを拡大再生産するためにも「プラットフォーム」を作っていく必要があります。

「プラットフォーム」を作るのを日本は苦手としますが、うまくいった事例に「Jリーグ」があります。日本のサッカーは、昔、ノンプロしか無く、昼間仕事をして夕方から練習をしていたので、とても弱かったのですが、プロリーグが誕生したことによりレベルも上がり、サッカー選手を目指す子供たちも増えました。このように裾野が広くなければ、山が高くならないので、プラットフォームが重要になります。
また、人材を育成するための「プロデューサー育成」も重要です。人材は色々なプロジェクトに挑戦する中で磨かれるものです。このように仕掛けやプラットフォームを作って、これらを利活用する経験を蓄積しながら、人材が磨かれることが大事だと考えています。

「日本アニメランド構想」の話をします。アメリカのオーランドは、その昔、ワニとブヨしかいない湿地帯でしたが、今では年間6兆円を生んでいます。オーランド国際空港には世界中から直行便が来ており、家族連れで出張にきたお父さんは国際会議などの仕事をし、家族は「ディズニーワールド」で遊んでいて週末に合流する。これもウォルトディズニーが仕掛けを作って成果を生んだものです。このように仕掛けや仕組みを作った者が勝つと思います。
今から10年前にパソナの南部代表に「日本アニメランド構想」の話をしました。日本のアニメは素晴らしいのですが、単にアニメを宣伝したいからではなく、プラットフォームを作って、アニメと、食、文化をタイアップさせる仕掛け、さらには、プロジェクションマッピングや3Dホログラムなどの技術の展示場にすることを提案したのです。漫画ポパイも、「ほうれん草を食べればポパイのようになれるよ」と言えば、子供はほうれん草を食べました。ポパイという漫画の登場人物でもこれだけの力を出すので、「アニメもバカにしてはいけない」と思います。このアニメをプラットフォームにしてはどうかと提案したのが「ニジゲンノモリ」のきっかけの一つになります。
そして、パソナが淡路島に来て累計430万人も来訪者が増加し、「ニジゲンノモリ」にも年間100万人が来訪しています。

この「日本アニメランド構想」について、様々な関係者に話をしました。「ディズニーランド」は世界中にあるが、日本にはこれだけ人気のアニメがあるのに「なぜ日本版のアニメランドはないのか」と聞いたところ、ディズニーは著作権も全て管理しているが、日本は作者とアニメ配給会社と出版社との間で一つの作品でも調整が大変なのに、たくさんの作品を集めることは絶対に出来ないと言われました。そうしている時に、兵庫県立淡路公園(130ヘクタール)を使って良いとの話があり、ここに手塚治虫の「火の鳥」、「クレヨンしんちゃん」、「ナルト」、「ゴジラ」、「ドラゴンクエスト」が集まって、「ニジゲンノモリ」として展開することになったのです。「絶対に出来ない」と言われたものが出来ました。日本(N)アニメ(A)ランド(L)構想は、まさに為せば成る(NAL)だったのでした。
今後、これを中東(ドバイ)、欧州(フランス)、アジア(ベトナム)、アメリカ(西海岸)に展開して、日本の食や文化や技術をからめて「日本は凄い」「日本大好き」を作っていければ素晴らしいことになると思います。

最後に“観光振興・地域振興のポイント”は、「やる気(行動を起こす)」「本気(継続する)」「勇気(壁を乗り越える)」の三つの気だ。そして、「K(気づく)」「M(磨く)」「H(発信する)」「U(受け入れられる)」、ダイヤの原石に気付いて、それを磨いて、情報発信しなければならない。多くのケースでは発信したところで止まってしまいますが、この磨いた宝を受け入れられるまで努力を続けなければならないと、講演を締めくくられました。