欧米豪の訪日客に人気の「熊野古道」、高評価の理由を分析してみた【コラム】
(トラベルボイス 2019年7月31日)
https://www.travelvoice.jp/20190731-134093

熊野古道は、外国人旅行者の約7割を欧米豪が占める。
「ロンリープラネット」の“Japan’s Top 25”の1つとして巻頭の特集ページで紹介されており、欧米豪から高い評価を得ている。
熊野古道を歩く外国人旅行者の72.4%が、熊野古道の魅力として「地元の人々」を挙げた。旅行者にとって最も身近な「地元の人」として、宿の主人や女将さんが魅力につながるという。
観光は「モノ」から「コト」へ、そして「ヒト」へと変わろうとしている。

【ポイント】
2018年の訪日外国人旅行者数は3000万人を突破しているが、韓国、中国、台湾、香港からなる東アジア4ヶ国の勢いにブレーキがかかっている。
2019年1~4月における韓国、台湾、香港の累計旅行者数はマイナスの伸び率となった。
一方、欧米豪市場の累計旅行者数の伸び率は、米国や豪州、英国などで前年同期比10%を超えている。

今回のコラムは、和歌山県の熊野古道沿いの4つの集落でおこなった調査結果にもとづき、現地が欧米豪市場に人気がある理由を「宿泊」の観点から考察する。

熊野古道は、欧米豪が外国人旅行者の約7割を占めると言われる地域(「平成29年 和歌山県観光客動態調査報告書」熊野本宮温泉郷における国籍別年間外国人宿泊者数に基づき算出)。
欧米豪で知名度の高い旅行専門誌「ロンリープラネット」において、“Japan’s Top 25”の1つとして巻頭の特集ページで紹介された経緯をもつなど、欧米豪から高い評価を得ている観光地。
調査は2016~2017年にかけて実施。熊野古道沿いの近露・野中・高原・栗栖川地区の4集落で営業する全宿泊施設を対象にヒアリングをおこなった。

宿の「小規模性」と「経営者」が熊野古道の魅力に
熊野古道を訪れる外国人旅行者の主な目的は、巡礼路「中辺路(なかへち)」を歩くこと。
中辺路とは複数ある熊野古道の1つで、和歌山県田辺市の市街地から熊野本宮大社に向かうルート。
市街地から熊野本宮大社までは約38kmの山道のため、旅行者は古道沿いに点在する集落に滞在しながら、1泊から2泊かけて熊野本宮大社を目指す。

熊野古道の魅力の1つが、旅行者からみた「地元の人」との交流。
古道沿いの集落にある宿泊施設は客室数が10室以下の小規模な民宿がほとんど。大規模宿泊施設のような豪華な設備はないが、宿の「小規模性」が魅力につながっている。
客室数が少なく小規模であるがゆえ、宿のご主人・女将さんと旅行者の距離が近くコミュニケーションが自然と生まれる点にある。食事時にはグラスを傾けながら旅行者とご主人が片言英語で話に花を咲かせる。
熊野古道を歩く外国人旅行者に行ったアンケート調査では、全体の72.4%が熊野古道の魅力として「地元の人々」を挙げた。旅行者にとって最も身近な「地元の人」として宿のご主人や女将さんが地域の魅力につながっている。

熊野古道における滞在が評価される背景には、UターンやIターンで地域に転入した人が経営する宿の存在がある。今回の調査では4集落の中でUターンやIターンの経営者による宿泊施設が約半数に上る。
宿の特徴は、経営者が地域外で培ってきた経験やノウハウが宿の運営やサービスに活かされている。
ある民宿では経営者が日本旅館の総料理長を務めた経験の持ち主で、個性的で上質な食事を旅行者に提供している。古民家を改装した一棟貸しの宿では、民間企業で役員を務めた経歴を持つ経営者が、効率的かつ旅行者の満足度が高い宿泊サービスを提供している。
紹介した宿はどちらも「トリップアドバイザー」で5.0ポイントの最高評価を受けている。