気鋭のスタートアップが変える日本の観光DX
カテゴリーセッション:観光DX 「気鋭のスタートアップが変える日本の観光DX」
(インバウンドサミット2021 2021年6月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=VQvCanTJZzI

山野 智久:アソビュー 代表取締役 CEO https://www.asoview.co.jp
加藤 史子:WAmazing 代表取締役社長    https://corp.wamazing.com
舘林 真一:SQUEEZE 代表取締役 CEO https://squeeze-inc.co.jp
大瀬良 亮:KabuK Style 共同創業者      https://kabuk.com

【ホッシーのつぶやき】
DX、それは「単なるデジタル化ではない」「経営につながる話だ」とお聞きしていましたが、具体的な事例をお聞きして良く理解することができました。
例えば、チェックインのデジタル化が叫ばれていますが、単にフロント業務を効率化するだけでなく、お客さんのチェックイン時間、チェックアウト時間を把握することで、清掃業務のアサインの最適化が図れ、人件費削減につながり、客室の稼働率を上げることも可能だとのお話をお聞きしました。
しかし「DXを推進する上での課題は、観光業界全体に抵抗感がある」とのことで、DXの提案には、ベネフィットの提供により、経営を安定させる考え方が大事だということも学びました。
インバウンドが戻る時、スマホが当たり前のデジタルネイティブ層が大挙してやって来ます。早くDX先進国としての準備を急がなければならないと感じました。

山野:まず「観光DX」を定義して始めたいと思います。「何故DXを使うのか」は、「観光事業者さんの経営の効率化、生産性向上」が挙げられ、「手段としてDXを使う」という筋立てになるとともに、「消費者の利便性向上」が目的になります。
まず皆さんから、「観光DX」でどのようなサービスを展開しているのか教えていただけますか。

館林:「観光DX」の領域で言いますと、宿泊施設において「スタッフさんのオペレーションの最適化」と「ゲストさんの時間の価値を最大化」により、物件の価値、サービスの向上につながると思っております。
今、東京、大阪、軽井沢、札幌で11棟を運営させていただきながら、自社の開発チームを持ち、宿泊事業者さんにソリューションとして提供する事業を行なっています。
また子会社として、カンボジアに日本語、英語、中国語で対応できるオペレーションセンターを持ち、ホテルのチェックイン・チェックアウトに対応しております。

山野:「スタッフさんのオペレーションの最適化」とのお話でしたが、働く人の何が問題で、何を改善するのでしょうか? また受付の最適化によって、ユーザーにどのような利便性が享受できるのでしょうか?

館林:ホテルは、清掃とフロント業務の従業員の人件費割合が3割から4割あり、コロナのような状況で売上が下がった時は収支に響きます。リピート業務やペーパーワークを自動化することで、人でしかできないホスピタリティー業務に従業員が専念できるよう、テクノロジーで自動化することを考えています。
例えばチェックインも、カンボジアのオペレーションセンターでオンライン対応が可能であり、ホテルの従業員はよりクリエイティブな業務やマーケティングに注力することができます。サービスレベルが向上するのでお客様満足度も上がります。
ホテル業界は、まだ紙でチェックインする習慣が多く、モバイルで完結させる取り組みを行っています。

山野:メチャメチャいけているプロダクトだと思うのですが、システムでやれる所を人がやる必要は無いですね。タブレットとバックオフィースでコスト削減に取り組んでいるとのお話ですが、清掃業務の最適化では具体的にはどのようなことをされているのですか?

館林:お客さんのチェックイン時間、チェックアウト時間は決まっている事が多いのですが、これは清掃作業の時間に起因しています。チェックイン時間、チェックアウト時間が分からないから、作業時間を固定化しています。これを事前チェックインでより正確に把握できるようになると、清掃のアサインを効率化できるので、従業員の最適化が図れます。
例えば、夜間にチェックアウトした部屋は、夜間に清掃を済ませ、直ぐに販売することもできます。インバウンドの場合、フライトの関係で夜間にチェックインし、早目にチェックアウトする方もおられるので、部屋を有効に活用できるようになります。

山野:DXにタイムマネージメントの正確性、効率性を担わせているのですね。どのようなカテゴリーのクライアントさんが利用されるのですか?

館林:数十棟持っているチェーンの「オペレーション構造を変える」クライアントさんには、DXコンサルとして入るし、モバイルチェックイン事業を受託するクライアントさんもいます。小規模事業者さんにはオペレーションもセットで受託運営するようなクライアントさんもいます。

山野:大手のチェーンさんだと、業務が細分化されているのでパッケージで提供するし、小規模事業者さんはオペレーションもセットで提供されている。まさにDXド真中の事業ですね。
それでは大瀬良さんのお話をお願いします。

大瀬良:「HafH(ハフ)」という定額制の「旅のサブスク」を運営しております。定額4プランからお選びいただいて、世界36カ国521都市から、定額で宿泊施設にお泊まりいただけるサービスを展開し、間も無く3年目に入ります。これまでのホテルは「週末に観光に行く場所」だったのですが、定額にすることによって、コワーキングオフィースとしての利用や、住まいとしての利用も出てきており、またワーケーションとして利用される会社員も増えています。
コロナ禍で苦しい極面もありましたが、契約数も過去最高を更新することができました。
DXとしては、JR西日本さんとご一緒して、皆さんの移動情報とJR西の予約情報を突き合わせ、新しいサービスを始めました。今、ハフのお客様限定でJR西エリアの新幹線が4割引になるサービスも展開しており好評です。
https://www.hafh.com

山野:JR西さんと御社が連携することにより、ユーザー行動データをJR西にフィードバックし、生産性向上に貢献しているという話ですね。そのデータ分析費用は貰っているのですか?

大瀬良:JR西さんも厳しい状況にあり、お客さまの新しい使われ方を模索されています。資本業務提携として出資をいただいており、データ分析費用は新幹線の割引をいただいていると考えています。

山野:とても素晴らしいシステムですが、どのような方が利用されているのですか?

大瀬良:一時、ADDressさんとか、定額住み放題サービスがあったのですが、市場としてはあまり大きくはありません。東京や大阪の都心にお住まいの会社員が、月に数泊使う方が多く、平日利用が65%を占めています。

山野:外国人利用と日本人利用の比率はどうなのでしょうか?

大瀬良:国籍や宗教に関係のないサービスとして、東京オリンピックに向けて事業を立ち上げたのですが、コロナ禍のため95%は日本人利用です。残りの5%にフォーカスすると、台湾で112箇所と提携しており、台湾の方が台湾でハフを使う利用が伸びており、今後、アジアへの事業拡大を考えています。

山野:あくまで居住地利用の方が多く、居住地を拡大することにより、多国籍でのトラベルまで利用が拡大するとの考えなのでしょうか?

大瀬良:おっしゃる通りです。ここ2〜3年でインバウンドが戻って来れば、「JRレールパス」+「ハフ」というように定額の中での、“移動し放題”というイメージが定着すればと思っています。ターゲットとしては、パソコン持ちながら旅をして働く人“デジタルノマド”です。後10年で10億人市場になると言われており、この市場を日本で掴みたいと思っています。世界ではバリのようなリゾート地が人気で、日本でも地方の可能性が高いと思っています。

山野:デジタルノマドの代表といってもいいWAmazingの加藤さんが、今、タクシーで移動中ですが、ご挨拶をお願いします。

加藤:WAmazingは、「日本中を楽しみ尽くしてもらう」ため、「文化や産業を掘り起こし、魅力を磨いて、価値を再構築して、ヒトとコト、ヒトとヒトを繋ぐ」をミッションにしており、訪日外国人向けの 「スマホ向けアプリサービス」 を提供している会社になります。
今回は「DX」がテーマなので、コロナ前に始めた「免税ECサービス」をご紹介します。訪日外国人市場で一番大きいのは“買い物代”であり、ここに注目したサービスです。
「免税」には「ビューティフリー」「TAXフリー」があり、「ビューティフリー」は、空港がやっている免税店で関税も免税になりますが、「TAXフリー」は、百貨店などで見かけると思いますが、消費税が免税になるものです。消費税は外国人の方は払わなくて良いので戻ってくるのですが、店舗ごとに手続きが必要です。ただ免税店になっていない店舗では消費税を支払わなければならないので、WAmazingでは、オンラインで消費税免税価格における販売をしています。通常「EC」は自宅に宅配されるのですが、外国人は日本に自宅がないので、出国する空港のカウンターで商品をお渡しするサービスであり、コロナ前に始めました。今はコロナ後に向けて再開の準備をしています。訪日外国人にとっては、いつでも・どこでも免税価格で買い物ができて、重いものも運んでくれる“手ぶら観光”になるものです。
「ビューティフリー」は関税が安くなるので輸入品が中心になり、日本の商品では日本酒やタバコなどが安くなります。ドラッグストアでの買物などは日本製のモノが多いので、消費税免税の「TAXフリー」で良いことになります。

山野:訪日外国人の方は、WAmazingさえダウンロードいただければ、wi-fiも無料になるし、情報取得、予約・購入もでき、関税も免税となるワンストップサービスを提供されているのですね。
皆さんのサービスをお聞きして、こんな良いサービス、非の打ち所がないと思ったのですが、多分そんなことが無くて、乗り越えなければならない壁や、事業発展の課題があると思います。この点はあまり言いたくない話だとは思いますが、お話ししていただければと思います。

館林:急に難しいポイントにきましたね。「DX」も言葉だけが先走っていて、事業者さんも「何をしたら良いのか分かっていない」のが実情です。
私は前職、トリップアドバイザーのシンガポールで働いていました。日本のホテルさんとの打ち合わせでも、「何をして良いのか分からない」状態にあり、ツールやソリューションありきでは抵抗がありました。上流の方と「経営の改善を一緒に考える」ように持っていかないと変わらないと感じました。ここが最も苦戦したポイントです。

山野:DXを推進する上で、事業者側のデジタルの苦手意識を取り払わないと進んでいかないとのお話だと思うのですが、一方で、デジタル庁ができたりして、「DX」の理解も進んだように思いますがいかがですか?

館林:コロナが追い風になり、急に変わり始めたと感じています。デジタル化を進めようとする方は増えましたが、「何をしたら良いのか」分からない状況は変わっていません。IT部門の社員の方は「経営方針」のような話は分かりません。DXはこれまでと異なり、経営に関する考え方になるので、我々がしっかりサポートしないと、次のステップに行けないと感じています。
最初は、ツールやソリューションから入って苦戦しましたので、今は経営陣の方と「経営を一緒に変えていきましょう」とのアプローチに変えて、そこからサービスの話に入るようにしています。言葉を変えると、「経営陣と仲良くなる」から入らないとダメだと実感しています。

山野:なるほど。コロナで潮目が変わったのですね。経営者自身が変わる意識を持たないとダメですね…
大瀬良さんのビジネスは難易度が高いと思うのですが、これからの展開において足かせになっているものはありますか?

大瀬良:事業者さんの感覚の違いを感じます。例えば旅館さんの場合、予約や「ハフ」を理解してもらうことへの難しさは感じています。これまで“おもてなし”は、リピーターになってもらえるか分からない中で、精一杯“おもてなし”をするパターンでしたが、「ハフ」のサービスは、連泊して、何回も行くという使われ方をするので、“おもてなし”も変化する必要があると思っています。その時に、旅館さんの食事のあり方も変わっていかなければならないと思います。これまでの観光は、非日常体験が求められていたのですが、コロナ禍では、日常の生活を求めて旅館やホテルを使われる点が変わってきた点だと思います。

山野: 観光でなくて、住まいに変わっただけで、接客が変わるのは難しいと思いすが、宿泊事業者さんは「ハフ」に参加すれば儲かるのでしょうか?

大瀬良:宿泊事業者さんには空室を提供してもらっているので、稼働率は確実に上がります。
また「ハフ」は、定額+コインという仕組みを持っています。コインはポイントのようなもので、今月は1度も使わなかった時に、未利用分をコインで翌月に還元する仕組みにしています。高級ホテルに泊まる時は、定額の上に何百コインかを上乗せして、支払いグレードを上げるという仕組みです。

館林:「アソビュー」には、いろいろなアトラクションがありますが、アトラクションを入れる上で課題はなかったのでしょうか?

山野:勿論いろいろありました。コロナ禍では、我々の方で潮目が変わる仕掛けをしました。営業自粛明けの時に感染者リスクを防止するため、敷地面積当たりの入場者数を制限し、感染対策を徹底的にやるためデジタルを活用しましょうと進めたことが、DXを加速させました。

館林:ホテルさんも「非対面でも良い」「非接触が良い」となったのが分かりやすかったようです。

山野:加藤さん、今はインバウンドの仕事はきついと思いますが、これからインバウンドの需要が回復していくという時を迎えて、何が課題だと思われますか?

加藤:館林さんや大瀬良さんと同じように、コロナで事業者さんの意識は変わったと思うのですが、コロナが収束したら、また「対面、リアル、デジタル苦手」と戻るのではないかと心配しています。
我々はBtoCマッチング事業なので、事業者さんのDXとユーザーさんのDXの両方を大事にしなければなりません。WAmazingのユーザーは香港・台湾・韓国・中国が75%となり、ユーザーのDXが進んでいます。中国のスマホ普及率は100%で、ガラケイは売っていません。しかし日本のスマホ普及率は75%で、どうしてもシニア層などにガラケイが残ってしまいます。スマホが当たり前のデジタルネイティブ層がやって来るのに、事業者さんがDXに抵抗感があると、それが一番のボトルネックになると思います。
お二人のお話をお聞きして、「便利になる」だけでなく、「ベネフィットもある」仕組みが必要だと思いました。
例えば、旅館さんの収入が宿泊料だけだと一本足打法となり経営が厳しいので、我々が提供する免税ECサービスを扱ってもらって、中居さんが日本酒をお酌した時に「この日本酒はウィチャットで買えます。しかも免税です」と案内し、購入していただければ、旅館さんにベネフィットが入るようにできます。
また無人チェックインも、旅館の人件費削減だけでなくて、売上アップにつなげたいと思っています。私は前職「じゃらん」で、その時に気がついた話ですが、「食事をする時に“舟盛り”3千円です」と言うとほとんど注文が入らないのですが。チェックイン時にご案内すると、食事まで2〜3時間のリードタイムがありますので、舟盛りを注文する人が増えると言う経験があります。例えばSQUEEZEの無人チェックインシステムでチェックインする時、旅館・ホテルで扱っている“舟盛り“や”エステ“のようなオプショナルサービスを、リードタイムをとりながら提案すると、売上アップにつながると思います。

山野:これまでの話をまとめると、3人とも「DXを推進する上での課題は、観光業界全体に抵抗感」にある。新しい提案を受け入れてもらって、しっかりDXを推進していきましょうと働きかけるとともに、ベネフィットも提供し、経営の安定に寄与することが大事だと言うことですね。
ここでチャットに書いていただいた質問、「グローバルの集客はどのようにやっていますか?」に、大瀬良さんと加藤さんにお答えいただき、「ITエンジニアとして就職したいが、どのような言語でキャリアを積めばいいですか」を館林さんにお答えいただきたいと思います。

大瀬良:私たちのグローバルな集客はまだ台湾だけですが、観光客に対するアプローチというより、デジタルノマドに絞ったアプローチになります。海外にも多くのコワーキングがあってコミュニティが発達し、横につながっているので、一つつながるとどんどん横につながっていくことを台湾で経験しました。コミュニティにつながっているインフルエンサーなどと話をしながら、未来を共有し合うように働きかけています。台湾はFacebookが盛んなので、Facebookの “いいね”をもらいながら広げています。

加藤:WAmazingは2017年2月の設立で、コロナで事業が動かなくなったのが2020年2月なので、3年間のサービスですが、主に香港、台湾のみで33万人が会員登録されています。なので集客にはほとんどお金をかけていません。理由は無料SIMカードを空港の無人マシンで配っているので、クチコミで広がっていることです。また「オウンドメディア」を持ち、多言語で2500本くらい発信しています。今は新しい記事の頻度は落としていますが、コロナ前は1ヶ月に200本ぐらい発信していました。例えば「日本、好き」で検索すると我が社の記事がGoogleなどのエンジンで検索され、そこから宿が検索されるなどの誘客を図る構造になっています。

山野:ありがとうございます。加藤さんのように空港にSIMカード販売機を設置するのは難しいですが、両者に共通するのは、「良質な体験によるクチコミ」の活用だと思います。

館林:観光業界は、これまでデータをあまり活用してこなかった業界なので、旅マエ、旅ナカ、旅アトの連携ができておらず、これをいろいろな事業者さんで連携すると面白いと思っています。
またエンジニアのマインドですが、ユーザーであるホテル・旅館のスタッフの方に対しても、エンジニアも現場に行き親身に対応を行なっています。現場で一緒に改善するようなサービス理解と、現場のスタッフさんの仕事の理解が重要です。このようなマインドを持つ人がエンジニアには求められると思います。

山野:実用的なアドバイスありがとうございます。
ここで時間がなくなってきましたので、お一人1分半程度で発言いただいて締めたいと思います。

加藤:皆さんと仕事の上で連携させていただきたいと思いました。旅行業界は一気通貫したものができていない。それはアナログ状態だからであり、DXにしない限りつながりません。
例えば、WAmazingのアプリを使いながら、ホテルに無人チェックインして、好きなものを買ったり、食べたりして、「ハフ」のネットワークで移動するようというように、アプリが連携することにより、ユーザーの観光体験を豊かにしていきたいと思います。またDXにするとログが残るので、観光客の行動データを地域に還元することも可能になります。

館林:インバウンドは必ず戻ると思っており、今やっているDXは、インバウンドが戻った時にこそ必要なので、非接触、非対面、事前チェックインはその前に進める必要があります。例えばチェックインでは、日本人がチェックインするより、大勢の中国人がチェックインする時、フロント前に溜まって大変な状態になりますので、今からそこを仕込まないといけないと思っています。そしてDXで連携して、新しい流れを作るのがポイントだと思います。

大瀬良:インバウンドだから特別扱いする必要はないと思っていて、日本人だろうが外国人だろうが、観光だろうが住まいとして利用しようが、ニーズが多様化する中で、マーケットをどう捉えていくのか、頭のタガを壊さないとダメだと思っています。このタガを外すという作業を皆さんと一緒に進められればと思います。

山野:私的には、今日は満足度の高いセッションができたと喜んでおります。
今日、登壇された企業が、今の状況を乗り越えて、次世代の観光産業を代表する企業になられることも確信いたしました。セッションをお聞きになられた皆さんも「この渦の中に入ってきてください」ということで締めさせていただきます。ありがとうございました。